OUTSIDE IN TOKYO
Mia Hansen-Løve INTERVIEW

「オリヴィエにも何度か取材させてもらってます」会話のとっかかりにと思わず口をついて出た言葉だが、ミア・ハンセン=ラブは、いやな顔とまでは言わなくとも、あまり反応しなかった気がする。そのオリヴィエというのは、今や『夏時間の庭』でフランス映画を支える監督アサイヤスのことだ。そんな彼のパートナーであることからすぐ引き合いに出されるのをあまり快く思わないのも分かる気がする。何しろ、出発点がアサイヤス映画の『8月の終わり、9月の初め』で女優デビューした後、『感傷的な運命』にも出演したのは確かだが、映画に目覚めた彼女は、その後カイエ・デュ・シネマで映画批評を展開するようになり、映画監督としては、『すべてが許される』に続く、2本目の長編であり、彼とは本質的にスタイルが違うのだから当然かもしれない。

そんな彼女が実力を示す2本目の正直となるのが『あの夏の子供たち』。いつも携帯電話が手放せない映画会社ムーン・フィルムの社長の映画プロデューサーは、資金の工面に苦労しながらも、いい映画を世に出すべく奔走する毎日だが、家族と一緒の時は、良き夫であり、良き父親のようだ。そんな彼に、ひとつまたひとつと難題が襲いかかり、いよいよ会社の経営さえ危ういことが分かる。片手に携帯電話を握りながら、それでも家族のバカンスに合流するそんな人が、突然、自らの生命を絶つ。そのあまりの呆気なさに呆然とするのは観客だけでなく、その大きな戸惑いに対処しなければならない妻と子供たち。なぜ…。そんな疑問は遺された者に重くのしかかる。

そんな映画の発端は、彼女自身の2作目を製作してくれるはずだったプロデューサーの、アンベール・バザンの突然の自殺だったということは彼女も語ってきた。そして映画は形を変え、彼の死、ひいては一人のプロデューサーの死について考える映画になった。映画は自殺をセンセーショナルなターニング・ポイントに奉りあげるのでなく、その出来事の前と後に、周囲の人がどう彼と共に生きるかを静かに見つめる。その視線はとても忍耐強く、監督の力強い意志を感じる。

「フランスでは、映画評論家は男性が多いのに、日本では女性ばかりでびっくりしたけど、男性がいてよかった」と笑いながら、少し疲れた様子の彼女に、質問をぶつけてみたところ、彼女もテンションがあがってきたのか、楽しそうに答えてくれた。

1. その人たちが生きた痕跡を、永遠に今の時代に残したかったのです

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Outside In Tokyo(以降OIT):今、自分がどこにいるか分かっていますか?というか、疲れすぎていませんか?
Mia Hansen-Løve(以降M):若干…、まあ、なんとか分かっている状態です(笑)。

OIT:しばらくこの映画の取材は続きますか?
M:そうですね。カンヌ映画祭で映画が紹介されてからはずっとプロモーションが続いていたのですが、妊娠/出産したことで、それに助けられた(笑)、というと変な言い方ですけど、自分が動けない分、様々な映画祭には俳優たちに行ってもらいました。

OIT:映画を作り終えた後に、それについて話すのは得意な方ですか?
M:話すこと自体は、まあ、話すことが好きなので(笑)、それ自体、苦ではないのですが、ただ、モノを作る人としては、よく言うのが、無口であればあるほど、その作品自体が物語るということも言われるので、非常に微妙ですね(笑)。

OIT:しかも、この映画は間接的とは言え、個人に関わる体験を元にしていますね。
M:そうですね。

OIT:では、映画のテーマというか、人物の背景については既に耳にしているのですが、それを映画化するまでの、そこまでのエネルギーはどう保てるのでしょう。
M:どうしても、というか、最終的に、この作品へ導いてくれたのは、本来あった、彼(知人の映画製作者)について表現したいという願望であり、それを留めておくことができなかったというのが、まず最初にあったことだと言えます。それと同時に、私が選んだというより、そのテーマが私をそう余儀なくさせたという方が、どちらかと言えば正確な言い方だと思います。それでこのテーマというより、むしろ最初の作品も今回の作品もそうですが、実在した人たちを描いているわけで、そういう意味では、自分の人生で出会った実際の人物の、その人たちが生きた生き様というか、痕跡というものをやはり残したかったんです。普遍的に、永遠に今の時代に残したいという気持ちがありましたね。

『あの夏の子供たち』
原題:Le Pere de mes enfants

第62回カンヌ国際映画祭《ある視点部門》審査員特別賞受賞

5月29日(土)より恵比寿ガーデンシネマ他にてロードショー

監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ
製作:ダヴィッド・ティオン
撮影:パスカル・オーフレー
編集:マリオン・モニエ
出演:キアラ・カゼッリ、ルイ=ドー・ド・ランクザン、アリス・ド・ランクザン

2009年/フランス/110分/カラー/ドルビーデジタル
配給:クレストインターナショナル

© Karine Arlot

『あの夏の子供たち』
オフィシャルサイト
http://www.anonatsu.jp/


フランス映画祭2010

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