OUTSIDE IN TOKYO
michael winterbottom INTERVIEW

カメラで何かを撮る時、見ている観客は、そこで写されるもの、そこに在るものを見つめることになる。人や生き物、風景や静物など、そこに在るものを見て物語を繋ぎ合わせていく。だがそれと同じくらい大事なのが、カメラに写っていないもの、またあえて写していないものの存在だ。マイケル・ウィンターボトムの『いとしきエブリデイ』では、母と4人の子供たちの日常が淡々と映し出されていく。学校へ行く、ごはんを食べる、ベッドに入る。そんな繰り返しの時間こそが、彼らにとってかけがえのない日常だ。だがそこにはない存在がある。それは彼らの父親だ。実際に5年をかけて5年という年月を描いたこの新作で、ウィンターボトムはそこにいない父の存在、つまり家族の中の彼の不在を描いているのだと話す。

ロンドンの北東にあるノーフォークに暮らす家族は、何らかの罪を冒した父が5年の刑で入所している刑務所へのたまの面会以外は会うことがない。囚人は予告なく様々な場所の刑務所を移動させられ、家族はその度に、たいていは行きにくい場所にある刑務所を訪問することになる。もちろん、家族が面会しやすいように地元に置いておくなどという恩情もない。そこで母は子供たちの手を引き、バスや電車を乗り継ぎながら、父に会わせるために奮闘する。もちろん、一家を支えるはずの父/旦那がいないため、生きていくために彼女が生活を支えなければならない。そこにあるのはひたすら待つ暮らしだ。旦那の帰りを待つ妻。父の帰還を待つ子供たち。家族が面会に来るのをひた待ちにする父親。

だが時間は確実に過ぎていく。子供たちは黙っていても大きくなるし、それぞれの寂しさも募っていく。待つという行為がある限り、新しくリセットすることもできない。それでも妻/母の寂しさを埋める誰かも現れ始める。

ウィンターボトムは確かに5年をかけてこの作品を撮った。だがその全てを注ぎこんだわけではない。ノーフォークに子供たちを見つけ、彼らの家を1年に2回ほどクルーと共に訪ねた。家にいる母親役の、かつて『トレインスポッティング』(96)で脚光を浴びたシャーリー・ヘンダーソン、刑務所に入っている父親役の常連俳優のジョン・シムを起用し、子供たちに会わせた。そして子供たちもある設定に従って演技をしながら、リアリティーの曖昧な綱の上を渡り、その“家族”の子供たちに成り切る。

何も起きない日常が大事だというウィンターボトムは、言葉で表現できないもの、説明できないものを見せるために、『ひかりのまち』(99)でもコラボレートしたマイケル・ナイマンに音楽を依頼した。少し主張しすぎるくらいの音楽が、彼らの溜め込んだ感情をほんの少し露わにしていく。ドキュメンタリーのリアリティーを持つフィクションも数々試みてきたウィンターボトムだが、ここで彼は、実際の年月のリアリティーがどれほどのインパクトを残すのかを探求しているようだ。それがたとえ、設定であっても、作り物であっても、必ずしも正確でなくても、ウィンターボトムは、そこに立ち現れる感情がリアルであれば、ある意味、手段を問わない。5年という時間は、演技をしていたはずの子供たちにも、何かしらの“現実”になっているはずだ。そこでウィンターボトムがこの映画で試みた時間について聞いてみた。倍速で話す彼だが、実はあまりインタビューを好まない。口ごもり、最後まで文章を終わらなかったりするなどと書かれてきた。だが僕が取材させてもらう時は、いつも言葉を淀ませることなく、ものすごいスピードで語っていく。マシンガンとはまさに彼のことを言う。速記者も追いつけないスピードで、言いたいこと、伝えるべきことを的確に語っていく。こちらの質問の誘導にも、笑いながら、答えてくれる。だから今回もこの内容でも、実際に話している時間は通常の1/3だと想像しながら楽しんでいただけると彼のリアリティーも伝わるかもしれない。

1. 描きたかったのは、人が長い不在をどう生き残ることができるのかということ

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Q:今作の経緯を教えてください。
マイケル・ウィンターボトム(以降MW):自分からフィルム4のテサ・ロスに企画を持ち込んで、僕の提案は5年で7本を製作するものだった。そして彼女の答えはNO(笑)。でも5年で1本ならということで、1本の劇映画で5年の歳月をかけて描くことにした。

Q:刑務所にいる男とその家族に焦点を当てた理由は?
MW:描きたかったのは人が長い不在をどう生き残れるか。父親は刑務所に服役している。現在多くの家族が何らかの理由で離れて暮らしている。離婚、軍隊、服役…。離別が家族の関係にどんな影響を与えるか。妻への愛、子供への愛が長い不在を生き残れるか。僕の希望として生き残るのは可能だと描くいい機会に思えた。長い撮影でどれだけ長い不在かも実感できた。それにどう終わるか分かっていても、出演する子供たちが最後の構成に辿り着くまでどのように関係を作り上げていくかが大事だった。

Q:本当の家族という子供たちはどう見つけたのですか?
MW:運がいいとしか言えない。ノーフォークというイギリスの田舎で撮りたいと考えていて、学校を訪ね歩いて10人に絞った。長く離れた父との対比としても大事な役だが、ショーンとの出会いは素晴らしかった。でも家族の4人とも良くて、家に行ったら家もぴったり。学校も協力的で撮影に使うことにした。だからショーンが決まった時点で他も自然と決まっていった。

『いとしきエブリデイ』
英題:EVERYDAY

11月9日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショー

監督:マイケル・ウィンターボトム
製作:メリッサ・パーメンター
製作総指揮:アンドリュー・イートン
脚本:ローレンス・コリアット、マイケル・ウィンターボトム
音楽:マイケル・ナイマン
出演:シャーリー・ヘンダーソン、ジョン・シム、ステファニー・カーク、ロバート・カーク、ショーン・カーク、カトリーナ・カーク

(c) 7 daysFILM LIMITED 2012 ALL RIGHTS RESERVED.

2012年/イギリス/90分/カラー/ビスタサイズ/デジタル
配給:クレストインターナショナル

『いとしきエブリデイ』
オフィシャルサイト
http://everyday-cinema.com
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