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OLIVIER ASSAYAS INTERVIEW
オリヴィエ・アサイヤス 『クリーン』『ノイズ』、そして、現在撮影中の新作について語る
現代の失われるつつあるフランスの三世代家庭の一夏を描いた『夏時間の庭』(2008)、本人がプログラムした3日間に渡る音楽フェスのドキュメンタリー『ノイズ』(2006)、そしてマギー・チャンがカンヌで主演女優賞を受賞した『クリーン』(2004)と、立て続けに発表されているフランスの注目監督、オリヴィエ・アサイヤスは、映像と音楽の幸福な融合に非凡な才能を発揮しながら、これまで同様、日常の人間関係の裏にひそむ、世の中の見えない縮図を露出させてきた。そんな彼に電話で話を聞くことができた。ちょうどベイルートでの撮影の間の中休みだった。そして撮影中なのは、ベネズエラから世界的なコネクションを築いた悪名高きカルロス・ザ・ジャッカルの映画だ。彼の名前を知らない人は多いだろう。チェ・ゲバラは革命の闘志として死に、その後も英雄として語り継がれるが、カルロスの評判は悪名高きテロリストに終始する。だがその世界的なコネクションと啓蒙活動はチェと重なるところがあり、ある意味、中南米から飛び出した、時代の陽と陰のような存在だ。話は製作中なだけに、カルロスの話から、徐々に『クリーン』の話へ。『イルマ・ヴェップ』以来の、元妻マギー・チャンの主演作とあって、その話は素通りできないが、この映画は女優マギーに捧げる世界であると同時に、監督のよく知るインディー・ロック・シーンを舞台にしている。かつて音楽に夢を抱きながらも挫折し、オーバードーズした夫の死をきっかけに、夫の両親と共に、離れて暮らしていた一人息子との地に足のついた生活を取り戻したいと願う中国系の主人公エミリー。わがままで気の強い女性が挫折を繰り返しながらも立ち直ろうともがく様が描かれ、監督いわく、同時に僕らの許しの許容力も試されている。音楽はブライアン・イーノ、マギー自身が歌う曲はマジー・スターのデヴィッド・ローバックが作曲。その他、トリッキーやメトリックなど、ミュージシャンが多数登場するのもアサイヤスらしいが、ベアトリス・ダル、ニック・ノルティ、ジャンヌ・バリバールなどの抑制された演技も光る。一見多様に見える彼の作品に流れる一本の糸が彼の話の中から見えてくるようだ。

1. 現在撮影中の新作、ベネズエラの革命家カルロスの人生を描く映画について

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ちょうど新しい映画の撮影で忙しいようですね。
いや、撮影はもう数ヶ月続いていて、今週はちょうどオフで、また来週から撮影が再開するんだ。

それは同じ映画ですか?
そうなんだ。でもわりと大きなプロジェクトで、90分×3の、3部構成のテレビドラマで、その上で劇映画になるものなんだ。

えっ、テレビドラマと映画を一緒にですか?
そうなんだよ(笑)。

それがベイルートで撮影するもの?
そう。すでにベイルートで数週間撮影してきて、7月にもう3週間撮影する。

もう少し詳しく話せますか?
うん、もちろん。映画はテロリストのカルロスの人生を追ったものだ。

えっ、その企画が実現するんですね。
そうなんだよ!

ベネズエラ出身の革命家の(本名イリイッチ・ラミレス・サンチェス、コードネームのカルロスで知られる。通称カルロス・ザ・ジャッカル)ことですね?
そう。ほとんどの撮影を、パリとドイツ、あとブダペストとウィーンでして、その後レバノンに移動して中東のシーンを撮っている。レバノン、イエメン、リビア、シリア、イラク等の設定のシーンをね。

それはかなり大がかりな企画ですね。
まあね。確かにとても大きな企画だ。時代ものだからとても複雑だし、歴史的なリサーチも含めて、特定の時代を描いているからとても大変だよ。

いろんな言語が出てくるのですか?
そう、違う言語が飛び交ってる。登場する人たちはみんな自分の言葉で話すけど、大半は英語で、あとはフランス語、スペイン語、ドイツ語、アラビア語で話す人もいる。基本的に国際色豊かなキャストを起用しているから、その状況で信憑性のある言葉を使っている。例えば、カルロスがある言語を話せない時は、目の前の人と英語でコミュニケーションをとる。それでも彼はたくさんの言葉を話せた。もちろんスペイン語は完璧だし、英語、フランス語、それに多少のアラビア語とドイツ語も話せたらしい。だから彼を演じる俳優は、その全ての言葉を使えなければならないんだ。

今までで一番大規模な映画ですか?
いや、最終的に撮ろうとしているのは3本分の映画だから、全体の予算ってことを考えると『感傷的な運命(La Destinee Sentimentale)』という、もう10年前くらいに撮った時代ものと同じくらいだろう。『感傷的な運命』はとても長尺だったけど1本の映画だった。でもこの映画は3本から成り、予算も3で割らなければいけないんだ(笑)。とは言っても、予算は大きい方だけどね。

テレビと併せての3部作ということで、撮影方法もふだんと変えましたか?
いや、特に変わらないよ。ただ、僕が対処しなければいけない大きな問題は、ふつうの映画よりも、より観客の注意を引きつけなければならないことだ。様々なスタイルを駆使したり、適応させたり、常にアプローチを考え直していかなければならない。映画全体を同じテクニックやペースやスタイルで通すわけにいかないんだ。そうなると、とても単調になってしまう可能性がある。常に自問自答しながら、映画を作り直していかなければいけないし、いろんな意味で、新鮮な燃料を注ぎ続けなければならない。それは僕がこれまで対処しなくて済んできた問題で、新しいことだ。それはどんな映画作家にとっても新しい体験になるはずだけど。とてもユニークなプロジェクトだからね。

『クリーン』
原題:Clean

8月29日(土)シアター・イメージフォーラムにてロードショー

監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
製作:ニヴ・フィッチマン、グザヴィエ・ジャノリ、ザヴィエル・マーチャンド
撮影:エリック・ゴーティエ
編集:リュック・バルニエ
美術:ウィリアム・フレミング、フランソワ=ルノー・ラバルト
衣装:アナイス・ロマン
キャスティング:ジョン・バカン
出演:マギー・チャン、ニック・ノルティ、ベアトリス・ダル、ジャンヌ・バリバール、ドン・マッケラー、マーサ・ヘンリー、ジェームズ・ジョンストン、ジェームズ・デニス、レミ・マーティン、レティシア・スピギャレリ、ジョアンナ・プレイス、トリッキー、デヴィッド・ローバック、リズ・デンスモア、エイミー・ハインズ

2004年/フランス・イギリス・カナダ/35mm/111分/カラー/シネマスコープ/ドルビーSRD 配給・宣伝:トランスフォーマー

写真:© 2004 − Rectangle Productions / Leap Films / 1551264 Ontario Inc / Arte France Cinema

『クリーン』
オフィシャルサイト
http://www.clean-movie.net

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