リチャード・ニクソンを辞任に追い込んだ米調査報道の金字塔「ウォーターゲート事件」で、記者に”内部情報”を伝えて報道を然るべき方向に導いていた”ディープ・スロート”の正体がFBI副長官マーク・フェルトであったという事実が、雑誌「ヴァニティ・フェア」で明かされたのは2005年のことだった。本作『ザ・シークレットマン』の企画は、その2005年にスタートし、当初はジェイ・ローチが監督、主演はトム・ハンクスに白羽の矢が立てられていたのだという。本作で監督を務めたピーター・ランデズマンは、数々の調査報道とフィクションの書き手としての腕を買われ、当初は脚本家としてこの企画に携わり始めた。
ここで、ピーター・ランデズマンの経歴を紐解いてみると、ニューヨーク・タイムズ・マガジンやニューヨーカーなどで報道記者や従軍記者として活躍、ルワンダやコソボ、9.11以降のアフガニスタン、パキスタンなどの紛争を伝える記事、武器輸出や人身売買に関する調査報道などで知られ、雑誌業界のピューリッツアー賞といわれる最優秀国際人報道賞を2度受賞、さらには画家や小説家としても活躍、1996年に発表した小説「The Raven」は優秀なフィクションを書いた新人に与えられるスー・コーフマン賞を受賞している。傑出した経歴の持ち主である。最初に映画のキャリアが結実したのは、自らがニューヨーク・タイムズ・マガジンに寄稿した記事を基に脚本を書いた『The Trade』(07)であるという。本作『ザ・シークレットマン』はそれ以前に始まった、10年越しの企画ということになる。
ピーター・ランデズマン監督の長編デヴュー作は、2013年公開の『パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間』、この作品も実話に基づいた作品だが、製作には、またもや、トム・ハンクスが名を連ねている。2015年に公開されウィル・スミスが主演した2作目『コンカッション』もプロ・フットボール選手と慢性外傷性脳症との関連を発見した医師の実話に基づいた作品であり、インタヴューで触れることになる現在進行中の2作品を含めて、全てが実話に基づいた作品ということになる。ランデズマンの経歴から自然な流れで築かれてきたフィルモグラフィと言えるだろう。
『ザ・シークレットマン』は、米国大統領府や議会、CIA、司法省、いずれの機関とも独立した捜査機関として存在していることで、その公正さ、公益性が担保されてきたFBIで、J・エドガー・フーヴァー長官の下でナンバー2として長年勤め上げてきた高潔の士マーク・フェルト(リーアム・ニーソン)が、FBIの独立性を脅かし、操作の妨害を企むニクソン政権の腐敗を目の当たりにして、自ら”内部告発者”として暗躍する実録政治ドラマだが、トランプ政権下の今、敢えてニクソン政権の腐敗に光を充てることで、現在進行形のアメリカ合衆国の危機をリアリティ豊かに浮き上がらせている。反トランプを意図して作られた報道の自由応援映画であるスティーブン・スピルバーグ監督の新作『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(17)公開前に、是非見ておきたい作品である。
1. 映画監督になるために映画学校で教育を受けようとは考えず、 |
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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):監督はジャーナリストとしてキャリアを築かれて、それから映画を撮り始めたということですが、映画の方に来た理由といいますか、そういうものがあれば教えていただけますか? ピーター・ランデズマン:元々画家だったので絵を描いていて、画家としてキャリアを歩んでいくつもりでいたんだ。ジャーナリストとして活動した後は、小説も書いたりして、一日中朝から晩まで書くという生活を送っていた。ジャーナリストになって書くということは色々な壮大なストーリーを語るということだけど、今度はそうしたストーリーをビジュアルを使って語っていくという形に変化していった。だから僕にとっては、一巡して原点に戻って来たという感覚がある。映画監督になるために、ちゃんと映画学校で教育を受けようとは考えず、自分なりの方法でこういう道を辿って来たという感じだね。
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『ザ・シークレットマン』 英題:MARK FELT THE MAN WHO BROUGHT DOWN THE WHITE HOUSE 2月24日(土)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー 脚本・監督・製作:ピーター・ランデズマン 原作・共同製作:ジョン・D・オコナー 製作:リドリー・スコット 撮影:アダム・キンメル プロダクションデザイン:デヴィッド・クランク 編集:タリク・アンウォー 音楽:ダニエル・ペンバートン 出演:リーアム・ニーソン、ダイアン・レイン、マートン・ソーカス、トニー・ゴールドウィン、アイク・バリンホルツ、ジョシュ・ルーカス、マイカ・モンロー、マイケル・C・ホール、トム・サイズモア、ジュリアン・モリス、ブルース・グリーンウッド、ノア・ワイリー、エディ・マーサン © 2017 Felt Film Holdings.LLC 2017年/アメリカ/103分/カラー/DCP5.1ch/スクリーンサイズ 1:2.0 配給:クロックワークス 『ザ・シークレットマン』 オフィシャルサイト http://www.secretman-movie.com |
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