OUTSIDE IN TOKYO
Rithy Panh INTERVIEW

リティ・パニュ『消えた画 クメール・ルージュの真実』インタヴュー

3. コード化された映画じゃなく、そういうものから解き放たれた、自由な映画が好きです

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OIT:商業映画というか、プロダクトとしての映画という考え方だと難しいですよね。
RP:『ゼロ・グラビティ』という映画がありますけど、『ゼロ・グラビティ』を作ろうと思えば作れますよ。テクニックを使ったパフォーマンス映画ですよね、あれは。でもストーリーを全然覚えてないんですよ、僕自身が。だからあれは映像の浪費に値します。本当に流してしまって、何も残らない。結局のところ人間の記憶であったり、人間の思考というものを回避する。そんな現象に加担していることになります。SF映画だったり、宇宙に行ったり。キューブリックの映画の方が『ゼロ・グラビティ』よりもよっぽどいいですよ。何であんなに騒ぐ映画なのかはよく分からない。700万ドル、800万ドル使ったとか言われても、よく訳が分からない。映画的にも哲学的な視点は全く持ってない作品ですよ。

OIT:逆に監督の中ではどういう作品を支持しますか?
RP:もちろんSF映画でも作ったっていいんですよ。ドキュメンタリーを作ってもいい。ただ、必ず人間が存在する映画でないと私はダメだと思います。それでも観てください。もちろん、駄作でも観る必要はありますよ(笑)。

OIT:監督が観て、役に立った駄作はありますか?
RP:駄作は駄作だから役に立たないね(笑)。

OIT:記録するということについて、監督はどう考えていますか?
RP:でもそれは、僕にそういう欲求があると言ってしまうのはちょっと生意気かなと思うので。作り終わってから言うのではなく、作る前に言うのはいいんですけど。一回カメラを回してみて、それでこれは残す価値があるかどうかというのをその時点で考えないといけないのです。10本ぐらい作品があったとして、4本か5本くらいは記録として残す価値があるもので、それぐらいあったらいい方だ。半分くらいあれば。でも全作品をそういう、残す価値のある作品に仕上げている監督なんていうのは、とても偉大な監督と呼ばれる人で、非常に少数だと思います。タルコフスキーなんかは10本ぐらいしか撮ってないですよね。カサヴェテスも少ないですよね。5~7本ですかね。多作の映画作家の中には、ダメな人はいっぱいいますね。『レイジング・ブル』(80)は素晴らしい作品ですが、『華麗なるギャツビー』(13)は派手な駄作です(※『華麗なる~』は、バズ・ラーマン監督作品)。(スコセッシ)監督自身は偉大な監督なのに、やっぱりちょっと乱作し過ぎたのではないか。『ヒューゴの不思議な発明』(11)もあまり好きではない。『タクシードライバー』(76)の方がよほど好きです。『タクシードライバー』は社会的、政治的な視点で、アメリカ社会を描いていて素晴らしい作品だと思います。

OIT:その違いは何なのでしょう?
RP:子供の映画を作るのはいいけど、そこにはマジカルな何かが発生しなければならない。それは非常に難しいことです。観客、とりわけ子供に対してすごくマジカルなもの。でも『ヒューゴの不思議な発明』の場合はそれが上手くいっていなかった。『タクシードライバー』はまたちょっと別で、もっと大人用の映画ですけど、社会的に批評眼みたいなのがあると僕自身はやはり興味を持ちますね。スコセッシは好きですが賛美するような映画監督でもないですね。今村昌平などは年をとるに連れて段々と作品が若くなっていく。もっとシンプルになっていく。それが本当に観ていて分かる。明らかに、よりピュアになっていったのが今村でした。作品を観ても若いなって。アラン・レネもそうですよね。年をとるにつれて段々と作品が若返っていく。ピカソも一緒ですよ。本当に見てすぐ分かるほどに。詩的な作品に向かっていきますよね。晩年にそういう純化した形に辿り着く巨匠もいます。恩寵のようなものを今村の晩年の作品に感じます。年とるのが下手な映画監督は、あー、なんか重いなという感じの映画監督もいます。映画監督が年をとるに連れて子供時代を取り戻すという、そういう映画監督が好きです。イノセンスへ帰っていくような。その視点の中にとてもポエティックなものがある、そういう監督が好きですね。嫌いな映画は年をとるにつれて段々と重たく、ややこしくなっていくもので、僕は好きではない。今村の最期の2~3作はやはりすごく自由を感じるんですね。レネもやはりそうです。彼らは自由だなって感じます。興味がありますね、そういうキャリアの進み方に。段々と自由を勝ち取っていき、大胆に勇気を持ってやれるようになる。ルールにガチガチに縛られるのではなく、高度があるけれどそれを破ってしまう自由さがある。私が好きな映画はコード化された映画じゃなく、そういうものから解き放たれた、自由な映画が好きなんです。完璧主義な映画は、なんかポエジーを失っているので好きではないですね。カメラワークが非常にややこしい。すごいなと思うようなカメラワークかもしれませんが、それが何の役に立っているんだろうと思います。


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