OUTSIDE IN TOKYO
JEAN-PIERRE & LUC DARDENNE INTERVIEW

ロベール・ゲディギャン『キリマンジャロの雪』インタヴュー

2. (労働運動に身を投じてきた)ミッシェルが背負った30年の闘いの歴史を
 (若い)クリストフは知らない

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OIT:それは大変なことですよね。監督はこの映画でとてもポジティブな答えを(観る)我々に提示してくれているけれども、それでも大変ですよね。そこのコミュニケーションの部分は。
RG:そう、難しいと思います。でも個々人の行動一つ一つで、たくさんの例を作ることが前例になると思うんです。だから個々人の中で何かが変わり、変化した時に、それが何かの始まりになると思っています。例えば、歴史上の色々な法規、あるいは革命でもいいんだが、そういったものの発端となってきたのは個人の行動だったと思うんです。

OIT:自分たちが苦労してきたものを守りたい。その分だけは守りたいという台詞が劇中にありますが、自分の周りの家族とかからもそんな声が聞こえてきたりしたことが記憶にあって、それがとても身近に、はっとさせられたというか、引き込まれる要素でもあったのですが。
RG:とても大変だった時期に、一生懸命仕事をし、がんばりながら、やはり少しずつ自分たちの財産を築き上げ、資産を築き上げている人たちがほとんどだと思うんです。だからそういう人たちが自分のものを守るためには、やはり広い意味での連帯というのをそこで切って、友人であったり家族であったり、小さな単位の繋がりを大事にする方向にどうしても行ってしまいます。でも広い目で見た時に、果たしてそれで十分なのかどうかという問題もあるわけです。

OIT:そうですね。監督自身は、監督という職業を離れた一個人として、このような直接的な体験をしたことがあるのですか?連帯というところだけでなく、個人個人が離れてしまうという状況の話ですが、監督から離れたところで、個人的な実体験があったのですか?
RG:それはないです。要するに、映画に描くことは自分自身の経験も入るけれども、それ以外に、例えば自分の友人とか知人とか、そういった人たちの経験みたいなものも映画の一つのモチーフになるし、あるいは新聞記事で見たちょっとした小さな記事とかそういったものが全て、やはりそんな全てからインスパイアされたものが映画の色々な部分を埋めていくことになると思うんです。ただ、それはインスパイアされるということにほとんどの場合は留まって、そこからストーリーの中で膨らませたり、縮ませたりしながら作品の内容を埋めていくものだと思うんです。だからそこにある話は本当にリアリティのあるものではあるけど、そうした出来事が実際に起こったかというとそうとも言えないわけです。

OIT:ミシェルの体験した労働運動がどのようなものであったかを少し説明して頂けますか?
RG:おそらく、ミッシェルは若い頃からずっと労働運動に身を投じてきた人だと思います。例えば、デモ行進、ストライキ、集会など、全ての労働者たちの闘いの中で色々な経験を積んできた人だと思います。クリストフはそのことを知らない、だからクリストフには、あのこじんまりとした(ミシェルの)家に、彼の自動車、それに彼に備わるステータスなどは見えているけど、まあ、それさえ富める人たちに比べればとてもささやかな冨なわけですが、でもクリストフにしてみれば、そのささやかな冨を築き上げるための30数年間で彼らがどのように闘ってきたかは全く知らないわけです。そこが問題なのだと思います。30年の闘いの歴史、ミッシェルが背負った闘いの歴史をクリストフが知らないことです。

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