OUTSIDE IN TOKYO
Roberto Ando INTERVIEW

ロベルト・アンドー『修道士は沈黙する』インタヴュー

3. ランベール・ウイルソンが演じた人物は、
 実は、ローマン・ポランスキーが演じる予定だったのです

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OIT:“鳥”のモチーフも面白かったですね。鳥は初めは絵本に登場して、最後には“実体化”してしまうわけですが、あの鳥のアイディアというのはどこから来たのでしょうか?
ロベルト・アンドー:あのアイディアというのは、修道士が本を読んでいると大臣たちがやってきて話しかけるわけですが、彼は話したくないので、“鳥”の絵を描く訳ですけれども、実は何の意味もなくて、大臣たちをからかうために絵を描いたわけですね。それに対して大臣たちは、何かの記号かもしれない、と大真面目に意味を探し始めるわけです。もっとも、修道士はずっと鳥の声を録音したりしているといった事も背景にはあるわけですが。この映画には2種類の鳥が出て来てます。ひとつはアマゾンに生息するウイラプルーという鳥で、この鳥は音楽家が研究対象にするくらい歌が上手い、バッハのスケールと同じスケールで歌うのです。もうひとつは、ヤツガシラという鳥で、彼が絵で描く鳥です。それが、最後の場面に出て来て、それと共に修道士は消えてしまう。何も修道士が超自然の力を持っているわけではなくて、たまたまそこに鳥が現れた、その鳥が来たことを利用して彼が消えただけのことなのです。あれは“奇跡”なのか?という風に、あのシーンを見る人もいるのですが、何もそんなことを意図したわけではありません。修道士については、かつて数学者であったこと以外は、彼の経歴なども、何も知らされていませんが、彼は現実に存在する人間であって、何か超自然的な存在として描いたわけではないのです。

OIT:映画の終盤にランベール・ウイルソンが演じるロシェ(ダニエル・オートゥイユ)と親密な関係にある友人(キス)が登場します。あの人物の登場にはどのような働きがあったのでしょうか?
ロベルト・アンドー:あの人物は、元々別の人間が演じる予定だったのです。別の人間というのは、監督のローマン・ポランスキーなのですが、彼とは直接会って契約までしていたのですが、その後で過去の女性との問題が暴露されて裁判になり、彼はポーランドへ行き来しなければならなくなった、彼が撮ろうと準備をしていた映画も撮れなくなったし、この映画にも出る事が出来なくなったわけです。それで、ランベール・ウイルソンに打診したのです。以前はこの人物はもっとグレーな感じの人物像で、スピリチュアルなところがあり、シニカルで、経済に対する厳格な哲学を持っている人物として描いていました。それがランベール・ウイルソンに変わったことで様々な変更を余儀なくされた。まず彼は自らゲイであることを公言している俳優ですから、その点を役柄に反映したということ。そして、彼はロシェが病いに冒されていることを知らなかったという設定ですから、ロシェの身に起きたことに深く絶望する、そして、修道士に最後に何を言ったのかと訊くのです。彼の場合は、他の大臣などと違って、仕事上のことを訊きたがるのではなく、極めてプライベートな人物として、そこに存在しているわけです。

OIT:演じる役者が変わったので、役の中身を変えたということですが、そうしたことは監督の作品ではしばしば起きることですか?
ロベルト・アンドー:今まではそんなことはなくて、初めてのことです。当初は、ポランスキーに演じてもらおうと思って書いた役でしたから。彼が映画に出れないとわかった時点で色々と考えてみましたが、彼の代わりを演じられると思える人間はひとりもいなかった。それならば、ランベール・ウイルソンに演じてもらおうと思い、彼は彼で素晴らしい俳優ですし、ポランスキーが持ち得ない美しさを備えているし、フラジャイルな面を表現出来るだろうと思ったので、役の人物像を書き直したわけです。



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