OUTSIDE IN TOKYO
Roberto Ando INTERVIEW

バルト海に面するドイツの高級リゾート地ハイリゲンダムの瀟洒なホテルに、G8財務相会議に出席する8人の財務大臣が集っている。そこに人気ロック・ミュージシャンのマイケル(ヨハン・ヘンデルベグル)、絵本作家のクレア(コニー・ニールセン)と供に、厳格な戒律を特徴とするカルトジオ会の修道士サルス(トニ・セルヴィッロ)が招かれる。本会議前日に自らの誕生日を祝するという名目で、この非公式の会合のお膳立てをしたのが、国際通貨基金(IMF)の専務理事ロシェ(ダニエル・オートゥイユ)である。天才的なエコノミストとして名を馳せるロシェは、(現実に起きたギリシア危機を想起させる)多額の負債を抱える国家に対して懲罰的な制裁を望む、ドイツと国際金融機関を中心とした勢力に対して、”現在を潰し、将来に譲ること”を本質とする金融業に従事してきた自らの過去に対する贖罪の意味も込めて、”赦すことの闘い”を仕掛けようとしていた。そのロシェに影響を与えたのが、修道士サルスの著書だった。ロシェはサルスをこの会合に招き、最後の”告解”(原題:Le Confessioni)をする覚悟を決めていたのだ。

現代社会における”資本による強奪”というリアルな主題を正面から扱い、ネオレアリズモの気高い精神を引き継ぐ本作は、ロシェがこの告解の後に謎の死を遂げてから、ミステリー映画の色合いを一層強めていくだろう。この高級ホテルに宿泊する誰もが覗き/覗かれ、『私は告白する』(53)のタイトルがあからさまに台詞の中で引用され、告解で聞いたことは決して口外してはならない、というカルトジオ会の沈黙の掟を守るサルスは、ヒッチコックの映画さながらに、自らが嫌疑を立てられる立場に追いつめられていく。この辺りから、窮地に立つサルスの手助けをする絵本作家クレアを演じるコニー・ニールセン、そして、経財相の大臣連中の中でも懲罰的経済政策に疑問を抱いているイタリア経財相を演じるイタリアの名優ピエルフランチェスコ・ファヴィーノの存在感が増してゆく。ドキュメンタリー映画『大いなる沈黙へ グランド・シャルトリューズ修道院』(05)でもそのストイックな生活の様子が捉えられていた”カルトジオ会”の修道士を演じるトニ・セルヴィッロの素晴らしさは、もはや”人間”の範疇を超えて、ヤツガシラやロットワイヤーのような”自然”(超自然ではない)の領域に近づいているようにすら見える。

官能的な美しい映像と一風変わったミステリー感覚が記憶に残る、アナ・ムグラリス、ダニエル・オートゥイユ共演作『そして、デプノーの森へ』(04)、今作同様、脚本アンジェロ・パスクイーニ、撮影マウリツィオ・カルヴェージ、主演トニ・セルヴィッロと組んだ前作『ローマに消えた男』(13)に続いて、現代的な秀作ミステリー映画を撮り続けているロベルト・アンドー監督のインタヴューをお届けする。

1. この映画はドイツを糾弾しているところがありますから、ドイツが共同製作に入っていません

1  |  2  |  3  |  4



OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):『修道士は沈黙する』を拝見して、表面的にはシルクのように滑らかな美しい映像でしたが、その内面には、ネオレアリズモの精神が生きた素晴らしい作品だと思いました。前作『ローマに消えた男』(13)同様、アンジェロ・パスクイーニと共に脚本を作られていますが、どのように共同作業を行いましたか?この作品の成り立ちについて教えてください。
ロベルト・アンドー:ジョセッペ・トルナトーレのプロデュースで撮る予定の作品があって、それはイタリアのある新聞社のことを扱った反マフィア映画だったのですが、撮ることが出来なくなってしまった。しかし、その時にパスクイーニと出会って、それ以来、一緒に仕事をしています。

OIT:それは、テーマ自体に問題があって撮れなくなったということなのでしょうか?
ロベルト・アンドー:というよりは、プロデューサーの方向性が変わったので、撮ることをやめたのです。その後、彼はRAI(イタリア国営放送)に移り、RAI自体には何も問題はないので、今後、また撮る可能性も残されています。

OIT:『修道士は沈黙する』では、グローバルな金融機関の存在を描いていて、それに痛烈な批判を浴びせています。そのこと自体、映画としては珍しいことだと思いますが、そのような内容によって、映画の資金繰りに苦労をするということはなかったのですか?
ロベルト・アンドー:確かにそういう側面はありました。この映画では、ドイツが共同製作に入っていません。フランスが入っているのに、ドイツは入っていない、この映画はドイツを糾弾しているところがありますから、ドイツが参加していないのだろうと思っています。アメリカでは、エンターテイメントとしてお金についての映画が撮られることがありますね、オリバー・ストーンの『ウォール街』(87)などのように。ただ、経済についての映画でエコノミストが主要な登場人物として描かれる、という意味では非常に稀な映画だろうと思います。


『修道士は沈黙する』
英題:THE CONFESSIONS

3月17日(土)より、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー

監督・脚本・原案:ロベルト・アンドー
脚本・原案:アンジェロ・パスクイーニ
撮影監督:マウリツィオ・カルヴェージ
出演:トニ・セルヴィッロ、ダニエル・オートゥイユ、コニー・ニールセン、マリ=ジョゼ・クローズ、ランベール・ウイルソン、モーリッツ・ブライプトロイ

© 2015 BiBi Film-Barbary Films

2016年/イタリア、フランス/108分/カラー
配給:ミモザフィルムズ

『修道士は沈黙する』
オフィシャルサイト
http://shudoshi-chinmoku.jp
1  |  2  |  3  |  4    次ページ→