OUTSIDE IN TOKYO
TALK SHOW

佐藤優『マルクス・エンゲルス』トークショー

2. スターリン主義に対するラディカルな批判がある映画

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だから多分、日本共産党なんていうのは、共産党員の人がこの場にいたらごめんなさい、見ていてあんまり愉快な感じがしないと思うのね。それから、新左翼系の人がいるにしても、反スターリン主義を掲げた中核派なり革マル派なり、あるいは、ブント(共産主義者同盟)も実態は超エリート的な党、これは共産党って名乗らない同盟と名乗ろうが、それが労働者を引っ張って行くという考え方です。それは率直に言うと、読売新聞の渡辺恒雄社長なんていうのは、元共産党で今は安倍政権のブレーン中のブレーンだけど、発想は前衛党だよね、スターリン主義だと思う。こういうスターリン主義に対するラディカルな批判がある。

あともう一つ、この場に来ている人は日本のマルクスに関するものを結構読んでる人もいると思う。例えば東京大学の先生を長いことやると共に、ブントの理論を語った廣松渉、この人は“本来の人間”という考え方は間違えているよ、マルクスはそういうことは考えていない、関係から“本来の”みたいなものが生まれてくる、難しい言葉で言うと、疎外論じゃなくて物象化論だっていうことを言ったんだけど、それに対する強力なアンチでもあって、この映画は非常に強力な疎外論に基づいている。

“本来の人間”っていうものがあるはずだ、そういったものを措定して、今私自身が人間的じゃない世界の中にいるから、いくら個人で人間でありたいと思ってもそうはならない。エンゲルスが、自分は人間でありたいと思っても思想家であるということと人間であるっていうことは両立できない。あるいは主観的に戦っているつもりであるワイトリングのような人、相当の弾圧を受けて足にあれだけの痣が残っている人でも、自己絶対化の誘惑に陥って、自分だけが正しいんだっていうことで、本当に人間的な、疎外された人間を解放することができない。

それで、この映画の中で、君はマルクスがパリで会った時に金バッジを付けながら共産主義を吹聴してたよな、って言う、あの場面もすごく重要なんです。共産主義っていうことを言い出したのはマルクスじゃなくて、エンゲルスです。この映画の原題は『若きカール・マルクス(Le jeune Karl Marx)』っていう原題だけれども、日本語のタイトルは『マルクス・エンゲルス』になっている、これは日本語のタイトルの方が正確です。どうしてか?この映画は、エンゲルス主導説なんです。共産主義っていう考え方や、マルクスの人間的な弱さ、そこを常に克服していたのはエンゲルスだと。

エンゲルスはもとより、マルクスとかルーゲとか、彼らの生活ってプロレタリアートの生活かな?違いますね、彼らは客観的に見ると小ブルジョワジーです。大資本家ではないけれども小資本家。日本の今の感覚で言うと、ホワイトカラーエグゼンプションみたいな高度専門職ぐらいの感じで、年収1500万くらいの人達です。ただマルクスは多分、自分の原稿料で稼げるのは年間50万円くらいだと思うのね。だから残りの1450万円の内の300万円くらいが奥さんの持参金、残りはエンゲルスの支援なんだ。映画の中で、よくワインを飲んでたでしょう、ちょこっと出てくるのもシャブリだったり、でも本当はね、マルクスはボルドーのワインが大好きなんです(笑)。エンゲルスにボルドーのワインを送れなんていう手紙が結構残ってる。


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