OUTSIDE IN TOKYO
SONO SION INTERVIEW

園子温『希望の国』インタヴュー

2. 日本に住んでる全ての人の個々に関わる問題ですよという映画にしたかった

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OIT:ちょっと距離をおく為ということですか?名前を変えて、架空の場所という。
園子温:例えば、南相馬と限定してしまうと、南相馬以外の話はよっぽど群像劇でめちゃくちゃな話じゃない限り、それを取り込んだら嘘になる、どの場所もひとつずつ凄く事情が違うんです。南相馬の20km圏内と圏外に分かれた場所があって、飯舘ではないけど逃げたい、それを全部すくうわけにはいかないというか、その中で重要なことをやる為には、もう街の名前を出さないことにしたんです。あと双葉町とのリアルな距離感でやると行ったり来たり出来ないとか。例えば「大原町」というのは僕の中では双葉町で、最初の酒屋さんがあるとこなんです。そこから電話したのは僕の中で南相馬市なんですけど、盆踊りで大谷さんが行く、あの距離を歩くわけに行かないんです。色んな意味で色んなとこ横断しなきゃいけないのに、やや広かったんです。そういう想いで長島県を作りました。長島は日本の歴史の中で被曝した長崎と広島と福島を全部くっつけたんです。そうなるといよいよこれは僕がやりたかったものに近寄ってきた。僕はこの映画は、とある福島という被災地の話ですよじゃなくて、日本に住んでる全ての人の個々に関わる問題ですよっていう映画にしたかった。だから、その福島という名前から離れた途端、どこでも起こりうる次の事故っていうことで、より無関心ではいられない話になったんです。それは意図しなかったけど、やってく中で作ったらより自分がやりたかったことに近くなっていったんです。今となっては更にそうですね、次の原発が再稼働していつどこでまた同じことが起きるか分からないという状況になった今は、長島県っていう設定に偶然したことが生きてるなと思います。

OIT:実際色んな方に会って取材された結果が反映されてるっていうのは拝見したんですけど、そういう彼ら、登場人物達が行う選択っていうのもそれが反映されてるっていうことですか?
園子温:前半は反映したというよりは、忠実に再現したとこもあったりする。だから取材した人達の自分の身に起きたエピソードをそのまま使っていたりするんです。例えば庭のど真ん中で20km圏内と圏外に分かれたシーンは、実際にある人の庭がそのような境遇だったのでそれをそのまま生かしました。その庭では圏内と圏外で自分の庭が分かれちゃったんで、圏外の方は花が凄くきれいに咲き乱れてるけど、圏内の方は枯れてるんです。そんな不条理な自宅の庭を持ってる方に会った時に、これはあんまり報道されないけど、あのコンパスの丸いやつっていうのはどんなことを起こしてるか、放射能の不条理さを表すのはこれだなって思いましたね。何度もそこのお母さんとお会いしながら、彼女の歴史を軸にしてこの映画を撮っていったんです。

OIT:タイトルが『希望の国』なわけですが、希望は元々その作る衝動の上で希望っていうのはあって、意識して作られたんですか?
園子温:なるべく嘘にならないように、希望がなかったら希望がない映画にしなきゃいけないと思ってました。ラストはこういう気持ちにさせてあげたいとかいう、テーマ作りをやると絶対に間違えたことになると思ってましたから、希望が見つかるか見つからないかは自分が取材した上でなるようにしかならない。そこはねつ造出来ないと思ったんです。

OIT:なんかこう物語を追いながらも、究極のロールプレイングみたいな、どっかで自分も選択をしながら考えながら見てるような感覚だったんですけど、それは構成する上でも選択を行っていく目っていうのは考えられていたんですか?それともそれはもう単なる物語上の。
園子温:やっぱり、事実の積み重ねをやりたかったんです。あんまり想像力駆使して、きっと彼らはこうであるに違いないっていうのはおこがましいですから。とにかく取材をして、あとから出て来たエピソードを点と線で繋いでいきました。庭の真ん中でぶった切られた家族の物語なんて考えもつかなかったです。最初にこの映画で考えていたテーマは、放射能で一家離散する家族の話をしたいなと思っていたことなんです。そして、取材を進めて行くうちにそういう人たちに出会った。自分でも20km圏内を彷徨って、人がいないから見聞きのしようがないんだけど、“感じた”ことの中から作る、だから物語は最初はあんまり出来てなくて徐々に出来たっていう感じですかね。

OIT:撮り方としてはいかがでしたか?津波の影響を受けた場所とかを実際に撮られていてどういう風にそれを見せようとされたんですか?
園子温:一番やりたかったことは、20km圏内でゲバで撮影したかった。でもそれなりの数のスタッフとキャストがいたので無理でしたけどね。本物の20km圏内で夏八木さん扮するお父さんが彷徨う、なんて実際には許されることではないですしね。

OIT:どうして?
園子温:法律として無理だからです。それで普通に一人でいっても、パトカーがやって来て捕まって追い出される訳ですから。それを20人か30人ぞろぞろ行って、竿持ってカメラ持ってってそれは無理な話です。だったら少人数でという案も出たけど、やっぱり当然責任持てないってなりますよね。結局、それに近い所を転々と探して撮ってくしかなくなったんです。

OIT:それは問題のない所で?
園子温:若い子供も出るし、当たり前ですがみんな放射能気にしますからね。放射能気にしないですむ所で撮ろうって。みんな放射能が怖くてたまんないんだから、恐怖感が何となく想像の中でどんどん肥大していくから。だからやっぱりそれは無難な所でやった方がスムーズにまとまる、今回はそれでいいと思った。そのモニュメンタル的なことを映画に盛り込む必要性もないだろうから、それは別に虚構でいいと思った。
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