OUTSIDE IN TOKYO
Stephen Nomura Schible INTERVIEW

『Ryuichi Sakamoto: CODA』は、現代日本を代表する音楽家坂本龍一が、3.11東日本大震災とそれに伴って生じた東京電力福島第一原子力発電所の事故、さらには本人の病気という予期せぬ厄災を受け止めながら、新たな創造を始めるに至るまでを時系列で捉えながら、『戦場のメリークリスマス』(83)、『ラスト・エンペラー』(87)、『シェルタリング・スカイ』(90)といった坂本が手掛けた映画音楽代表作の舞台裏や、膨大なアーカイブ映像の中から適切な引用を繊細に織り込み、ひとりの音楽家の豊かな肖像を浮かび上がらせる。そこには本作の作り手の苦労の痕跡は残されておらず、この音楽家の肖像画に相応しい、淡く静謐な美の感覚すら湛えている。

注目すべきは、坂本の傑作アルバム『async』と共鳴して、この映画が生起する“メランコリア”、“嘆き”の感覚である。そこには、“日本”幻想、“TOKYO”幻想の終焉を見届けたある種の諦念、現在の日本/東京の支配的空気に対する「非同期=async」への意思が息づいている。テクノロジーの先端にあった80年代東京で、シンセサイザーを駆使し、その最先端を走っていた坂本は当時から「進み過ぎてしまったテクノロジーの、“エラー”に興味がある」と語っていたことが、この映画では示されているが、2017年の坂本は「産業革命以降、人類は自然を人間の鋳型にはめてきたが、木で作られているピアノは自然に戻ろうとするかのように人間が整えた調律を常に狂わせていく。今はその調律の狂ったピアノの音に魅了される」と語る。この映画と音楽家が共犯者的に生起するテクノロジーと自然の対立というテーマは、やがて起きる原子力発電所の“エラー”としての3.11余波、その起源としてオペラ『LIFE』(99)で映写された“原爆の父”オッペンハイマーの映像が連なり、予言者めいた“炭鉱のカナリア”としてのアーティスト像をも映し出していく。そうした一連の流れをスムースに紡ぐナラティブが見事だ。第30回東京国際映画際での特別招待上映に併せて来日したスティーブン・ノムラ・シブル監督にお話を伺った。

1. 震災の直後、退去命令が出かけた。東京という街に人が住めなくなるかもしれなかった

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):坂本龍一さんの新作『async』がとても素晴らしい作品でしたので、その背景もドキュメントされているというこの映画を興味津々で拝見しました。全体の構成は必ずしも時系列というわけではなくて、映画は、宮城県名取市で”津波に流されたピアノ”を坂本さんが弾くという場面から始まります。様々な過去の映像など、膨大な素材の中からどのように全体の構成を考えられたのでしょうか?
スティーブン・ノムラ・シブル:まずプロセスに関してですが、撮影をしていった時系列と、色々なアーカイブ素材を過去に遡って探って行くプロセスで構成を考えた時系列と、あとは、映画を作る意図というレベルでの構成、その3つのプロセスがあったと思います。撮影に関しては、実際に震災後に起きたこと、坂本さんご本人がご病気をされて、その後、また創作を始めるに至るといった流れが、実際の時系列としてありました。そこに関しては、ほとんど映画の時系列そのままです。撮り始めた頃は、今とは随分雰囲気が違うように思いますね。本質的には何も変わっていないと思うんですけど、例えば、私も東京が生まれ故郷で、アメリカン・スクールに通っていましたので、この界隈にもよく来ていました。その頃、アメリカから来た駐在員をしているような家庭の友人も結構この近くに住んでいて、まさにこの界隈が自分の故郷ともいうべき光景なのですが、震災の直後、退去命令が出かけたんです。東京という街に人が住めなくなるかもしれなかった。本当にギリギリのところだった。でも、その辺の事実関係すらあまり報道されませんから、そこから論争が始まってしまうのだけれど、本当は論争も何もなく、単なる事実であったわけです。そんな事があった、間もないタイミングで撮影を始めたわけです。坂本さんもそういった意味で色々なことにショックを受けていましたし、その時はまだ、本格的に新たな曲を作曲されるような状況ではなく 、アクティビストになっているような感じで、状況にプロテストしながら演奏するという感じに見えました。その時、音楽も録音していたのですが、このままでは映画にはならないなと思っていた。つまり映画を撮る意図のレベルで言うと、坂本さんが本当の意味で落ち着いて、新たな音楽表現を始めるまで撮り続けないと、本当の意味で着地出来ない、と思っていた。構成ということで言えば、それが構成ですね。ですから、最初の段階から、構成の意図という意味では何も変わっていないのです。3.11の震災があって、坂本さんがこれからどちらに向かって行くのか、撮り始めた最初の時点では、本当にフォーカスが定まっているように見えませんでした。ただ上手く行けば、もうひと波、凄いことが起きそうだな、という直観はありました。

『Ryuichi Sakamoto: CODA』

11月4日(土)より、角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー

監督・プロデューサー:スティーブン・ノムラ・シブル
プロデューサー:エリック・ニアリ、橋本佳子
エグゼクティブプロデューサー:角川歴彦、若泉久央、町田修一、空里香
共同製作:俵田一、小寺剛雄
撮影監督:空音央、トム・リッチモンド、ASC
編集:櫛田尚代、大重裕二
音響効果:トム・ポール
出演:坂本龍一ほか

© 2017 SKMTDOC, LLC

2017年/アメリカ、日本/102分/カラー/DCP/American Vista/5.1ch
配給:KADOKAWA

『Ryuichi Sakamoto: CODA』
オフィシャルサイト
http://ryuichisakamoto-
coda.com/
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