OUTSIDE IN TOKYO
NOBUHIRO SUWA INTERVIEW

諏訪敦彦『ライオンは今夜死ぬ』インタヴュー

2. 映画作りの一番豊かなモーメントは、みんなで一緒に体を動かして撮影をしている瞬間

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Q:“ぐしゃぐしゃ”っていう言葉も面白かったんですけど、映画の現場で、社会と映画の二重性の中で民主制を模索してるような話にも聞こえました。それが子ども達のワークショップで実践されたとして、監督ご自身の本作にそのやり方は影響を与えましたか?
諏訪敦彦:むしろ子ども達の映画を即興的にやっていこうと考えたのは、自分がこれまで映画を作ってきたことが影響してると思うんです。最初に参加した時は、やっぱりまずお話しを考えなさいっていう風に始めたんですよ。そうしたら1日目、丸一日かかっても今みたいな感じで終わらない、ぐちゃぐちゃになってる、2日目どうするかな、まだやってる。2日目撮影しないと明日の夕方上映会ですよっていう状況なんだけど、まだ話しをしてる。ギリギリになって、わーって撮って、上映までいったんだけど、それを見て、僕達はやっぱり映画を撮る前にお話しを考えようとするわけですよね。お話しを考えるプロセスがあって、撮影するプロセスっていう風に分けちゃう。でも、それは一般的な多くの映画がそういう作法にのっとってやってるだけのことであって、映画の本質的な問題かっていうと、初期映画の頃なんてそういうプロセスがあったわけではない、映画を作ることの一番豊かなモーメントっていうのは、みんなで一緒に体を動かして撮影してるっていう瞬間、それが一番豊かな時間だと思うんですね。お話しを考える時はこういうところ(取材の場となっている会議質的空間)でみんなこうなってるわけですよね、部屋の中であーだ、こーだ、やってるっていうのは辛い時間ですよね、ある意味。だから、これを小学生でやるのは辛いなっていうのがあって、初日から撮影に行きましょう、体動かして考えましょうということで、プリプロダクション、プロダクションという考え方を取り払って、考えることと撮ることを分けないっていう風にしてみようと。これをやってみようと思った背景には、多分ヌーヴェルヴァーグやダイレクトシネマの時代のカメラが街に出てくとか、そういうことが起きた時代に色々な自由な映画の撮り方っていうのがあったわけです。ヌーヴェルヴァーグの人達は本当に即興的に映画を撮ってたわけだし、お話しを作ること、撮影をすることっていうのを一体化して、体動かしてやれみたいな感じで、出来るはずだっていう直感があったわけです。出来るはずだと、はずなんだけど自信はなかったから最初ドキドキだったんですけど。でも出来るんですよね、今おっしゃった、民主主義的な映画の作り方を模索してるっていうのは確かにそうで、自分の中にはそういう欲望があります。“映画”はそういう世界では今のところない、劇映画は特に、監督が権力者として存在するのが一番スムーズなシステムだと信じ込まれている。もちろん巨大化した産業としての映画製作といえば、そういうシステムを必要とするとは思います。特に日本映画の現場で助監督をやってみるとわかりますけど、みんなで話し合うとか、凄く嫌いますよ、そんな話し合いなんかしてもしょうがないんだよって、船頭多くして船山に登るって言うんだって、ブツブツ言いながら、昔のベテランのスタッフが白い目で見てる(笑)。映画を一緒に作るっていうことは、みんなで力を合わせて共同でやっていく、だから面白いっていう、そういう側面っていうのが僕は映画の豊かさだと思いますけどね。高校の時に『ナッシュビル』(75)という映画を観たんですよ、ロバート・アルトマンの。パンフレットを見ると、出演者のギャラが全部同じ、有名な人も無名な人もみんな同じギャラだったって書いてあって、素晴らしいなって思ったんです。映画って反民主主義的なシステムだけど、でもそうじゃないやり方というのはあるのではないかっていう気持ちは確かにあるんです。今回、中学生と一緒にやったんだけど、それも同じようなやり方で即興的に作ったけど、出来たものを観て、美しいなって思ったんです。出演してる子達がみんな即興で芝居してるんだけど、みんな自分で演技してます。お話し作りにみんなで参加してるので、シナリオのことも、自分がどういう役で何をやるべきかっていうのも全部わかってる、要するに作りながら自分で演技してたんです。だから人に言われてやってる子がいない。監督がこうしろと言ったとか、シナリオにこう書いてあるからやってますっていう子はいないんです、そういうものが映ってない。だけど普通の映画っていうのは、だいたい監督に言われたら、はいって言ってやってる従順な人達が映ってるだけなんですよね。どんな映画でも、ほとんどの映画がそうです。だけどその子達は誰にも言われてない、自分でやってるんですよ。それは美しいことじゃないかなと思います。

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