OUTSIDE IN TOKYO
NOBUHIRO SUWA INTERVIEW

諏訪敦彦『ライオンは今夜死ぬ』インタヴュー

4. フランスのスタッフもこんなジャン=ピエールは見たことがないと言った、
 子どもたちとの対話のシーン

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Q:ジャン=ピエール・レオーと子ども達の関係は、最初から最後までの間に変わっていったのかなと思うのですが、その変化はどういう風に生成していったのでしょうか?
諏訪敦彦:子ども達とのワークショップは、休みごとに3回くらいやったかな、日本でやった映画教室と同じような感じで3日、3日、3日という感じで。最後の回の時にジャン=ピエール・レオーに来てもらったんです。それで最初に子ども達には内緒にしておいて、『大人は判ってくれない』を観せて、観終わってジャン=ピエール・レオーを登場させて、この人は映画に出てた人だよって紹介したんです。ジャン=ピエールは頑張って南仏まで来てくれたんですけど、髪をとかしてなくて、ぐしゃぐしゃで、ジャケットは着てるんだけどお腹が出てて(笑)。それで子ども達がへーとか言って、何の役やってたんですか?って、わかんないですよね。それでジャン=ピエールの前でプレゼンテーションっていうか、嘘の自己紹介をしなさいということをやった、子ども達はジャン=ピエールの前にいって、僕は名前はなんとかでって、それをジャン=ピエールが聞いて、うんそうだね、みんなよく出来たね、みたいなことをやったんですけど、子ども達ははっきり言ってこの人何なんだろうって思ったと思いますね(笑)。撮影中に彼らは『ライオンは今夜死ぬ』の替え歌を作っていて、みんな一人一人スタッフとかキャストをおちょくる歌詞になってます、まあ僕もおちょくられてるんですけど、ジャン=ピエールも、“おならをする変なおじさん”です、いつもおならしてるから(笑)。関係性に関しては、やってる時はそれほど意識しなかったですけど、多分ジャン=ピエールを変えてるところはあると思うんですよね。即興でやってるから、子ども達も遠慮なくジャン=ピエールに酷いこと言ってるしね。

Q:言ってますね、デブとか。あれは言わせてるわけじゃなくて、勝手に言っちゃってると。
諏訪敦彦:別に自分を守るわけじゃないですけど(笑)。

Q:台詞としては書けないですよね(笑)。
諏訪敦彦:ちょっと編集で外したところもあるほどです、あまりに酷いので(笑)。スタッフがさすがにこれはやめておこうと、結構外してます。

Q:ああいう台詞を言われたレオーは多少はびっくりしたのでしょうか?
諏訪敦彦:分かんないです、分かんないですけど、ジジイじゃない、とか言い返してますけどね(笑)。“パピー”ってジジイっていうニュアンスですよね。

Q:ですが、映画の中盤頃、子ども達と撮影もだいぶ進んだ段階だったと思うんですけど、あなたは今までどんな映画に出てたのって聞かれて、そんなにたくさんは出てないけれども、非常にいい映画に出たんだって言うシーンがあって、すごくいい対話だなと思ったのです。
諏訪敦彦:そうなんですよ、あそこはびっくりしたんです。彼は気軽に演技するっていうことは一切ないんです。あれだけベテラン俳優だから任しとけ見たいな、今日はOK、みたいな感じでこなすように、即興ぐらい平気でやるかっていうとそんなこと全くなくて、何日も考えてます、何週間も前からあの時どうしようかっていうのを、どうしたらいいか、何を喋ればいいかみたいなことを、すごく考えてるんですよ。それで安心して撮影に来るっていうことはほとんどない人なんです。常に不安で、だからあのシーンも多分ああいう風にリラックスして見えるけど、終わってからハァハァっていう感じですよね。良かったのか?あれ良かったよな、今のは良かったと思うとかいって、そういう感じなんです。でもちょっと思ったけど、あのシーンのジャン=ピエールって見たことがない。奥さんいるの?って笑うじゃないですか、ああいうのって、フランスのスタッフもラッシュの時にこんなジャン=ピエールって見たことないって言ってて、それはやっぱり子どもとの関係の中で引き出されたものじゃないかと思いますね。でも彼が子どものことをどう思ってたかは分からない、最後まで、今でも分かりません(笑)。彼は共演者にはほとんど興味ないですから。ポーリーヌ(・エチエンヌ)とかも、最近髪切ってショートになってるんですけど、この間ぱっと会っても気付かないんですからね、彼は。ふっとすれ違って、無視されたとか言って、スルーされたわ、私って(笑)。アルベルト・セラの時は本当に共演者のことを嫌ってたんですよ、自分にしか関心がないから。

Q:死の話から入っていったのは、やはりセラの映画(『ルイ14世の死』(16))があったからですか?
諏訪敦彦:直接的にはあのシーンに関してはそういうところがありましたね、僕達の関係は5年前くらいから始まってたんだけど、その間にセラの撮影が入ってきたので、僕が会った時に色々相談をされた。死ぬっていう場面はこう思うんだけどって、やってみてどうだ?とか聞かれる。彼には、シュザンヌ・シフマンという人がいてトリュフォーやゴダールのアシスタントをやってたんですけど、彼女がもう亡くなってしまって、相談相手がいなくなったっていうのもあると思うんですけど、僕にも色々相談してくる。現場にカメラが3台もあるんだとか言って、彼はカメラが恋人なので3人恋人が現れるとパニックになっちゃうわけです。必ずカメラの位置を気にして、カメラに向かって演技をする、そういうタイプの人なんです。

Q:それに対して、演じるなって台詞がありました。
諏訪敦彦:あれは彼女の即興ですね。地元の役者さんですけど、いい台詞ですよね。

Q:素晴らしいです。
諏訪敦彦:僕の手柄じゃないんです(笑)。大体いい台詞っていうのはみんなの即興だったりする。鏡の中でジャン=ピエールが鏡っていうやつはっていう、あれはサルトルからきてるらしいですよ、僕は知らないですけど、突然出てきたんです。

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