OUTSIDE IN TOKYO
SUZUKI TAKUJI INTERVIEW

鈴木卓爾『楽隊のうさぎ』インタヴュー

5. 映画のうさぎは「見続けている存在」なんですよね、きっと

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OIT:“うさぎ”が『ゲゲゲの女房』の時と同じように、自然光の下にポンと出てきて、鈴木監督らしい登場のさせ方だなと思ったのですが。
鈴木卓爾:最初に僕がそうしたいって言って、しかも、子どもたちと一緒に画面の中にいないといけないんじゃないかなと考えました。

OIT:原作ではどういう出方をしていたのでしょう?
鈴木卓爾:小説ですと、最初の場面で公園の茂みで野良うさぎを見かけるんだけど、ある時から、克久の胸の中に住み着いちゃう。克久自身は、学校を早く終えて帰りたい、心をペンキか何かで塗固めている、感じないように感じさせないように暮らしていこうとしている子なんですね。だけど、“うさぎ”が中でバンバン踊ったり、太鼓をドンドン鳴らしたり、かっちゃんが気付く少しだけ前に、先に進んでいたりとか、そういう作用をしているんですね。中学生の子が、自覚を持つよりも早くに新しい準備が出来ていて、でも気持ちが追いついていなかったり、そういう人物像を表現するのに上手い手だなあって思ったんですね。どこか分身であるっていうことですよね。少し前を行く合わせ鏡。それが映画の中の“うさぎ”だと、他者として克久を見ている存在になったんですね。この“うさぎ”は克久にしか見えてない、他の子には見えていないけど、他の人、例えば園子先輩もきっと一年生の時には“うさぎ”が見えていたのかもしれない、そういう風にみんなにも“うさぎ”っていう存在が、いるのかもしれない。そしたらそれは、吹奏楽部だけではなくて、例えばサッカー部でも、見続けている“うさぎ”がいるのかもしれない、と想像してみました。映画のうさぎは「見続けている存在」なんですよね、きっと。

OIT:最後の方で、みんながいなくなった教室にひとりで“うさぎ”がいる場面がありますよね。
鈴木卓爾:あの場面は僕ひとりでは考えつかなかったんですよ。あの場面で今言ったような、“うさぎ”の意味っていうのが見えた気がしました。

OIT:“うさぎ”ってかなりシュールレアリズム的アイテムですよね。デヴィッド・リンチもよく使うし、ジャームッシュが組んでいたバンド名が“バッド・ラビッツ”だったり。“うさぎの穴”は何処か異界へ繋がっていたりしますよね。
鈴木卓爾:そうですね、アメリカやヨーロッパの映画だと何処か狂気の入口の案内人みたいなことですよね。

OIT:今回の“うさぎ”の扱い方はそちらとも繋がりつつ、鈴木監督らしくて面白いなと思ったんですよね。
鈴木卓爾:普通だったらどうしてたんでしょう?きっと、正しいのは、克久の家に“うさぎ”は飼われていて、家に帰ると“うさぎ”とお話をしたりという風に、映画としてはやるのが普通なのかなあ。

OIT:本物のうさぎで。
鈴木卓爾:着ぐるみである必要はないですからね。ただ、山田真歩さんである必要はあるんです。山田さんにやってもらうことは早くから決まっていたんですけど、素晴らしかったですね。言葉を持たずに、目と身体で表現する。山田さんが出ている加藤行宏監督の『人の善意を骨の随まで吸い尽くす女』(11)っていう映画で、山田真歩さんが演じる主人公は演劇をやっていて、着物を着ていて番傘を持って、ステージの上で振り返るんですけど、カッコいい〜!と思って、凄くハッとしたんですよね。

OIT:それをご覧になって決めていたと。
鈴木卓爾:それは大きかったですね。

OIT:宮﨑将さんは三作品ともご一緒されていますね。
鈴木卓爾:そうですね、今回の森先生はかなり大変だったと思います。宮﨑さんはやっぱり凄いなと思いますね。何て言うのかなあ。

OIT:何もやらないことの素晴らしさ?
鈴木卓爾:うん。勿論芝居をしているんですが、飾ったりとか、企んだりしないんですね。磯田さんの横にずっといてくれたり、撮影中もずっと一緒に子どもたちと関係性を作ってくれていたんですね。関係を作っていく作業を大事にしてくださいました。

OIT:今回のような作品だと、撮り直しとかって、中々出来ないですよね?
鈴木卓爾:撮り直しをしたとしても、それはもう違うものなんですね。

OIT:最後の演奏会の場面も一発撮りですか?
鈴木卓爾:マスターショットになった手持ちカメラの撮影は一発撮りです。その後に、カメラ位置を変えて、森先生や、みんなを撮っています。それもすべて一発で撮っています。その日はクランクアップだったんですけど、その日までに積み重ねてきた映画作りを共有する時間が全て出る場面でした。緊張感をみんなが共有出来ていた結果があの演奏場面になったと思います。


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