OUTSIDE IN TOKYO
Todd Haynes INTERVIEW

トッド・ヘインズ『ワンダーストラック』インタヴュー

3. オスカー・ワイルドは、”最初のパンクロッカー”だったんじゃないかと思っている

1  |  2  |  3  |  4



Q:ボブ・ディランの話が出たので、それに関連してお聞きしたいのですが、デヴィッド・ボウイに関してはこの作品でついにリベンジを果たして、「スペース・オディティ」の曲を使っています。さらには、エンディングの部分ではラングレイ・スクール・ミュージック・プロジェクトによる「スペース・オディティ」のカヴァーバージョンを使っている。それは70年代が舞台なわけですけれども、翻って20年代を見ると、その当時はロックンロールはまだ生まれておらず、その代わりというわけではありませんが、オスカー・ワイルドの詩が登場します。監督は、オスカー・ワイルドをロックンロールの先駆者のように見ているのでしょうか?
トッド・ヘインズ:実はそれに関しては『ベルヴェット・ゴールドマイン』(88)で仄めかしていたこともあるんだけど、『ベルヴェット・ゴールドマイン』の時は凄く詩的な形で、ワイルドをロックのパイオニアみたいな描き方をしていたけれども、いわゆる普通の社会のルール、男らしさであるとか、ジェンダーとかアイデンティティといったことに対して問い掛けをおこない、そういうルールが彼には全く通用しなかったという点では、“最初のパンクロッカー”がオスカー・ワイルドだったんじゃないかと思っているくらいさ!特に『ベルヴェット・ゴールドマイン』の背景にはグラム・ロックがあって、グラム・ロックの伝統というのは、英国から来ているものだけど、極めてユニークなやり方でジェンダーというものと向き合ったり、試行錯誤を行って来たものだけど、日本にもジェンダーとの向き合いには複雑で豊かな文化的背景があるように、あのような物語を作る上で、“守護聖人”としてオスカー・ワイルドを掲げないわけにはいかなかったんだよね。今回の場合で言えば、オスカー・ワイルドの言葉の引用は原作の中で既に登場していたんだ。仲のいい友達からは、君がオスカー・ワイルドを引っぱりだして来たんだろう、と言われたんだけど、違うんだ。元々、ブライアンの原作に入っていた。それから、ボウイの「スペース・オディティ」も、歌詞が原作の中に元々入っていたんだよ。母親が「スペース・オディティ」を最初に聴いていて、その後、従姉が聴いていたものだから、ベンがお母さんが聴いていたのかと間違えるという場面があるよね。あと、ピーター・セラーズが主演している、ハル・アシュビーの『チャンス』(79)という映画があるけど、そこではデオダートが、キューブリックの『2001年宇宙の旅』(78)で使われているストラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」をジャズ・ファンク風にカバーしている曲を使って『2001年宇宙の旅』に目配せを効かせているけど、そもそもボウイの「スペース・オディティ/Space Oddity」もキューブリックの『2001年宇宙の旅/A Space Odyssey』から来たものだよね。それで、実はこの映画には『チャンス』でデオダート・バージョンの「ツァラトゥストラはかく語りき」が使われた場面に影響を受けているところがあるんだ。(※注釈:『チャンス』では何十年間も屋外に出ることなく暮らして来た“子どものような”主人公、庭師のチャンス(ピーター・セラーズ)が、ついに外の世界に出るという場面で、デオタード版「ツァラトゥストラはかく語りき」が使われる。外の世界に出ると、そこは70年代アメリカの都市の“ストリート”の世界が広がっている。そこで、“テレビ”を通じてしか“世界”を見ることを知らなかったチャンスが、“ストリート”でたむろする黒人の若者たちに絡まれるという場面がある。ヘインズ監督は、その場面の描き方が、初めてニューヨークを訪れて、ニューヨークの街を見る、ベンの“驚きの視線”の描き方に影響を与えていることを示唆しているのだろう。『ワンダーストラック』でも、ストリートを闊歩するアフロヘアの黒人の若者たちの姿が活き活きと描かれている。)

Q:ラングレイ・スクール・ミュージック・プロジェクト版の「スペース・オディティ」が吹き込まれたのも1976年か1977年のことですが、今回の時代背景ともぴったり合っています。
トッド・ヘインズ:それは天からの贈り物だったね、時代が合っているのは、全くの偶然なんだ。元々、僕もリアルタイムではこの曲を聴いていないから、90年代に再発見された時に知った訳だけど、これを使ったらいいんじゃないかって教えてくれたのは、音楽を手掛けているカーター・バーウェルなんだよ。僕は直ぐに素晴らしいアイディアじゃないか!って思ったよ。映画作りの鍵は、良いアイディアを思いついてくれる良い仲間が周りにいるということに尽きるね。



←前ページ    1  |  2  |  3  |  4    次ページ→