OUTSIDE IN TOKYO
Denis Villeneuve INTERVIEW

ワン・ビン(王兵)『無言歌』インタヴュー

2. 今は諸々の環境が良くなってきて、
 『無言歌』のような題材を劇映画で撮るという可能性が広がってきた

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OIT:この映画『無言歌』ですが、それを撮るまでに至った、自分の力となったものは何だったんですか?そこまでさせる何かがあったんですか?
ワン・ビン:この映画のきっかけは、パリに向かう機内で原作となった小説を読んだことでした。それを読んでからパリに着いて部屋で長いこと考え、これを映画にしようという考えに至ったわけです。小説の中の人物がもの凄く私の心を打ったのです。だからこの人達を映画にしたいという思いが強く湧いてきたんです。そして、もしこれを劇映画にするということになると、昔だったら資金とか色々な面で環境が整わず、そういうものを劇映画にする能力というのが備わっていなかったわけです。しかし今は諸々の環境が良くなってきて、こういう題材を劇映画で撮るという可能性が広がってきたわけです。ですから、これを撮れる環境になったんだから、是非ドキュメンタリーではなくて劇映画で撮ってみようという風に思いました。

OIT:その思考は、『鳳鳴(フォンミン)』の時から続いてきているというわけではないんですか?
ワン・ビン:『鳳鳴(フォンミン)』を撮ったのはこういうことだったんです。実は04年に既に『無言歌』の、劇映画の企画が先にあって、それから06年にある友人に一つ作品を作ってくれないかと言われ、それで『鳳鳴(フォンミン)』を撮ることになったんです。作ってくれと言われた時に、なかなか時間も資金も限られていたものですから、そういう限られた中で撮れるものということがあった、それで鳳鳴さんとは知り合ってもう1年くらいたっていて、彼女についても良く知っていて親しい関係になっていたので、彼女の話を映画にしてみようと思ったわけですね。それから、当時私が居た西安という所から、鳳鳴さんのお住まいがある蘭州まで行って、だいたい3〜4日で全部撮り終わってしまいました。

OIT:なるほど、そういうことでしたか。先ほどドキュメンタリーと劇映画についてちょっと触れられましたが、この映画は劇映画という意識で撮られているんですか?
ワン・ビン:とにかく最初からもう劇映画として。

OIT:今、実際にそれをドキュメンタリーで撮ることは出来ないから、それを再現するというか、その為に必然としてそういう形をとったのでしょうか?
ワン・ビン:『鉄西区』を撮ったあとに、すぐに劇映画を一本撮ろうという思いがあったのです。しかし劇映画を撮るには何と言ってもドキュメンタリーよりお金がかかりますよね、そうすると具体的な条件が揃わないとなかなか撮れるものではありません。当時、ちょうどシネフォンダシオンというカンヌ映画祭の企画で、パリに行って暫く滞在して脚本を書くという話があって、それに参加することができました。その時、心に温めていたのは別の話でした、別の劇映画のテーマだったんですね。それはどういうものだったかというと、四十数歳の男が主人公で、この男はある場所にずっと閉じ込められていて、閉鎖された場所で一生過ごすという話なんです。ちょうどそういう舞台になった所を自分はたまたま通りかかって見に入ったことがあるんです。そこは病院のような佇まいなのですが、正常な社会活動が出来ない人達が全員閉じ込められている所なのです。そして、多くの人達はその中に入ったまま、死ぬまでそこで過ごすというわけです。そういう状況でそこで暮らす人々の存在が私の心を打ったのです、だからそれを劇映画にしようという風に最初は考えていました。ところがパリに行く飛行機の中で友人がくれた本、つまりそれが『無言歌』の原作小説だったわけですけれども、それを読んだら、最初の企画よりもっと感動してしまったのです。だから、まずは『無言歌』を撮ろう、それで、最初のテーマはまた機会があれば次に撮ればいいと思ったわけです。

OIT:『無言歌』は、実際に、ゴビ砂漠で、(史実と)同じ場所で撮られたということで理解してよろしいですか?そしてそれは許可を含めて、かなり難しい環境で、色々な制約のもとで撮られたのではないかと思うのですが。
ワン・ビン:それぞれの映画を撮る時に、それぞれの苦難にみまわれる。その色々な大変なことっていうのは毎回同じではないのですが、特にこの映画の場合は劇映画ですので、俳優が加わってスタッフも多くなるし大変なことが多いです。ロケの現場は、本当に周囲に何もない所なのです。我々がロケのキャンプとして住んだところは、もともと現地に枠組みだけできてる家屋があったんです。そこはまだ全然内装ができていない状態でした。それで、そこにヒーターを入れたり、台所を作ったり、お風呂を作ったり、スタッフやキャストが住む家屋を作ることから始めたのです。もちろんクランクインする前の準備段階で作ったわけですけれども、その家屋の周囲30kmには何もない。他に家も建っていません。本当に砂漠の中で、映画に出て来るようなあの雰囲気の所で、皆暮らしていたわけなんですね。実際、撮影に入ってからはロケの進行を助けてくれる人はかなりいました。誰の邪魔も入らずに静かにちゃんと撮り終えることが出来るように、多くの人が助けてくれました。


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