OUTSIDE IN TOKYO
Denis Villeneuve INTERVIEW

ワン・ビン(王兵)『無言歌』インタヴュー

3. 当時あの人達が経験した残酷さ、過酷さを80%カットしたのが、この映画です

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OIT:(プレス資料の)インタヴューで、この映画で描かれたものは全て事実であるとおっしゃっていますが、なぜこれほど過酷な描写で通すことを決めたのか、教えて頂けますか?
ワン・ビン:実はですね、当時あの人達が経験した残酷さ、過酷さを80%カットしたのが、この映画です。

OIT:それは劇映画だからですか?
ワン・ビン:技術的にそれが出来なかったからです。特にこの映画はかなり原始的な方法で撮られています、HDVを使って、照明もオーソドックスなものです、特に新しい技術を用いたわけではありません。そういう条件下で、撮れるぎりぎりの技術的なレベルで撮ってます。

OIT:実際にその状況を体験した人も出演されていると聞いたんですが。
ワン・ビン:彼(チラシを指して)がそうなんです、リー・シャンニェンさんという方です。この方が生存者なんですが、なぜ生き残ることが出来たかといいますと、その当時、彼はまだ若かった、そして体力があった、それから三回逃亡したんです。彼の人生はとても悲惨な人生でした。リー・シャンニェンさんのような、当時を実際に経験した人に再びこの映画の中で昔に戻ってもらうということは、とても興味深いことだと思います。当時、若い時期に経験したことを再度映画の中で経験してもらうということ、このことはとても意味深いことだと思います。つまり私にしてみれば、当時、収容所の中で暮らしていた人達に対する敬意の表れなのです。もう一つは当時を実際に経験した方に出てもらうことで、役者はみんな素人で当時を知りませんから、色々なディティールを教えてもらうことが出来るわけです。

OIT:その方にとってはきつい環境では?
ワン・ビン:もう既に50数年の時が流れています。彼は、リー・シャンニェンさんは、ずっとこの現場にいて手伝ってくださったわけです。彼の人生っていうのは本当にもう山あり谷あり大変な人生を送ってきたわけです。彼にとってはもう既にこういう映画に出て当時のことを再体験するぐらい、全然大したことじゃないんです。それぐらい苦労をされてる方ですから。

OIT:最後にお聞きしたいんですが、以前ペドロ・コスタさんに同時代的な盟友と思える人は誰でしょうと聞いた時に、あなたの名前が出てきたんですね。その撮り方というか、映像に対する姿勢というのがとても似たところも感じるんですが、ご自身はどう思われますか?
ワン・ビン:とんでもないです、ペドロ・コスタさんは私より早く映画を撮り始めていましたし、むしろ私の方が影響を受けていると思います。特にヨーロッパで私の映画が上映されることになったのは、ペドロ・コスタがとても助けてくれた、手伝って上映にこぎつけてくれたからです、紹介してくれたんです。

OIT:ご自身の映像に対する、自分の感じる距離という、映像の作り方なんですけれども、距離というものと空間というものをどう捉えているか、教えて頂いてもいいですか?
ワン・ビン:距離の問題ですけれども、例えば被写体の距離にしても映像というのは被写体の色々な物の領域を侵すべきではないと考えています。ただその辺りの実際はかなり複雑でして、これは技術的にどうこうという風に割り切れるものではないんですけど、私自身の感覚としては、やはり絶対に被写体の環境を侵してはならないと思っています。そうすることによって、自然に撮ることが出来るし、そしてまた映画を観る観客にとってある種の近しさ、親近感というものを持ってもらえるようになるんじゃないでしょうか。だから大事なのは“親しさ”ということですね。


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