OUTSIDE IN TOKYO
KENJI YAMAUCHI INTERVIEW

山内ケンジ『ミツコ感覚』インタヴュー

3. (プロットがなくても)会話自体が成立していて、それを積み重ねていくと妙な変な柱へ向かっていく、
 そういう書き方の方が自然な会話になる

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OIT:石橋さんの役はすごい叫んだりとか、まあというか初音さんもそうだったけど。初音さんは、監督の書く台詞が自分が言う言葉そのままになってたんで苦労しなかったと、芝居をしていた感覚すらなかったかもしれないっておっしゃってたんですけど。
山内:まあ何回か舞台やってるので、書いてると声が聞こえるから、逆にそうでないと書けないですよね、ホンが。

OIT:今、聞こえるっておっしゃったんですけど、ビジョンが浮かぶんじゃなくて、話してるのが聞こえるって感じなんですか?
山内:そうです、そうです。トーン、声が。

OIT:イメージではない?
山内:いやイメージっていうか、なんて言うんだろうな、単純にこういう言い方似合わないなとか、こういう風に言うだろうなとか。

OIT:この『ミツコ感覚』を拝見して、ちょっと昔の大映映画とかの感覚を思い出したんですけど、今回作る時に何か気になった過去の映画とか、そういうものはありましたか?
山内:そうですね、そういうのはあんまりないんですけどね、まあ古舘さんがだいたいそういう雰囲気を持ってますけどね、初音さんもそうかな。でも影響を受けた映画っていうのはむしろ僕はベルイマンとか、マイク・リー。当然ウディ・アレンは随分観ています。だけどブニュエルも好きなので、そういうシュールな感じ、好みとしてはそういう感じ。でもベルイマンが一番影響受けてるかもしれない。

OIT:この作品に関しては?
山内:ていうか、なんか、舞台でもそうだし。

OIT:それは悲劇的なプロットだけれども、味はそうじゃないというところとか。
山内:ええ、コミカルなところが。何がコミカルかよく分らないんだけど、そういう曖昧な感じ。

OIT:曖昧な感じっていうのは、映画のタイトルにも出てると思うんですけど、それはもう山内監督のスタイルですかね?
山内:なんですかね、どうなんだろ、舞台もそうなんですけど、そういう風に書いてるもんだから、書くスタイルからきてるものだと思うんですけどね。つまり箱書きとかプロットをしっかりといつも書かないで書くんですよ。箱書きとかプロットがしっかり出来てるものっていうのは、それで出来たホンって分るんですよね、予測出来るというか、こういうテーマでこういうこと言いたかったのねみたいな。そういう風に書いてないので、書いてないというか書けないんですけどね(笑)。まず先が読めなくて書き出しちゃうんですよ、後でもちろん修正するんだけど、だから半分くらい書いてやっと残りが見えてくる、だから前半はものすごい時間かかるんです。そうやって書いてくもんだから、普通ならこういくはずなのが、違う方へ途中で行ってるみたいな。だいたい、この映画だけじゃなくて、演劇もそういうパターンですね。

OIT:全体の構造もそうだとしたら、中の会話というか、芝居もそうですよね。何か言った言葉尻を相手が勘違いしたり、とらえたりして、枝葉の方にどんどん行く、ディテールと全体が相似形になってる。
山内:そうですね、作者が、プロットがあるとそこへ持っていくために強引に会話を、無理をさせて、そこへ持っていくから、そういう時ってしらけちゃうんだけど、その会話自体が成立していて、それを積み重ねていくと妙な変な柱へ向かっていくいうか、そういう書き方の方がどう考えても自然な流れに会話としてなるのでね、そういうのが多いです。

OIT:不思議なのはそれで破綻しないというか。
山内:いや、破綻する場合も今まであるんですけどね。でも最近、案外上手くまとめられるようになってきたっていうか、まあ後で修正しますけどね。でもこの映画はそうですね。明らかにほっぽらかしな題材とかがあんまりないですね。案外、振っておいて全然拾ってないっていう場合が出てくるんですよね、そういう場合って。

OIT:そうなんですよ、そうすると観ている方はフラストレーションがたまるんですけど、この映画はそうじゃなくて。
山内:そうですね、と言ってもあの三浦、姉妹にとって一体何だったのかっていうのは全く分らないですけど。

OIT:大きすぎる疑問っていうのはちょっと、それは謎としてあり続けるんでしょうけど。『ミツコ感覚』っていうタイトルが、そもそも謎として残るのかもしれませんが、これは何かコメントして頂けるとしたら。
山内:『ミツコ感覚』っていうのはホンがほとんど終りかけくらいでタイトルを決めたんですけど、書いてて、初めから考えてたわけじゃなくて。本当はミツコが主人公っていうよりは姉妹の話ですよね、なんだけど、どっちかというとやっぱりミツコから見た世界の方が主流なのかなっていうことで、そういうタイトルにたまたましてるんです。基本的には姉妹、どっちかというとミツコ、絶対に他の人からの視点っていうのはないですよね、あの家からの視点しかなくて。普通のドラマなら古館さんの家庭とかね、三浦の個人的な経歴とか、そういうのを描いていくだろうけど、それを全く描かないっていう、まあそういうことからきてる。

OIT:ちょっと不幸な家庭というか、離婚する夫婦は今や非常に多いという意味ではものすごく不幸ではないけど、昔のホームドラマみたいな分りやすい家族構成でもなくて、っていうまた曖昧な設定ですよね。
山内:そうですね、でもすごく特殊な家庭環境ではないような気がするんですけどね。それは書く時からありましたよね。特殊な題材をテーマとして、例えば不治の病とかね、タイムスリップとかね、なんだろう、不思議な現象とか。そういうのは書いたり映画にするつもりはないっていうか、最近そういうのばっかりだから。全くそういう分りやすいテーマがないものを書くぞっていうのがずっとありました。

OIT:ブニュエルとかも日常ですもんね、だけどなぜか部屋から出れなくなっちゃったりする、とてもシュールな話ですけど。
山内:そうです、そうです。

OIT:これからも映画は撮られていくんですよね?
山内:そうですね、基本的には演劇をやりつつ、そこから題材的に、出演者とかに触発されたりしながら撮っていきたいですね。

OIT:これからもご活躍を楽しみにしております。
山内:ありがとうございます。


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