OUTSIDE IN TOKYO
YANG IK-JUN INTERVIEW

ヤン・イクチュン『息もできない』インタヴュー

2. この映画に使命はない

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──この映画に使命を感じますか?
Y:“ないです(日本語で)”!なぜこの映画に使命がないかと言うと、自分のもやもやした気持ちをとにかく外に出したくて、自分のために作った映画だからです。だから、この映画を作る時に、誰かのため、この人のため、観客のため、という気持ちは本当になかったんです。あくまで対象は、見てくれる人を想定せず、ヤン・イクチュンという自分の話からスタートして、自分のために作った映画だと言えるわけです。ですから、韓国で映画が公開されて、挨拶を十何回もやるわけですが、その時にも皆さんに言ったんです。「観客の皆さん、関心があれば見てください」と。「でも関心がなければ見なくてもいいですよ」と言いました。見終わった後につまらなかったと言われても、私の方からお金を返すわけにもいかないですから。だから見る、見ないは任せますと言いました。でももし関心があって、見て下さり、何か感じたとしたら、感じなくていいんですけど、何か感じたとすれば、その時、初めてこの映画がみなさんの、あなたのものになると言えますと言ったんですね。でも決して強要はしませんでした。映画を見るというのもひとつの選択ですけど。選択は自分で強要できるものではないと思ったので、自分のために作った映画を強要しても見てくれないので。強要する(側の)人は、マーケティングの(人の)仕事で、私の仕事ではないと思っていました。

──そのパーソナルな部分があるからこそ強いという映画だというのも分かりました。
Y:最初、マーケティングの人が、私がこんなことを言うために驚いてしまって、「監督、そんなふうに言っちゃだめですよ」って。「お客さんの前でそんなこと言わないでくださいよ」って。でも5、6回そんなことを言っていると、マーケティングの人も分かってくれるようになり、ヤン・イクチュンという人はこういう人なんだ、逆に止めても無駄だと思ったらしく(笑)、やっぱり監督がしゃべりたいように、監督が言いたいように言うのが監督らしいからって、後になって分かってくれました。

よくマスコミ試写というものがあるのですが、ちょうどその頃はロッテルダムでタイガー賞をとった後で、いろんな記者やマスコミの方が見に来てくれたんです。もちろん関心を持って見にきてくれるわけですが、記者が聞くことは、観客にどんなことを伝えたいか、観客にどのように見てもらいたいか、だったりで、いやー、僕は自分のために作ったわけで、観客のために作ったわけではないんですと言うと、さっきマネしたみたいに、本当に記者の方がチェッと舌を打ったんです。まあ、見終わった後に、そう言っていた方が、逆に応援に回ってくれたのが多かったんですけど。こんなことを言うと、手前味噌ですが、記者の方から朝にメールが来て、今日は友達を6人連れて、最初の朝の回があるんですが、「最初の上映を見に行きますから、監督、がんばってください」みたいなメッセージをくれる人もいたりして。

──映画のディテールも、リアリティというか、殴る感覚、殴られる感じ、例えば、女の子が父親といる時に、それは例えば物を置いた時に、胸元がのぞいたり、そういうところの、演技からの意識もあるのかもしれないのですが、そんなディテールを逃さない意識が強いのではないかと思ったのですが。
Y:自分は特に、これは逃してはいけないとか、気を使っていたわけじゃないんですよ。それに今回は映画を撮る時、一回もリハーサルをしてないんです。
私は(今は)監督ですが、元々、演技もしているので、あまりリハーサルしてしまうのはよくないことをよく知っている。俳優って、必ず自分の演じるキャラクターについてさんざん悩んで、かなり準備して現場にくるわけです。でも私自身があまりそれを望んでいなかった。あまりに準備をしてしまうと、いいものが撮れなくなってしまうと思ったからです。それで案の定、撮影が始まったら、俳優の何人か、4人くらいが来て、「監督、なんで、具体的な説明をしないんだ」って言うわけです。もっと説明をしてくれないとだめじゃないかと言うんです。それで私は、あなたたちはおそらく、シナリオを渡した時点で、20回も30回も読んでるんでしょと言った。キャラクターの準備をかなりしていますし、あえて、何も言う必要はないと思うんです。そこで、自分がひとつ要求したいのは、「皆さんに、感じたままに演じてほしい」と。俳優が何かを感じて演じることが一番大切だから、思った通りに演じてほしいとお願いしました。もうひとつは、一回目のテイクで、一番いいと思えるものを見せてほしいということを俳優さんにお願いしましたね。でも依然として、やっぱり、「なんでもっと説明しないんだ」という意見は依然として聞かれたんですけど(笑)。そういう風に、「なんで説明してくれないんですか」と言う人は、説明された通りに動くことに慣れている俳優だと思うんですね。演出の人があれこれ指図をして、全部要求された通りのパターンでやることに慣れていて、逆に言ってくれないと不安になってしまう、そういう人たちだと思うんです。私は自分が今まで俳優をしてきた経験から、撮影現場は、いい意味で遊ぶ空間のような、自由な空間として捉えてほしいと思ったんですね。今まで現場を経験してきた中で幸せだったのは、監督がイメージした通りに押し付けて演じさせる、つまり、閉じた空間ではなく、(逆に)開かれた空間のような現場で自由に演技ができるのが、やっぱり今まで、幸せな記憶として残っていたので、俳優たちにもそういう経験をしてほしいと思ったんです。それでトラブルと言うか、4、5回、そんなふうに、「なんで言わないんだ」みたいなことが繰り返されながら撮っていくうちに、皆さん、そんなことも言わなくなって、逆に俳優がこっそり私のところに来て、「ありがとうございます」と、逆にお礼を言われたりしました(笑)。俳優と監督、みんな違う価値観を持っているわけですよね。もちろん、そんな価値観の衝突、ぶつかり合いもあるわけですが、そういうことを繰り返し、価値観を乗り越えてこそいろんな発展があるんじゃないかなと思っています。

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