OUTSIDE IN TOKYO
Yang Yonghi Interview

ヤン・ヨンヒ『かぞくのくに』インタヴュー

4. お父さんは理想だけ追って、家族がえらい目に遭って、みんなお母さんが尻拭いしてる、
 そんな感じの家族

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OIT:結構、言いたいことを遠慮せずに入れてるなと思ったんです。
YY:もちろん、もちろん、それは別に皮肉ってる、意地悪してるとかの意味じゃなく、それはそれで、海外に、しんどい国に行くほど(コーヒーの)甘さがきついじゃないですか。お菓子にしても。そういうところはふつうに大事にしたいと思うので。監視人ってある意味、情報部の人間だから北朝鮮の中ではエリートの、KGBではないけど、韓国の映画とかだと情報部ってかっこいいビルで、スパイ映画みたいの見るとそうですけど、一応そういう情報部に入ってるけど、あんな車の中に一日座って「お前監視してろ」なんて言われる人ってことは、その情報部の中でそんなに幹部ではないわけですよね。ソンホ(井浦新)も親が総連の役員やってたり、伯父ちゃんが寄付してこうやって日本に来れるという、帰国者の中ではエリートみたいな人だけど、帰国者ということは北朝鮮では一つステイタスの低い、差別される層なので、ニューカマーだし、資本主義を知っているいうことでも危険だという。革命にとっては危険分子であるという見方があって、昔は本当に監視が着いたりして。だからあそこまで来るためにソンホはふつうの北朝鮮の人の十倍、二十倍も忠誠を誓ってきたわけです、たぶん。その間、何度も壊れてますよね。日本で思春期まで過ごして、あんな中国の文化大革命みたいな状況の中で忠誠を誓います、ばかり言ってきた訳ですから。それなのに彼は壊れていないんです。壊れる手前で踏ん張ってるんですよね。何度も何度も壊れながら立ち直ってきた人です。そう(井浦)新さんに言っていたんです。このヤンとソンホは、両方這い上がって来た。北朝鮮の中で、そういう互いを認め合ってる部分があるという設定にしてあるんです。それはもう別に台詞とかでは出て来ないですけど、役者さんたちに説明する上で私はそういう設定で書いていますので、そういう役作りをしてほしいっていうことを話しました。ソンホは監視される立場ですけど、先進国から来てるというところもあって、ちょっと坊ちゃんっぽくも見えるし、高校一年くらいで北朝鮮に行って苦労はしてるけれど、ヤンなんかは小学生の頃から田植えとかやってる訳です。黒く焼けてるし、コーヒーなんか飲んだことないしっていう。ほとんどコーヒー飲む習慣が無い人で、でもコーヒー屋の家に来て出されたので、とりあえず飲まないと格好悪いかなと思ってがばがば入れて、それもみんな使わなきゃいけないと思って使うんだけど、結構殺伐とした育ちだから砂糖の入れ物の蓋もしないという。それで、砂糖の蓋をしないでねって言ったんです(笑)。そういうところは、なんか、あるじゃないですか、分かる人だけ分かるという、クスッみたいな。ましてやソンホは鬱陶しいなと思って座ってるけど、こいつもしょうがねーよな、仕事で頑張ってるんだしとか思ってる訳ですよね。だけどリエからすると威圧感はあるし、ふてぶてしく見えるし、うちのお兄ちゃんみたいな紳士でもなく見えるけど、たくましい男らしさはもちろんあるんです。でもどちらと言うと監視が(一緒に)来て偉そうに「東京から出られませんよ、息子さん」みたいなことを、煙草吸いながら言ってるけど、コーヒーを飲み始めると、クスッ、田舎もんじゃんみたいな、ちょっとパワーバランスが動くというか、初対面のその日に、すごく絶妙に演じてくれているので。イクチュンもサクラちゃんもね。笑うシーンは少ないんですけど、ああいうところを楽しんでいただけると(うれしいです)。

OIT:そうですね。ああいうシーンを作っているところがフィクションに向いてるかなと。
YY:ありがとうございます。

OIT:ドキュメンタリーだと出来ないことですしね。
YY:ドキュメンタリーは注文しなくてもやってくれる。勝手にみんなが役者ですからね。それは滲み出てきてるものだと思うので。ドキュメンタリーだとふつうにいつもの座り方とか、いつもの飲み方とかするじゃないですか。それをどちらかと言うとドキュメンタリーで見てきたものを丁寧に役者さんたちに演じてもらうというか。なんか、そこら辺はちょっと拘ったかもしれないです。お母さんは在日のお母さんだから、韓流のお母さんみたいに“アイゴー”って大声で泣き崩れたりしない。韓流だったら車が離れていく時にお母さんがウワーって道に転がるくらい泣き崩れてますよ、絶対にね!「ソンホー!」とか言って、音楽もグワーみたいな(笑)。そうじゃないですってところで、宮崎さんなんかにも、そのままでいいですから、みたいな、ぐっとくるけど抑えようとするお母さんで、人前で涙を見せまいとするけど落ちるくらいでちょうどいいとか。すごく理不尽なことですね。明後日とか明日帰って来いとか言われて、ウッとくるけど、こういう理不尽なことを言われ続けている家族なので、またか、というか、またこれを受け入れざるを得ないということで、一人の時だけ貯金箱を振りながら泣くけど、ふつうだったら泣いて泣いて泣いて終わりますよね。寝込むくらい泣いて終わるんだけど、やっぱり用意しようって言って、何をしなきゃいけないかすぐに考えるというか。(実は)一番政治的に動いているのがお母さんだと思うんです。お父さんは何の役にも立たない(笑)。理想だけ追って、家族がえらい目に遭って、みんなお母さんが尻拭いしてるという、そんな感じの家族ですね。


OIT:ソンホの強さっていう話ですが、やはり兄を超えた存在、物語になっていくということですか?
YY:本当の兄のことですか?3人とも結構混ざっているんですけど。まず、3人の兄貴がいて、1人は死んでますけど、実際、日本に来た兄貴は、こういう病気の治療で来た兄貴については、新しく原作本(「兄~かぞくのくに」小学館)が出るんですけどそこに書きました。なんかエリートになろうとがんばったような兄貴で。長男は壊れちゃったんですけど。エリートになろうとした訳でもない。まあまあ、頑張ろうとしてどんどん壊れていって、私は壊れた長男がまともだと思っていて。真ん中はなんだか開き直っちゃって、“小さな幸せ主義者”って私は呼んでるんですけど、しょうがない、ここで頑張って、みたいな、どこか開き直って一番しなやなか人だと思ってるんですね。でも壊れた長男とかを見て、末っ子の私の兄貴はすごく、この国ではエリートにならないと人間扱いされないみたいなことをすごく奥で叩き込まれたような人で。アメリカでクレジットカードを持っていないと人間扱いされないみたいな。たとえが変ですけど(笑)。あそこですごくがんばりながら壊れない人の方が、なんだか危なっかしいという風に私には見えました。長男は病気になったから変わってしまったんですけど、それはもう抗鬱剤とか薬の副作用で変わっていったんですよね。でも三男坊が一番変わりましたね、言葉もどんどん少なくなったし、言ってはいけないことは絶対に言わないし、ここだけの話だけどっていうのも無い人です。隙を見せない。だから発つ前日に妹に思いを託すシーンがありますけど、あれは結構次男坊のキャラなんです。お前は自由にやりたいことをやれとか。本当に日本に来た兄貴はああいう言い方はしなかったので。もう一言だけ、勝手にしたらええねんぐらいしか言わないです。あんなに一生懸命、私に訴えるような兄でもなく、一生懸命さを見せない人ですね。すごくバリアを張るというか、鎧を着ている人です、じゃないと日本に来るまでになれないのかなと思っちゃいます。この人は日本に行っても逃げないという信頼がないと外に出してくれませんから。


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