OUTSIDE IN TOKYO
Yang Yonghi Interview

『ディア・ピョンヤン』(06)、『愛しきソナ』(09)というドキュメンタリーで、北朝鮮へ渡った兄たち、彼らを送り出した家族の様子から、北朝鮮の現在を内側から映し出したヤン・ヨンヒは、北朝鮮で成長していく姪っこソナの成長を追った『愛しきソナ』の頃に、北朝鮮への入国が禁止となったために、今後の映画作りをどうすべきか考えているところだと話していた。そしてドキュメンタリーではなく、フィクション、つまり劇映画で家族の物語を描くことを考えていることも。彼女の家族しか経験したことがない、唯一無二の物語。その映画は意外と早く私たちの眼前に届けられた。ひらがなで表記される『かぞくのくに』は、在日朝鮮人として日本で育った家族にとって日本が国と故郷を意味する“くに”との曖昧な境界に立って生きてきたことを最初から示している。また、北朝鮮へ兄たちが渡る前の父たち世代の興奮、その後の失意など、ドキュメンタリーでも描いてきた経験が、声高ではなく、ある物語として、兄が病気の治療のために帰国した際の家族の時間が静かに表現されていく。それは派手な出迎えもなければ、正確にはいつ帰ってくるかもしれない兄をひっそりと待つ家族の日常がある。そしてようやく姿を見せた兄(井浦新)の背後には北朝鮮の監視員が付いていた。『息もできない』で鮮烈な監督デビューを飾ったヤン・イクチュンが口数の少ない粗野な監視員を丁寧に演じている。そして在日に拘らず、家族は日本人の俳優が演じている。監督曰く、それは朝鮮で育った者というより、日本で育った者たちだから、日本語のリアリティーで選んだという。登場人物たちはみな多くを語らない。また、語っても、はしゃいでも冗談を言っても、聞きたいことはあっても簡単に核心には触れない。うつむき、視線を合わせてもすぐに外し、その中で何かを読み取ろうとする。それでも、伝えるべきことは伝わる家族。

この物語は、在日朝鮮人として日本で育ったヤン・ヨンヒ監督自身、そしてその家族が投影された物語である。全てがそのままではなくても、そこに交わされる言葉、感情にはリアリティーが伴い、話を聞けば、演出のディテールも、細かな“設定”というよりも、彼女自身のリアリティーに貫かれているようだ。歩き方、目のつむり方、手の動き、触れ方など、それは理由を説明せずとも、彼女の記憶がそこにしっかりとした手触りのように“ある”。監督自身が話すように、その家族の関係性は「面倒臭い」ものだったようだ。そして外へ出て、ニューヨークで映画を学び、再び“家族”と向き直るようになった。そんな彼女が新しく踏み出した彼女自身の記憶と家族の物語。単一民族という幻想にとらわれたこの国で在日の歴史を紐解き、伝えることも大事かもしれない。だが特殊な状況下にあっても、ある家族の物語は、僕らの家族の物語のように響き、入ってくる。一歩先へ進み始めたヤン・ヨンヒ監督が今後どんな作品を見せてくれるのか、とても楽しみだ。

1. 誰にも絶対この話はしないと蓋をしているような話をフィクションでやりたかった

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):前に『愛しきソナ』で取材させていただいた時に、次はフィクションを撮りたいと話していましたが。
ヤン・ヨンヒ(以降YY):(笑)言ってましたか?その時は、何か言ったらやらなければかっこ悪いからって、一生懸命、自分に宿題を課すように言ってたんです。

OIT:では、あれからわりとすぐ形になったのですか?
YY:『愛しきソナ』の配給をお願いして、こちら(株式会社スターサンズ)の社長さんとスタッフと会った時に、フィクションを作りませんかという話になり、(今に)繋がってます。お目にかかったのは『〜ソナ』の公開前ですよね?もうシナリオを書き始めていた頃ですね。

OIT:ちょうど書いているという頃でした。
YY:そうですよね。(『愛しきソナ』を)作り終えた後、どっと一回落ちたんですけど、やっと立ち直った頃で。

OIT:そして、満を持してという感じですか?
YY:そうですね。長い間、構成というか、作りは考えていたのですが、シナリオはだいぶ書いて、初めて書いてみながらも書き直してみたり、というより、たくさん書いたものをばんばん削ぎ落していった感じです。

OIT:その時、この映画に至るまで、(『愛しきソナ』の内容のため、北朝鮮)に渡れなくなり、ドキュメンタリーという手法で撮れなくなったことを話してくれました。
YY:入国禁止になったのもありますけど、(同時に)カメラの前で出来る話は限られていますから。それは日本人でも誰でも、絶対にあると思うんです。特に北(朝鮮)絡みとか、在日(朝鮮人)とか、北朝鮮にいる人はもちろんですが、迷惑が掛かるかも、問題になるかも、というのがあるので。だから2本のドキュメンタリーを出した時から、風景の様なドキュメンタリーになるのは分かって作っていました。でも(たとえ)風景でも、やっぱりメディアでいつも見せられている北朝鮮の画とはちょっと違うのもあっていいだろうというのはありました。でもなかなかカメラの前でできない話、もしくは、カメラが無くても話せない話、誰にも絶対この話はしないと蓋をしているような話がより核心的だったり、ドラマチックだったりするんだなというのはずっと思っていて、それをフィクションでやりたいと思ったんです。


『かぞくのくに』

8月4日(土)より、テアトル新宿、109シネマズ川崎ほか全国順次ロードショー

監督・脚本:ヤン・ヨンヒ
企画・エグゼクティブプロデューサー: 河村光庸
プロデューサー:佐藤順子、越川道夫
音楽:岩代太郎
撮影:戸田義久
照明:山本浩資
音響:菊池信之
美術:丸尾知行
衣装:宮本まさ江
編集:菊井貴繁
出演:安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、京野ことみ、大森立嗣、村上淳、省吾、塩田貞治、鈴木晋介、山田真歩、井村空美、吉岡睦雄、玄覺悠子、金守珍、諏訪太朗、宮崎美子、津嘉山正種

© 2011 Star Sands, Inc.

2012年/日本/100分/カラー/16:9/HD
配給:スターサンズ

『かぞくのくに』
オフィシャルサイト
http://kazokunokuni.com/


『愛しきソナ』インタヴュー
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