OUTSIDE IN TOKYO
Yang Yonghi Interview

ヤン・ヨンヒ『かぞくのくに』インタヴュー

5. もうオフィシャル問題児になるしかない。あの家族を罰しちゃうとあそこの娘が
 また映画にするぞ、またうるさいぞっていうくらいにならないと
 (北にいる家族を)守れない

1  |  2  |  3  |  4  |  5



OIT:日本に来た時の懐かしさもありながら来たいという欲求もあるだろうけど、来ることもまた更に辛いという。
YY:そうですね。また帰る前提ですし。たとえば、拉致被害者の方じゃないですけど、せっかく来たんだからもう帰るのはよしなよっていう話にはならない訳ですよね、うちの家って。それがすごくおもしろいというか、そういう会話すらできないような家だったので。冗談っぽく私は言いますけど、お兄ちゃんもうおったらええねんって言うと、もう苦笑いしてますけど。一つは、たとえば、日本に脱北したからって幸せになる保証はないですよね。それも事実だとは思うんですが。あの息子3人を行かせたうちの父とか、何だろうな、明日帰って来いって急に言われても帰るっていう、あの規律の正しさみたいのはね、恐ろしい訳ですよ、本当に。でも戦争中は日本人の各家庭にも結構あったと思うんですよね。やっぱり(赤)紙が来ると絶対行ったじゃないですか、ほとんどがね。今でもあれが生きているというのが何なんだろうって(思います)。でもそういう家族がおもしろいなとも思えるので、映画にしてると思うんですけどね(笑)。

OIT:先ほどコーヒーの話もありましたし、スーツケースの話もあったんですけど、(フィクションでは)映像的に自らが画を作っていけるわけですが、他にはどういうところを拘って作ったのでしょうか。ポスターにあるように、一つの視線の方向ですら演出していかなければいけないと思うのですが。
YY:ソンホは常に淡々としている。お父さんの前で一度だけキレますけど、画というか、その個人のキャラクターの一貫性はあるけど、ある時は全然違う一面が見えちゃうというのはありますね。

OIT:それをちょっとした仕草で表現するとか。
YY:まあ、何かをするという場合もあるけど、何かを敢えてしないというのもありますよね。泣かないとか、何も言わないとか。リエが、(兄は)病院で悪性の腫瘍だって言われて、みんな家に帰ってきて、お母さんもなんか代われるものなら代わってあげたいと言うし、伯父さんは伯父さんであいつを北朝鮮に行かせなきゃよかったんだということをバーっと言うし、ソンホが脳腫瘍だってことも辛いけど、伯父さんがそういう昔の話をするから、みんな辛くなるシーンの時に、リエが一人でハーって感じなんですよね。その時のリエは、なんかもう聞き飽きてると。この伯父さんの台詞も。何度もこんな話が酒を飲む度に出る訳ですよ。お父さんと伯父さんの間で。息子を一回日本に来させる為に5年間も親は頑張ったと。その間に伯父さんがお金の工面をする話もしただろうし、その度に本当にもう脱北でもさせるか、じゃないけど、そんなことを伯父ちゃんはいつもいつもいつも言ってるので、リエはまたかよ、みたいな。言ってもしょーがねーじゃんとか思ってて。ああいうところは、ある在日の人が試写を観てね、当事者が作ってるなと思ったと。もしかしたら日本の監督さんだったら、リエも一緒に泣いちゃうかもしれないけど、ああいうリエに共感できたみたいなことを、若い子だったんですけど言っていて。ああ、そういうところはおもしろいなって、お客さんって細かいところを観てますよね。おもしろいなーと思いました。(映画で)描かれるのは一週間ですけど、その一週間に出てくる一人一人の人生がずっとあるわけなので、そのキャラクター設定というのはすごく綿密にしっかりやっていたつもりです。それは役者さんたちとすごく話し込んでますね。

OIT:それはリハを通してですか?それとも個別に?
YY:個別です。と言っても個別に会う時間はないので、お弁当を食べてる時とか、他のスタッフがスタンバイしてる時間に、いつも誰かの横にいて何かしゃべってましたね。撮影期間は一度も座ってないぐらい。ディレクターズチェアもなかったんですけど、チェアあっても座ってないだろうなっていうくらいでした。

OIT:その個別で話すことによってバランスのズレを調整したとか?
YY:個別に話したのは、演じるその人だけが分かってればいいことなので。あまり他の人の話まで、役者さんたちも聞きたくないだろうと。とてもテンパった二週間だったので、相手がどう出るかっていうのを最初から分かっているより、一人一人別にしゃべってました。時間を惜しんで。

OIT:これを撮ったことで何か消化できましたか?もちろん今後も続いていくことだとは思うんですけど。
YY:なんか、ドキュメンタリーもそうですけど、ずっと作りたいと思ってたことを一つやり遂げたというのはあります。でもその度にまた始まっちゃうという。そうですね、また新しく始まっちゃったかなという感じで、さすがに家族は心配です。お兄ちゃんの結構込み入った話まで出しちゃってるので(笑)。もうね、オフィシャル問題児になるしかないですよね。あの家族には手を付けるなっていうくらいに、あの家族を罰しちゃうとあそこの娘がまた映画にするぞ、またうるさいぞっていうくらいにならないと守れないかなと思ってます。家族がいるからということで、みんな言いたいことを言わずに、親の世代というか、私の世代までやっぱりみんな北と関連のある人たちは黙っちゃってますけど、もうそういうのは終わりにしたいと思います。日本人にはちょっと関わりのない話かもっていつも言われますけど、まあ、日本人妻と言われる、日本人の方も北朝鮮にはいらっしゃいますし。そんなに縁のない話でもないと思ってほしい。やっぱり日本にいる家族の話だから、日本の一部だとも思ってますし、結構色んな家族がいるってことですよ、東京にも、日本にも。もっと色々な話が出てきていいと思うんですけど。うちの家族の特殊性もありますけど、うちの家族だけすごく特殊だとも私は思っていなくて、こういう北朝鮮との関係の特殊性はあるけども、私はDVの経験もないし、親が離婚して苦労した経験もないし、そういう意味ではお互い違う荷物を背負ってるだけで経験があるというか。在日を見ると日本がすごくよく見えるということは、日本にいる人より海外にいる学者さんたちの方がよく分かっていて、すごく在日の研究をしていますね。在日の中でもやはりコリアンになる、歴史的に見ても人数が一番多かったし、今はチャイニーズの方が多くなってますけど。海外の大学院では、日本の研究のために在日の研究をする。そこら辺は当事者というか、日本にいるとむしろ疎くなりやすいですよね。なんか、こういうのを楽しんでしまえばいいと思います。

OIT:次(の映画)も楽しみにしてます。
YY:作るのも大変だけど、これを観ていただくのも本当に大変で。だって作るスタッフより宣伝配給スタッフの方が仕事は長いですからね。

OIT:オフィシャル事にしていくにも必要な過程かもしれませんね。
YY:(どうぞ)私を問題児にしてください(笑)!


1  |  2  |  3  |  4  |  5