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レオナルド・ディカプリオ『シャッター・アイランド』記者会見全文掲載


2010年3月11日 東京ミッドタウンにて
文:江口研一 写真:上原輝樹
2010.4.1 update

マーティン・スコセッシとレオナルド・ディカプリオの4度目のタッグ。敬愛する監督の作品に出演することがもはや恒例ともなったレオナルド・ディカプリオ。名監督と有名俳優という、ある意味、理想的とも言える、相思相愛の関係だが、互いに尊敬を表明しながら互いに利用し合える“清い”関係だ。『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02)から始まった2人の関係の始まりは、彼の出演により映画の資金がようやく捻出できた上、ディカプリオのキャリアにとっても確実に箔がつくものだった。子役時代から演技力を評価されながら、それまで『タイタニック』(97)の成功の延長線上のアイドルとして、正当な扱いを受けていなかった彼にとって、ダニエル・デイ=ルイスと渡り合い、実力派の名声を手に入れた記念すべき時期だ。その後の『アビエイター』(04)はディカプリオにゴールデン・グローブの主演男優賞をもたらし、『ディパーテッド』(06)ではスコセッシにオスカーをもたらした。だがディカプリオが何度も話すように、彼が憧れているのはスコセッシとロバート・デ・ニーロとの黄金タッグかもしれない。『ミーン・ストリート』(73)、『タクシー・ドライバー』(76)、『ニューヨーク・ニューヨーク』(77)、『レイジング・ブル』(80)、『キング・オブ・コメディ』(82)、『ケープ・フィアー』(91)、『カジノ』(95)と、互いを高め合った2人の黄金期だ。だが信頼関係と共に、個性がぶつかり合う激しい関係とは違い、ディカプリオとのそれは師匠と弟子のようなものかもしれない。 デニス・ルヘインの原作を映画化したこの新作『シャッター・アイランド』では隔絶された島に精神病院に一人の刑事が行方不明患者の捜査に入るところから始まる。だが嵐のために島から出られず、誰もが嘘をついているように見える院長や看守たちを調べ始めるものの、謎が謎を呼び、何が真実か、何が嘘か分からなくなる、複雑なサスペンスに仕上がっている。

一時は公開が延期されたものの、この『シャッター・アイランド』の記者会見のためにディカプリオは、きちんと自分の言葉で映画について語り、好感が持てた。そこで何度も出たのが、どれだけスコセッシとデ・ニーロとの作品を見て育ち、影響を受けてきたかだった。セレブリティの記事で扱われる彼とは違う、精神的にも大人に成長した一人の映画好きな俳優の姿を見た気がした。

1. スコセッシ監督とロバート・デ・ニーロは、偉大な映画的信頼関係を作り上げ、
  僕はそれを見て育ち、尊敬してきた

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Q:(この映画は)非常にむずかしかったとのことですが、どんなところが一番むずかしかったですか?
レオナルド・ディカプリオ:この映画は、何が真実で、何が真実でないか、何が彼の幻想の産物で、彼の夢の世界なのか、どの部分が彼の過去なのか、という境界を曖昧にしていくものです。そして自分の演じているキャラクターが体験する心の旅を、映画を通してずっと維持しなければならないし、同時に、ある意味、連続した短編映画を作るようで、とてもチャレンジングでした。よくあることですが、脚本を読んでも、実際にやってみるまで感情的なインパクトが把握できない時があるけど、この映画はそんなことの連続でした。往々にして、現場に入ると、ひとつのシーンが3〜4ページに亘って書かれていると、(最初は)脚本をさらっと読むだけだったりします。でもこの台本を現場で読んで、「わっ、ここがこの映画で一番大事なシーンになるはずだ」とはっとすることが何度もありました。短い段落の、ある過去の出来事の説明で、男に何があったのか、この映画のすべてと言っていいくらいを、表しているのではないかという瞬間が何度もありました。そこで僕とスコセッシは心の境界線を最大限まで押し広げ、可能な限り、男を丸裸にし、感情を露わにしなければならない状況を何度も迎え、まあ、いくらジャンル映画の枠に頼っているとは言っても、ひとりの男の複雑な考察だということに拘ったのです。
Q:スコセッシ監督と一緒に仕事をするのは4度目ということで、彼との仕事にはもう慣れていると思います。彼から新しいことは学べましたか?今回はどう一緒に作業していきましたか?
L:彼を映画作家たらしめ、彼が映画というアート・フォームにとってどれだけ意義深く、大切な存在であるかという理由はたくさんあります。彼は新しい現場に入る度に、常に既存の境界を崩していきます。それに自分だけでなく、周囲の人間にも挑戦を求めます。彼はカメラの匠であり、音楽の巨匠でもある。でも彼を最も際立たせるのは、彼が築く俳優との関係です。それは彼がロバート・デ・ニーロとの仕事で切り開いてきたものですが、それは映画史上、最も偉大な映画的(信頼)関係と言えるでしょう。2人は最も素晴らしい作品を作り上げ、僕はそれを見て育ち、尊敬してきました。そんな彼とここ10年一緒に仕事してきて、本当の意味で理解し始めたことがあります。それは彼が脚本にあることを映画にしようと目指すだけでなく、彼自身が語りたい物語の感情的な流れに誘うために、役者をとても大切にしていることです。それは彼が、役者が感情的にどこまで行けるか、どこまで役柄に自分を注げるか見届けたいということ。俳優がどれだけキャラクターに入れこめるか、その道のりを映したいんだと思います。そして俳優をどこまで導けるかを、彼自身が観客の目で見届けたいのでしょう。彼はそんな基準で編集しているんです。それは責任という意味でも、セットに足を踏み入れる度に、すごく勇気づけられることです。それは主役に限ったことではなく、一日だろうと一週間だろうと、例え数時間でも、同じように、彼は俳優が何を持ち込んでくれるかに関心があります。それに彼は俳優が辿るプロセスに魅力を感じ、セットでどんなことが起きるかに驚きを隠しません。それがようやく学んだことです。最終的に映画が自分にどんな意味を持つか、映画で何を伝えるかを左右するのが、自分と俳優とのコラボレーションだと分かってるんです。

『シャッター・アイランド』
原題:SHUTTER ISLAND

4月9日(金)TOHOシネマズスカラ座ほか全国超拡大ロードショー

監督:マーティン・スコセッシ
脚本:レータ・カログリディス
原作:デニス・ルヘイン
製作:マイク・メダヴォイ、アーノルド・W・メッサー、ブラッドリー・J・フィッシャー、マーティン・スコセッシ
製作総指揮:クリス・ブリガム、レータ・カログリディス、デニス・ルヘイン、ジャンニ・ヌナリ、ルイス・フィリップス
撮影監督:ロバート・リチャードソン、ASC
美術デザイン:ダンテ・フェレッティ
編集:セルマ・スクーンメイカー
衣装デザイナー:サンディ・パウエル
視覚効果スーパーバイザー:ロブ・リガト
共同プロデューサー:ジョセフ・ライディ、エマ・ティリンジャー、エイミー・ハーマン
音楽:ロビー・ロバートソン
出演:レオナルド・ディカプリオ、 マーク・ラファロ、 ベン・キングズレー、 ミシェル・ウィリアムズ、 パトリシア・クラークソン、 マックス・フォン・シドー、 エミリー・モーティマー、 ジャッキー・アール・ヘイリー、 イライアス・コティーズ

2009年/アメリカ/138分/カラー
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン

(C) 2010 by PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.

『シャッター・アイランド』
オフィシャルサイト
http://www.s-island.jp/
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