OUTSIDE IN TOKYO
ABEL & GORDON INTERVIEW

アベル&ゴードン『ロスト・イン・パリ』インタヴュー

4. 人間の体の不完全な部分を含めて身体性を讃えたいという気持ちがあります

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OIT:具体的なシーンであと二つお聞きしたいのです。『ロスト・イン・パリ』のこの冒頭のとんでもないシーンが大好きなのですが、チャップリンの映画でも似たシーンがあります。そうした過去の作品は着想の元になっていますか?
ドミニク・アベル:実際にこのシーンを撮っていた時は全然気付いていなかったのですが、出来上がった後に、このシーンは『黄金狂時代』(25)に似てますねって言われて、確かにそうだなと気付きました。こうしたシーンは道化師の古い伝統でもあるんです、恐らくチャップリンがそれを初めて映画という形でフィルムに残しましたけれども、相当古い時代から身体的なギャグというのは存在していて、世代を超えて受け継がれてきたものだと思います。自分たちにしてみれば、凄いアイデアを思い付いた!と思ってやったら、実はもう何万回も行われていたということもあるんですね。
フィオナ・ゴードン:足のダンスシーンは、あれは実際に同じ作品の中のシーンが着想元になっています。
OIT:ああ、なるほど!エマニュエル・リヴァとピエール・リシャールのとてもチャーミングなダンスシーンですね。もう一つ聞きたいシーンがあります、自由の女神の後ろで星が回っていましたね。
ドミニク・アベル:それは後から付け加えたものです、CGですね。これは私達のアイディアではありませんでした。
OIT:スタッフのアイディアですか?
ドミニク・アベル:フィルムを逆回しして作ったそうなのですが、これは元々使うはずではなかったシーンなのですが、技術の人が二つ星を加えて見てみたいというのでやってみて、結局、そのまま使おうということになりました。
フィオナ・ゴードン:ただその前に、自由の女神のショットが、ストックショットみたいで、生き生きしていないなということは言っていたんです、だから生き生きした感じを加えるために技術の人が思い付いてくれたという感じですね。
ドミニク・アベル:最初のロケハンをした時に、まずフィオナが落ちる橋を探したんです、その時にグリーンで照明の具合も非常に良かったのでこの橋が気に入って、その後ここに自由の女神があったので、いわゆるホームレスのテントをここに置くにはぴったりだなという風に感じました。つまりホームレスというのは自由でありつつ、何も持たない存在ですから、象徴的にもここがいいなと思って、この場所を中心に撮影をしたんです。
OIT:自由でありつつ何も持たないっていうキャラクター、そのコントラストがとてもお二人の映画らしいなと、今、聞いて思ったんですけど、自由を目指しつつも、人間の体ってやっぱり限界があるので、色々不自由なことが日常生活の中で多いと思うんですけど、そういう矛盾した二重性を、お二人は映画の中で表現されている気がします。
フィオナ・ゴードン:おっしゃる通りですね。自由というのは主観的なものだと思うんですね、体というのは実際の体とは違うものを求めるという部分が人にはあると思います。人間の体の不完全な部分を含めて身体性を讃えたいという気持ちがあります。不完全だからこそ面白いのであり、一人一人個性的なわけですよね。体に閉じ込められていると同時に、そこが非常に興味深い部分でもあるという風に思っています。これはメッセージとして伝えたいということではありませんが、そういう面で色々な実験をするのが好きなんです。

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