OUTSIDE IN TOKYO
ABEL & GORDON INTERVIEW

アベル&ゴードン『ロスト・イン・パリ』インタヴュー

5. 実際にエマニュエル・リヴァさんが住んでいたアパートメントで
 撮影をさせてもらいました

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ドミニク・アベル:それはマーサのキャラクターにも現れています。マーサはアーティストで絶対に服従を拒む存在ですよね、フィオナは50歳を超えているけれども、本当の人生というのをまだ歩み出していない女性です。ですからマーサがフィオナにそういうリスクを犯して冒険をする機会を与えてくれるわけです。マーサのお陰で彼女は人生を見出していく。それから原題の“Paris Pieds Nus”というのは“裸足でパリ”という意味ですけれども、そこにもその特徴は現れていて、非常に官能的であり、自由であり、大胆だけれども、脆くもあるということを表しています。これは自由には脆さがつきまとう、代償が必要だということの現れなのです。
OIT:マーサを演じたエマニュエル・リヴァですけれども、彼女はこの作品が(現時点での)遺作となっているようですが、その少し前がハネケの『愛、アムール』(12)でしたから、凄く軽快なアーティストの役を演じたこの作品が遺作になって、もちろん、亡くなられてしまったことは残念とはいえ、むしろ彼女にとっても良かったんじゃないかなと思って観ていました。
フィオナ・ゴードン:そうですね、私達もとても誇りに思っています。それまでは非常にシリアスな役の多い女優さんでしたから、まずこの役を引き受けること自体が彼女にとって思いきった選択だったと思うんです。本当に晩年の大きな冒険だったと思いますけれども、彼女からの贈り物だったという風に私達は思っていて、私達にとって大切なことでした。
OIT:現場ではどのような感じでしたか?
フィオナ・ゴードン:感覚的な女優さんで、本能的なんですね。ですから私達とは全く違うタイプであるにも関わらず、凄く良く理解し合うことが出来ました。例えば猫のようにやってと言うと、「分かります」って言ってくれるんですね、その猫もアパルトマンで飼われているような猫じゃなくて野良猫ねって言うと、「あ~、分かります、分かります」って言ってくれて、お互いにとても良く理解し合うことが出来ました。最初に彼女は、舞台ではたくさんリハーサルをするけれども、映画の場合は自然に出てくる演技を重視するので、あまりリハーサルはやらないのって言っていたのでちょっと心配だったんです、私達は詰めてから撮るタイプですから。でも実際に撮影に入ったら彼女は喜んで何度もやってくれました、ちょっと違うニュアンスでやってみようかとか、ここやり直しましょうかとか、今の満足してないでしょ?、じゃあもう一回やりましょう、という風に言ってくれたりして、撮影はとても上手くいきました。
ドミニク・アベル:実人生では、彼女はむしろマーサに似ているんです、本当の彼女はマーサに近い人で、実際に彼女のアパルトマンに行った時、とてもアーティストらしくていいねっていう話をしたら、じゃあ、もし良ければここで撮影しますか?って言ってくれて、実際に彼女のアパルトマンで撮影をしたんですよ。
OIT:映画の中のマーサの部屋は、実際にエマニュエル・リヴァさんが住んでいたアパートメントなのですか?
ドミニク・アベル:そうです、彼女の家で実際に撮影をさせてもらったのです。エマニュエルさんのお陰でこのマーサという役が非常に膨らんだと思います。私達は実際にお会いするまでそうしたことを知らなかったのですが、実は彼女はキートンも大好きだし、詩人のような一面をお持ちの方でした。家族もいないし、子供もいなくて、本当に一切妥協をしないで自分の人生を映画や演劇、ポエジーに捧げた人だったのです。ですから彼女のお陰でこの役も非常に豊かなものになったと思います。

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