OUTSIDE IN TOKYO
ALEXANDER PAYNE, GEORGE CLOONEY & SHAILENE WOODLEY INTERVIEW

アレクサンダー・ペイン、ジョージ・クルーニー&シャイリーン・ウッドリー
『ファミリー・ツリー』インタヴュー

3. 何もかも順調だったはずが、
 ある日事件が起きて全てを失ったことを認めざるをえなくなる。
 こういうアイディアが好きなんだ(ジョージ・クルーニー)

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劇中では、娘から多くのことを学ぶことになったクルーニーだが、現実はやはり少し様子が違っていたようだ。
ロサンゼルスで読み合わせのために彼が部屋に来るまでは、それほどドキドキはしていなかったんです。でも彼を見たら冷や汗が出て、手が震えました。でも、彼はそばに来て私をハグしてくれて、「ようこそ、お嬢さん」と言ってくれたんです。それで、すぐに怖い気持ちは消え去りました。彼はとっても素晴らしい人です。私は、ジョージ・クルーニーという有名な映画スターとしては見ていません。彼はジョージ・クルーニーという名前のケンタッキー出身の優しい人というだけです。そしてすべての面でダイナミックな人です。
ジョージ・クルーニーは、これまでも何度か父親の役を演じてきた(『素晴らしき日』(96)、『オー・ブラザー!』(00)、『シリアナ』(05)、『ファンタスティック Mr.FOX』(09))が、今回の役はとてもやりやすかったという。ある意味では『マイレイージ、マイライフ』(09)の主人公、サメのように世の中を渡り歩く“リストラ宣告人”とは好対照な役柄と言えるかもしれない。
彼(マット・キング)はナイス・ガイで、仕事熱心だ。彼としては家族によく尽くしていると思っている。彼は何もかも適切にやっていると思っているんだ。こういう人は理解しやすい。レッドフォードが『普通の人々』(80)について話したことを覚えているんだが。あの作品の登場人物たち、あの家族は何事もなくうまくいっていたと言うんだ。夫婦の間は冷え切っているとはいえ、(表面上は)何もかも順調だったはずが、途中で悲惨な出来事が起こる。こういうアイディアが好きなんだ。というのは、(本作では)人生の過程として、子供たちは失敗し、妻が煙草を吸って酒を飲み浮気をしていたとしても、彼はそんなことになっているとはまったく気づいていない。でも、ある事件が起きて、この男は自分が今まで主張してきたものを全部失ったことを認めざるをえなくなる。彼には人を見抜く力がないんだ。これは面白いキャラクターだと思う。というのは、僕がいつも演じるキャラクターはしっかりした人物で、徐々に心を失っていることに気づく。今回の役は心を失ってはいないが、優しい男だ。ただ認識が甘い。
クルーニーとは以前から親交があったというアレクサンダー・ペインだが、今回、クルーニーを配役するにあたって、監督なりの企みがあったようだ。
彼の新たな一面を見たいと思った。彼は作品によってはかなり無防備なところを見せている。『フィクサー』(07)や『シリアナ』では一瞬だけ、そういう面が見える。彼が泣くかどうか確信はなかったんだ。どんな感情を見せるべきか役者に指示を出したいとは思わないからね。シナリオを見せて、どんな反応が見られるか、それを見たいだけだ。無理に押しつけたくはない。でも、こう思ったよ。“もしも彼が泣くとしたら、どんな泣き方をするか見たいな。今まで一度も見たことがないから”と。結局、彼は泣く姿を見せたんだ。
いつもの“ジョージ・クルーニー”とひと味違う、“普通の父親”を演じたクルーニーは、こうした幅の広さこそが、演じることの楽しみである、と思っているフシがある。
『アラバマ物語』でシングル・ファーザーを演じたグレゴリー・ペックの演技と原作の役柄のすばらしさは、彼が見てすぐ判るようなヒーローではないところだ。彼が(黒人を弁護するという役目に)乗り気ではないからこそ、あの役は引き立つ。彼は大義を掲げることには気が進まず、あのような行動をとるのは彼には辛いことだった。彼が役になりきるところには感服している。あのグレゴリー・ペックは、人々が良く知っているような彼ではない。眼鏡をかけていて、いつもの――『ローマの休日』(53)のような(格好いい)彼ではない。だからこそ、僕はあの映画のグレゴリーがとても好きなんだ。
出演する作品を選ぶ時の判断基準は、脚本と監督であると明言しているクルーニーだが、アレクサンダー・ペインとなら、どんな脚本でも関係なく出演しただろうと言う。クルーニーは、具体的なシーンを挙げて、ペインの監督としての手腕を賞賛している。
アレクサンダーは物語をとても早く変化させることができるんだ。面白くなったと思ったら、悲しくなったり、それでまた面白くなったりってね。これは彼に備わっている天性の才能で、勉強して得られるようなものじゃない。彼のような才能を持っている人はなかなかいないよ。例えば、ラストの方のシーンでそれがうまく効果をあげている。(自分の妻の不倫相手の妻を演じた)ジュリー(ジュディ・グリア)があの場面ではとても面白い。ひどく悲しいのに、おかしいんだ。ジュリーはまさに渾身の演技を見せた。あれは監督の演出力の賜物だよ。僕の役目は、あのシーンをダメにしないように気をつけることだった。これは本当の話だ。

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