OUTSIDE IN TOKYO
Carla Simón INTERVIEW

主人公は母親を亡くした少女のフリダ(ライラ・アルティガス)、母親と共に住んでいたバルセロナの家を離れて、叔母マルガ(ブルーナ・クシ)と叔父エステバ(ダビ・ベルダゲル)が、一人娘アナ(パウラ・ロブレス)と住む、盛夏の緑豊かなカタルーニャの山腹に建つ一軒家へと預けられるところから映画は始まる。バルセロナの都会から、カタルーニャの田舎に引っ越したフリダにとって、目に入るものの全てが新鮮で奇異に写る。そうした新世界を目撃するフリダの生々しい表情を捉えた映像が素晴らしい。

何故、母親が急にいなくなってしまったのかも理解できず、実子であるアナに微妙なライバル心を燃やしながら、突如降り掛かってきた人生の”悲劇”と”ミステリー”に戸惑いながらも小さな体で向き合っていくしかない少女フリダが置かれた境遇の複雑さもさることながら、そんな少女の存在を家族全体で受けとめることになった、若い夫婦にとっても事態は容易ではない。

しかし、そうして言葉にしてしまうと過酷な印象すら与えかねない、少女のひと夏(原題”1993年、夏”)の経験を描いた本作『悲しみに、こんにちは』は、カタルーニャの美しい自然と映画的感興を誘うその地の風俗、素晴らしい石造りの一軒家、愛くるしい子どもたち、さり気ない善良さを発揮する大人たち、そして、素晴らしい音響で鳴り響く音楽と夏山の環境音のおかげで、実に瑞々しいイマージュとサウンドに満ち溢れている。

映画は、フリダの視点に寄り添って描かれていく。彼女にとって不可解なことは観客にとっても不可解であり続けるのだ。物語のミステリーは連綿と連なり、ひとつの謎が明かされても、また別の謎が現れ、物語はミステリーのリレーによって駆動されていく。スペインの新鋭カルラ・シモン監督は、自伝的内容を扱うことで、まさに彼女にしか撮ることのできない、作家性の強い内容を主題として扱いながらも、見るものを見事に惹き込む映画的な語りの手法で、観客を虜にする術を心得ているようだ。長編処女作にして、これほどの傑作を創り上げたカルラ・シモン監督に、まずは、この作品に至るまでの足跡を尋ねてみた。

1. エイズにかかった子供達についての映画『BORN POSITIVE』(12)は、
 私の場合は両親のHIVは移らなかったけれど、もし移っていたらどう感じていだだろう?
 ということを映画に撮った作品でした

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):カルラ・シモン監督がこの作品を撮るに至った経緯を、今までの作品を振り返る形でお話頂いてもよろしいでしょうか?
カルラ・シモン:まず最初に、バルセロナの大学でオーディオ・ビジュアル・コミュニケーションを学び、その間に、カリフォルニアに1年間留学をしました。そして、バルセロナの大学を卒業した後、奨学金を得ることができたので、ロンドンに渡り、フィルム・スクールに入りました。カリフォルニア時代に、友人と初めて撮った短編映画『WOMEN』(09)では、色々な実験的なことに挑戦し、ロンドン・フィルム・スクールで撮った『BORN POSITIVE』(12)は、エイズにかかった子供達についての短編映画でした。私の場合、両親のHIVは私には移らなかったけれど、もし移っていたらどう感じていだだろう?ということを映画に撮りたかったのです。HIVポジティブの子どもたちは映画には出たがらなかったので、声だけ録って演じるのは別の人にやってもらいました。ですから、声は実際の子どもたちのものを使っています。

3作目の短編映画『LIPSTICK』(13)は、今回の映画の直接的なきっかけになったもので、ふたりの子どもがお婆ちゃんの死に直面するというテーマを扱っています。子どもたちが“死”というものをどのように捉えていくのかという視点を深めていくきっかけになった映画です。『LAS PEQUEÑAS COSAS』(14)は、ロンドン時代の卒業作品になるのですが、低身長症の女性とその母親の関係について描いたものです。今回の作品でもフリダの叔母さんのロラとして低身長症の女性が映画に出てきますけれども、私の実際の母親と叔母、お婆ちゃんとの関係を書いたもので、事実、その関係は非常に難しいものだったので、叔母が亡くなった時にその短編を作ったのです。『LLACUNES』という短編映画は、実際の母親がかつて書いた手紙を私が読み上げることで空間を埋めていく作品ですけれども、母親が手紙を書いた実際の場所を訪れて、自分の声を録音するという試みで、非常に実験的な作りになっています。『悲しみに、こんにちは』の脚本を書きながら作った短編映画で、実際の母親との“思い出”がなかったものですから、母親との思い出を新たに構築していくような、非常に美しいプロジェクトになりました。


『悲しみに、こんにちは』
英題:SUMMER 1993

7月21日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開!

脚本・監督:カルラ・シモン
製作:バレリー・デルピエール
影:サンディアゴ・ラカ
編集:ディダク・パロ、アナ・プファ
出演:ライラ・アルティガス、パウラ・ロブレス、ブルーナ・クッシ、ダビド・ヴェルダグエル、フェルミ・レイザック

© 2015,SUMMER 1993

2017年/スペイン/カタルーニャ語/96分
配給・宣伝:太秦、ノーム

『悲しみに、こんにちは』
オフィシャルサイト
http://kana-shimi.com

カルラ・シモン監督のWEBサイト
https://www.carla-simon.com/
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