OUTSIDE IN TOKYO
Valérie Donzelli & Jérémie Elkaïm INTERVIEW

ヴァレリー・ドンゼッリ&ジェレミー・エルカイム『わたしたちの宣戦布告』インタヴュー

4. 観客を人質に捕るようなことはしたくなかった(ジェレミー・エルカイム)

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Q:この映画はエモーショナルで非常に独創的なスタイルを持っていると思うんですが、中でも突然ミュージカル・シーンが登場するのも印象的でした。あそこにミュージカル・シーンを入れようと思ったのはどうしてですか?
VD:あのミュージカル・シーンはジェレミーのアイデアなんです、ジェレミーに、やっぱり歌を入れた方がいいよと言われたのですが、私としてはどんな歌を入れたらいいのか分からないと思っていて、最初はありものの歌を使うつもりでアンヌ・シルベストルという女性歌手の、それも恋愛ものですが、あまりにミーハーな感じでよくないんじゃないってところで、なかなか決断出来ずにいたんです。ある晩、はたと思いついて、そうだ、本当の愛の歌を作ればいいんだと思いついてからは、もう自分でささっと歌詞と作曲が出来て、本当に恋人たちが愛し合っているという内容の、君の何々が好きだと列挙していくような歌になったのです。
Q:ジェレミーはどうして歌が入った方がいいと思ったのですか?
VD:彼はすごく思い込みが激しいんです。こうと思ったら絶対にこうじゃないとって思うのですけど、それは必ず正しいんです。そんなことないよ、とかって言ってますけどね(笑)。
JE:なぜそういうミュージカル・シーンを入れたか。それはバランスの問題なんです。とてもエモーショナルな部分とその後の軽やかな部分の、この映画の中で良いバランスを見つけたかった。やっぱり観客を人質に捕るような、パトスであるとか、テーマ自体がシリアスですから、泣かせるような、そういうところに閉じ込めるんじゃなくてね。もちろんそのテーマも真正面から取り扱いたかったんですけど、だからこそバランスをとるために、そういうシリアスさを相殺するような、ちょうど上手くバランスがとれるように、まるで一陣の風が吹くような、酸素を吹き込むような、そういう軽やかさであるとか、コミカルさを入れたかったんです。特に子供が難病にかかっているという状況で、2人が愛し合っているという、ああいうミュージカル・シーンを撮るという。それで本当に相殺してますよね。そういう意味ですごく美しいシーンだと僕らは思っています。
Q:この映画をきっかけにシンガーとしてデビューしたかったわけではないんですね?
JE:みんなのためにもそれはやめておきます(笑)。歌は下手なんです。確かにフランスでは女優とか男優が歌い始めるというのがあるけど、僕が歌い出したら止めて下さいね。僕らの歌っているシーンは、あそこではすごく有益というか有用で、役に立っていますよね。それは物語の中でもそうだし、カップルの抱えている問題を説明する上でもそう。ただ、あのシーンはすごく自分でも美しいシーンだと思うんです、多少音程を外したりしてますけど、まるでセルジュ・ゲンズブールが彼女たちに歌わせ、少しくらい音程が外れて音痴でも、それはそれであり得るかなと。でもそこから俳優たちがアルバムを作ろうなんて話は困ります(笑)。
Q:タイトルに対する思い入れがあれば教えて下さい。“宣戦布告”というので、ちょっと強い言葉だと思うんですけど、それは一体誰に対して宣戦布告しようとしているのか。例えば、自分たち自身なのか、運命なのか、神様なのか。
VD:もちろん、最初に宣戦布告した相手は、すごくシンプルに子供の病気です。でもあとで考えてみると、何に対して戦っているかというと、いろんなことに対して戦いを挑んでいるなと思い始めて。特にカンヌ映画祭の時にジェラール・ホールという映画評論家が素晴らしい批評をしてくれたんですけど、この映画は社会の凡庸性、くだらなさ、個人主義とか、人間の意地悪さ、人間の愚かさとか、そういうものに対する宣戦布告だと言ってくれて、正にその通りだなと思ったんです。フランス人というのはすごく反抗精神が旺盛な国民ですから、これは一つの人生に対するデモみたいなものだと言っていました。私もそう思っていて、すごくいい見方だなと思っています。もう一つ、この映画はフランス映画の製作システムに対する宣戦布告でもあります。フランスでは資金調達はそれほどむずかしいことではないんです。だからすごく高い予算を使ってキャストの俳優たちがすごく莫大なサラリーを受け取っていて、そういう製作システムも存在しているわけです。でもこの映画は全然お金がかかっていないんです。

だいたい130万とか150万ユーロくらいで作って、100万人くらい観客動員している。『最強のふたり』は2000万人くらい入ってますが、利益率は私たちが第二位なんです。『最強のふたり』は例外的な凄さで、あれはちょっと現象ともいうべきすごさですから、その次だというのはスゴいことですよ。最初はこの映画でちょっとヒットすればいいね、くらいに思っていて、プロダクションもこのアイデア、企画の方を気に入ってくれたからプロデューサーもなんとか資金集めしてくれて、そういう形で本当にみんながこの映画を作りたいと思ってくれたから出来上がった映画です。だからお金はかかっていないんです。
Q:『最強のふたり』よりいいと思います!
VD&JE:(笑)。

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