OUTSIDE IN TOKYO
KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

藤本楓『サボテンと海底』インタヴュー

2. “監督”の人物造形は、これまで出会ったことのある学生監督たちをモデルに
 キャラクターを仕上げました。

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藤本楓:この作品の中に、傍若無人で人間味のない“監督”が出てくるんですけど、これまでああいった監督たちに出会ったことがあるので(笑)、その何人かをモデルにして一人のキャラクターに仕上げています。そういった監督に振り回されて映画を嫌いになりかけたこともあって、本当に自分は映画をやりたいのか悩み続けて、洗車のバイトなど映像とは全然関係のない仕事をしていた期間もありました。でもやっぱり映画をやりたいという気持ちがあった時に、自分が修了したプロデュース領域の教授で、ndjcのスーパーバイザーもされていた桝井省志先生から、東京藝大の学生の実習の手伝いをしてみないかとお声掛け頂いて、卒業して2年後位に自分の後輩にあたる人たちの作品制作をサポートする形で入り、その時に(本作の主役を演じている)宮田(佳典)さんに出会いました。

OIT:宮田さんという方はどういう俳優さんなんでしょうか?
藤本楓:基本的にはインディペンデントの映画でご活躍されている方ですが、商業映画にも出られています。私の知り合いの監督の作品にも何本か出ていらっしゃって、その作品を見て、すごく面白い俳優さんだなと思っていたんです。ある現場でご一緒したときに、ネズミの怪人が出てくる設定があって、私がそのネズミの着ぐるみを作って現場に行ったんですけど、その時にネズミの中に入る役者がいない状況になって、急遽ピンチヒッターとしてスーツアクターで呼ばれたのが宮田さんだったんです。顔も一切映らないし、交通費込みで一日5000円位で来てくれて、汗だくになりながらネズミのお芝居をしていて、その姿にすごく心を打たれて、面白い役者さんだなと思って今回の作品で当て書きをしました。

OIT:お話を伺って、この作品には今までの藤本さんの経験が沢山注入されているんだなということが分かりました。脚本に関しては、学校では勉強されてこなかったけれども、今回、初めて指導を受けながら書いたということですね。
藤本楓:そうですね、今回かなりしっかりとご指導を頂いて、勉強しました。私は、脚本家の小川(智子)先生と本当に密に、一対一のやりとりをさせて頂きました。ただその時は全然、自分の脚本の問題点というか穴を上手く形に出来なくて、今回の研修の中で一番苦労をしたのが脚本指導の部分でした。私はどうしても“遊び”を入れたくなるというか、本筋と関係のないところでふざけたくなってしまう性質があって、ちゃんとした骨組みが出来てないのに、上に色々載せたくなっちゃう。そこが自分でも課題だなと思いつつ、中々難しくて一番苦労をしたところでした。

OIT:今回初めて脚本を書かれたわけですから、あれも入れたい、これも入れたいという欲望が湧いてくるのは当然のことのように思います。特に美術の部分では、宮田さんの部屋の中が“耳なし芳一”状態になってましたよね(笑)。あそこまでは普通やらないかもしれませんが、その過剰さに作り手のエネルギーが溢れ出ていたと思います。あと、ギャグがかなり出てきましたけれども、その辺は脚本に書き込まれていたものでしょうか?
藤本楓:そうですね、画に映ってくるギャグに関しては、脚本に書いて、美術部に用意してもらうという流れでしたが、台詞のちょっとした言い回しとかは、現場で役者さんから出て来たものを採用したりしていました。ですから、その辺は完全に自分が作り込んだものですとは言えないところもあって、とても楽しい作業でした。本当に役者さんの力を借りました。脚本に関しては、プリプロの途中から合流した助監督さんの意見も入れ込んだりしながら、最終的に仕上げたという感じです。

OIT:“改訂”のギャグは、じゃあ、最初からあったわけですね。
藤本楓:ndjcに最初に脚本を送った初稿の段階からありましたね。
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