OUTSIDE IN TOKYO
KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

文化庁が主催する「短編映画製作等を通じた若手映画作家人材育成」(「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」)は、若手映画作家の発掘と育成を目的に、映像産業振興機構(VIPO)が文化庁から委託を受けて運営する人材育成事業だが、具体的には、若手映画作家を対象として、ワークショップや製作実地研修をとおして映画製作に必要な知識や技術を学ぶことに加え、作品発表の場を設けることで、作家たちの今後の活動の助力となるよう支援するものであるという。2006年から始まったこの事業では、村松正浩、岨手由貴子、池田暁、山中瑤子、吉野耕平、松永大司といった監督たちが短編作品(25〜30分間)を製作し、期間限定で劇場公開される機会を得てきた。

今年度(2022年度)のndjcで上映されるのは以下4監督の4作品、岡本昌也『うつぶせのまま踊りたい』、成瀬都香『ラ・マヒ』、藤本楓『サボテンと海底』、牧大我『デブリーズ』。OUTSIDE IN TOKYOは、中でも『サボテンと海底』を撮った藤本楓監督に注目し、ここに至るまでの経緯と『サボテンと海底』についてお話を伺う機会を得た。

『サボテンと海底』は、“スタンドイン”という普段あまり日の当たることのない仕事に着目し、その仕事をしながら映画俳優になることを夢見る主人公柳田(宮田佳典)が、オーディションで学生映画の主役の座を得て、尊大な態度の学生映画制作陣に振り回される姿を描くコメディだが、その背景に作り手の“俳優という職業”へのリスペクトがあること、更に言えば、映画の演出とは何かということを巡る説話上の挑戦が、笑いとペーソスの仮面の下に密やかに進行しているところが素晴らしい短編映画である。

1. 大学3年生の時に仲間達と映画を作ろうとしたけど、仲間達の信頼を裏切って
 完成することが出来なかった。自分には監督をする資格がないって、かなり落ち込みました。

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):『サボテンと海底』、とてもリズムの良いコメディで楽しく拝見しました。俳優という職業へのリスペクトもとてもよく伝わってきて、それがとても良かったです。初めに、ここまでに至る経緯をお話頂けますでしょうか。
藤本楓:高校の時から4〜5人の仲間達と映画を作っていて、大学も映像系に行きたいなって思ってたんですけど、舞台も好きだったので、舞台と映像、両方を勉強したいと思っていました。その時、多摩美術大学の夜間で映像演劇学科というのがあって、ここなら両方、私のやりたいことが出来ると思っていたら、私の代で募集が無くなってしまって。その代わりに演劇学科という新しい学科が出来るということだったので、そこに一期生として入りました。ただ、舞台の勉強は出来るけれど映像の勉強は出来ないので、学校の外で、高校の時からやっていた仲間達と自主映画を作り始めて、私は美大生なので、小道具を作ったり、装飾をしたり、ずっと美術部をやっていました。本当は自分の企画で自分の作品を作りたいという気持ちをずっと持っていました。ただ、美術部を一度始めたら重宝されて、芋づる式に色々な現場に呼ばれるようになっちゃって、最初は仲間内でやっていたのが、ミュージック・ビデオの現場に呼ばれたり、WEB CMの現場に呼ばれたり、ちょっと大きな現場の美術助手として呼ばれるようになったりしてたんですけど、いつかは監督をしたいという気持ちをずっと持っていて、大学3年生の終わり位に、一度自分で映画を作ろうって決意したんです。

それで自分で企画して脚本も書いて撮ろうと思い、美術部時代に出来た仲間たちを集めて一緒に撮ろうとしたんですけど、私は舞台の勉強しか学校ではしていないので美術部としての立ち回りは分かるけれど、映画でどういった作業があるのか、全然分かっていなかったので、仲間達からの信頼を失ってしまったというか、こいつには監督は出来ないと見限られてしまったのか、仲間達と上手くいかなくなって映画を完成することが出来なかったんです。それが凄く悔しかったのと、せっかく途中まで協力してくださった役者さんたちにも凄く迷惑を掛けてしまった。役者さんは作品という形になって、そこでした仕事が初めて世に出る、それまで映画が完成するかどうかも分からないのに、時間と労力を私たちのために注ぎ込んでくれている、それを無にしてしまったという罪の意識がずっとあって、自分には監督をする資格がないとかなり落ち込みました。そんな経験があり一から映画を学び直したいと思って、就職はしないで、大学卒業後は大学院の映画専攻で勉強しようと思ったんです。

そのころ丁度、東京藝術大学の修了生たちの現場に美術スタッフとして応援で呼ばれて、そこで“藝大院の映画専攻の中で、唯一過去の経歴がなくても入れる穴場”と教えもらったのがプロデュース領域だったんです(笑)。私は舞台の勉強で美術部はやったことがあっても、映画の基礎的なことがわからない。監督領域は過去作品を、脚本領域は脚本を提出しなければいけないということだったので、プロデュース領域なら私でも入学できるかもしれないと受験し、無事にはいることができました。


『サボテンと海底』

監督・脚本:藤本楓
製作総指揮:松谷孝征(VIPO理事長)
製作:特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)
プロデューサー:阿部謙三、川田尚広
ラインプロデューサー:川上泰弘
撮影:吉田淳志
照明:本間光平
録音:間野翼
美術:前田巴那子
編集:宮島竜治
音響効果:茂野敦史
衣装:山﨑忍、熊田侑里子
ヘアメイク:内城千栄子
助監督:石井純
制作担当:篠﨑周馬
音楽:馬瀬みさき
音楽プロデューサー:有馬由衣
スチール:西邑匡弘
スクリプター:田中小鈴
出演:宮田佳典、佐野岳、大友一生、小野莉奈、石川浩司、ふせえり

制作プロダクション:TOHOスタジオ

2023年/カラー/ビスタサイズ/30分

© 2023 VIPO

『サボテンと海底』
文化庁委託事業『若手映画作家育成プロジェクト』公式サイト
https://www.vipo-ndjc.jp/ndjc/5741/

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