OUTSIDE IN TOKYO
Gu Siaogang Interview

グー・シャオガン『春江水暖〜しゅんこうすいだん』インタヴュー

3. 郁達夫の小説では方言がよく使われていて、
 その文体が台本を書く上でのインスピレーションになりました

1  |  2  |  3  |  4



OIT:以前、ロウ・イエ監督(脚本:メイ・フォン)の『スプリング・フィーヴァー』(2009)を見て、そのインスピレーションになったという小説『春風沈酔の夜』を入手したのですが、それが郁達夫(いく たっぷ)によるものでした。『春江水暖〜しゅんこうすいだん』では、富陽出身の小説家として郁達夫にオマージュが捧げられていましたが、郁達夫という小説家は中国あるいは地元でどのような作家として評価されているのでしょうか?
グー・シャオガン:実は上原さんが郁達夫の小説を出してこない限り、僕も忘れていたくらいの感じなんですけど、まず地元と中国人にとって郁達夫というのは、とても好きな人が多い作家です。人気作家で、魯迅(ろじん)ですとか張愛玲(ちょう あいれい/アイリーン・チャン)とかと同列に語られるような作家ですね。僕の地元、富陽からすると、地元の誉と言いますか、宣伝やPRとしても使われるような人物です。それは富春山居図を描いた黄公望(こう こうぼう)もそうですけど、地元の有名な作家、芸術家をどんどん押し出していこうという感じです。地元では郁達夫の名を冠した文学賞もあります。

僕に関して言うと、実は郁達夫の作品に触れるのがとても遅かったのです、もしかしたら地元でずっと子どもの頃から耳にしている名前で身近過ぎるから逆に触れてこなかったっていうこともあったかもしれませんが、白状すると『春江水暖〜しゅんこうすいだん』の作品を作ろうって思った時に漸く手を出して、ちゃんと読んだというくらい遅かったです。そんな経緯で郁達夫の作品を読んだんですけど、僕が一番関心を持ったのは彼の文体、書き方のスタイルでした。彼の作品では、いわゆる中国の標準語ではなくて、富陽の方言をたくさん使って書いているんですね。単語であったり、文体も地元の人にしか分からない方言であったり、富陽は広州の一部で、上海とも近いので、その辺りの南方の沿岸部の方言をよく使って書いていたんです。

最近ですと、今、中国で凄く人気の『繁華』という小説がありまして、それは今度、ウォン・カーウァイ監督が実写ドラマ化して撮影するのですが、それは上海出身の作家が全編上海語で書いたという作品です。最近ではよくある手法ですけど、当時は方言で書くっていう手法が僕にとっては面白かったんです。親しみのある言葉が書かれていたり、文字から、文章からそこの地域と人を描くという手法にとてもインスピレーションを受けました。郁達夫に触れるのは遅かったんですけど、文字や言葉から表現するっていうことは大きな発見でしたし、台本を書く上でのインスピレーションも得ました。

先ほどお話したメイ・フォン先生から台本が文学的過ぎるから直しなさいって言われたのも、郁達夫の影響を受けてかなり方言っぽく書いてしまったからなんです。なおかつ中国伝統の山水画と映画の融合を推したいという考え方もあったので、古文ではありませんが、古典っぽい書き方をしていた部分もありました。そういう意味でかなり文学的で実務には適さない台本を書いてしまったんですが、メイ・フォン先生はその点も実は面白くて気に入ってくれていたんですね。



←前ページ    1  |  2  |  3  |  4    次ページ→