グー・シャオガン監督の驚くべき長編処女作『春江水暖〜しゅんこうすいだん』は、監督自らが育った街と家族の歴史、21世紀現在の今まさに移ろいゆく時間を、人情と無情の間を行き交う筆致で、市井の人々の人生が豊かに息づく壮大なスケール感の“横スクロール”山水画絵巻として描き出しており、これは3Dでロングショットを撮ったビー・ガン監督にも当てはまることだが、映画における新しいリアリティの獲得に挑戦しており、見るものを奮い立たせずにはいない勇敢さに満ちている。
この稀有な作品『春江水暖〜しゅんこうすいだん』を撮るにあたって、グー・シャオガン監督とそのクルーたちが最も大事にしたことについてインタヴューで語ってくれたので、是非、本文を読んで頂きたいと思うが、その前に、この若き才能が、本作を作るまでどのような道筋を辿ってきたのか、プレス資料に掲載されているインタヴューをベースに簡単に辿っておく。
1988年8月11日生まれ、現在33歳のグー・シャオガン監督は、浙江理工大学に進学時に、アニメ・漫画コースに行きたかったが、希望のコースに行けず、服飾デザインとマーケティングを学んだ。そんな彼が、映画を見るようになったのは、高校3年生の時、友人のプレイステーション・ポータブルの中に入っていた岩井俊二監督の『Love Letter』(1995)や『リリイ・シュシュのすべて』(2001)を見て感動したのが切っ掛けであったという。その後、大学に入り、セルゲイ・パラジャーノフの『ざくろの色』(1971)を見てアートフィルムの魅力に目覚め、更にはジェームズ・キャメロンの『アバター』(2009)を見て、映画の可能性に目覚めたのだという。
「『アバター』では、例えば万物に魂が宿るとか、神の化身だとか、普段目に見えない物事が具現化されていて、すごく分かりやすく描かれていました。それを見て映画って偉大だなと感じて、そう思った時に、「僕も映画を作りたい」という衝動に駆られたんです。」
映画作りに目覚めたグー・シャオガンは、独学でドキュメンタリー映画や短編劇映画の制作に着手するが限界を感じ、北京電影学院で1年間学んだ。その時に学んだ「映画史」が後で役に立ったという。
「北京電影学院で勉強した後、「北京で勉強もしたんだから、これはもう何がなんでも一本映画を撮らなければ」と目標を決めたんです。それから内容を考え始めました。そこで最初に心に浮かんだのが、自分の家族のこと、両親がやっていた料理店のことでした。それで、北京から地元に帰りました、すると、生まれ故郷の街の変化に気がついたのです。2022年にアジア競技大会が開催されるので、それにむけて街全体がアップデートされていました。3つの大きなスタジアムや外国からのゲストや選手が泊まる場所を作るのに、立ち退きや取り壊しがすすみ、街は急激に変化していたんです。僕はドキュメンタリーを作っていた経験から、この瞬間の街を記録することに義務感と言うか、意味を感じました。変化でもあるし、新しい時代の到来でもあると感じました。故郷の急速な変化に強い衝撃を受けたのは、ジャ・ジャンクー監督の『山河ノスタルジア』(2015)の影響もありました。」
「台湾ニューウエーブには大きな影響を受けました。ホウ・シャオシェン監督とエドワード・ヤン監督は、自分の民族文化から世界観を生みだした偉大な監督だと思います。ホウ・シャオシェン監督の中国文人的な美学とエドワード・ヤン監督の都市と時代への視点、そして何よりも二人の監督に共通している現代の家族への慈しみや諦観は僕が作りたいと思った映画に共鳴しています。」
「この映画を家族ものにしようと決めてから、そのテーマを理解していく作業を重ねました。本を読んだり、映画をはじめいろいろなものを見て、中国の家族文化のリサーチをしました。中国に限らず、家族ものの名作と言われている映画も見ました。例えば『悲情城市』(1989)や『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)、それから『東京物語』(1953)『ゴッドファーザー』(1972)といった名作です。もちろんそんなに上手くは撮れないですし、真似をしたいわけではないですが、何かを継承して、名作と言われる作品に少しでも近づけるように努力しました。」
果敢に、”横スクロール”の長回しや素人俳優の起用といった”大技”を繰り出すグー・シャオガン監督だが、その前に”映画史”を学んでいたことが、この大胆な長編処女作を撮る上で欠かせない素地となったであろうことは想像に難くない。2年に渡る撮影期間の後、完成した『春江水暖〜しゅんこうすいだん』は、「千里江東図」とシャオガン監督が名付けた絵巻映画三部作の第一作目であるとも発表されている。時節柄、小さなスクリーン越しの対面となったが、まずは作品を見た感想を監督にお伝えすることからインタヴューを始めた。
1. メイ・フォン先生とお会いしたのはこの映画の撮影を始めて一年目、 |
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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):映画を拝見しまして、映画の世界にまた一人、新しい才能が出てきたと思って興奮を覚えました。監督自らが仰っているように中国伝統の山水画の世界観を映画の中に持ち込んでいるというところがまず新鮮でしたが、同時に、都市開発が現在進行形でどんどん進んでいる場所、監督の故郷である富陽(フーヤン)を捉えている、しかし、その都市開発の未来をあまり薔薇色なものとしては描いていない(街中に掲げられた「有機的な都市開発のために闘おう!」という横断幕もキャメラは捉えている)、その点が、日本の映画ですと小津安二郎監督が日本の戦前から戦後の時代までを描いた、その感覚を想起させるように思いました。 グー・シャオガン:まず上原さんにそのような感想を仰っていただいて、とても嬉しくて光栄に思います。映画を作った時にはまさかこんな世界中の色々な人に観てもらって感想を直接言って頂けるっていうことを考えてもいなかったので、このような状況になったこともとても嬉しく思っています。皆さんに色々な感想も自由に仰っていただいて自由な理解というか解釈をしてもらうことはとてもいい体験だと思います。そういった感想の中には、僕は監督でもありますし脚本家、作者でもありますが、作者の考えていないこと、考えている以上のことを感想で仰って頂けるのはとても貴重な体験だと思っています。 OIT:最初の質問ですが、「芸術コンサルタント」というクレジットでメイ・フォン(梅峰)さんの名前が記されていますが、彼はどのような役割を果たしたのかというのが気になりました。日本では東京国際映画祭で彼の監督作である『ミスター・ノー・プロブレム』(2016)と『恋唄1980』(2020)が上映されていまして、私はそれを2本とも観ていて、とてもいいなと思っていましたので、そのことをお聞きしたいと思います。もちろん彼がロウ・イエの脚本家であるということも存じ上げています。
グー・シャオガン:私はメイ・フォン先生と呼んでいますけれども、メイ・フォン先生とお会いしたのはこの映画の撮影を始めて一年目、夏のパートを撮り終えた頃でした。この映画は全部で二年間撮影していますが、一年目の少し撮影をした頃に出会いました。
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『春江水暖〜しゅんこうすいだん』 英題:Dwelling in the Fuchun Mountains 2月11日より、Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開 監督・脚本:グー・シャオガン 撮影:ユー・ニンフイ、ドン・シュー 音楽:ドウ・ウェイ 芸術コンサルタント:メイ・フォン プロダクション:ファクトリー・ゲイト・フィルムズ 出演:チエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエン、スン・ジャンジエン、スン・ジャンウェイ、ジャン・レンリアン ©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved 2019年/150分/カラー/16:9/5.1ch/中国 配給:ムヴィオラ 『春江水暖〜しゅんこうすいだん』 オフィシャルサイト http://www.moviola.jp/ shunkosuidan/ |
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