OUTSIDE IN TOKYO
HIGUCHI YASUHITO & SUGITA KYOSHI INTERVIEW
【PART2】

杉田協士&boid樋口泰人『ひとつの歌』インタヴュー【PART1】

3. 時間が交差していって、一つの流れから脇道にぐわーっと世界が広がる、
 空間的というよりも時間的な視界が開けていく(樋口)

1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6



樋口:『マイ・ボディガード』(04)は結構、子供との庭のシーンとか、全然物語と関係ないっていうか。
杉田:水泳の練習してたり。
樋口:それが凄い面白かった。だから、さっきの違う目線が交わるっていうことで言うと、一つの物語を流していく大きな流れの時間に関係ない時間がふって紛れ込んでくる、その紛れ込み方が凄く面白いっていうことだと思うのね。そこで時間が交差していって、一つの流れから今度は脇道にぐわーっと広がって、世界が、視界が開けていくっていう。空間的なことっていうよりも時間的な視界が開けてく、そういうようなことだと思うんですけどね。
OIT:そういう話だとすると、『ひとつの歌』は完全にそうだというか、あの2人が出会うのは、何で出会ったのかは分からないけど、追っかけていって、電車で見かけてホームですれ違っただけですよね?
杉田:そうです。その場面を凄いロングで撮っちゃったんで、観た人の5人中3人か4人は気づかないっていう(笑)、ホームに2人だけいる瞬間があるんですけど、ついていく前に、あまりにも引いちゃったんで。
OIT:実は最初に『ひとつの歌』を拝見した時に気づかないことがいっぱいあって、あの電車の音も気づかなかったんですよ。2回目に観たら、これ気づかないってのはやばいなくらいの大きな音で入ってるんですよね。いかに自分が見てるようで見てない、聞いているようで聞いていないかということに気付かされるわけですけど、そのすれ違うところも1回目に観た時、どこで最初に剛は桐子を見つけたのかっていう記憶が曖昧で、遡って反芻したんですけど。
杉田:そのラインは撮影しながら探っていって、実はその電車がキーってなる時もエキストラ20人くらい来てもらってたんですよ。最初はそれで音を聞いて立ち止まる人とか、なんだなんだって駆けてく人とか、散々やったんです。そしたらそれがこの映画に合わないねっていうのがみんなの共通理解になってるんですよね。今回集まった撮影、録音とかのメンバーがなんか違うねって、1人で聞いてるっていうだけでいいんじゃないのって、ちょっと説明的な時間を入れようっていう試みは最初の頃はしてたんですけど、やる度に上手くいかなくて。
OIT:それは、撮影している段階で?
杉田:はい。とりあえず現場の5人(監督、撮影、音響、助監督兼編集、制作)が了解したところで判断していくっていう進め方だったんで。
OIT:その5人でだいたい決めていこうみたいなことは、ある程度杉田さんの頭の中に最初からあったのですか?
杉田:ある程度はあったんですけど、やっぱり始まってからですね、始まんないともう分からない、不安だったんで初日は庭師のシーンにしたんですよね。縁側でお茶飲んでたり、カレー食べたり、甘いもの出された後、松剪定してたり、なんか今回の映画の中であのシーンが一番よく分からないシーンだなっていうか、でも実は中心になるかもしれない時間の流れ方だったんで、それをまず初日にやってみんなでお前ら何処に向かうんだっていうのを確認したいなっていう意識はありました。
OIT:boid paperで読んだんですけど、最初はやっぱり台本を書いたんだけど、やめてあらすじレベルのものにして始めたっていうことなんですよね。その時点で今おっしゃってたような流動性がある作り方でやろうっていうことを決めてたわけですか?
杉田:そうですね。小回りがきくように。今まで助監督とかやってても、駄目な助監督だったんですけど、みんな凄いなっていうか、何でそんなに撮る前から色々分かってるんだろうっていうのが、結局何年やっても変わらなかった。脚本だけ読んで、最初から画も浮かんでて、ライティングとかも先にどんどん決めていて、みんなが暗黙の了解で一つのシーンを撮っていく流れに本当に自分はのっているのかみたいな不安がずっとあって。商業映画の現場って割と順撮り鉄則なんですよね、順撮りというか出来るだけ最初のシーンからやっていった方が役者さんが役に入りやすいからという考え方があるんですけど、そういうことに対しての不安が自分はあって。まだこの映画がどういう映画かやってみないと分からないから、どういう風に始まるのかも分からない内に、例えば主人公がただ街を歩いていく姿とか撮れないなっていう。助監督の間に不安に思っていたことを全部意識的に取り除いていこうっていう感じはありました。
OIT:ところで、観ていて、クリス・マルケルの『サン・ソレイユ』を、ちょっと思い出したんです。あれはドキュメンタリーですが、ボイスオーバーでマルケルの声がかぶってくる。移動している後ろ姿をずっと撮っていたりとか、バイクで下田の方を走ったり、そうした撮影している時に、なんかこう言葉みたいなものは監督の中で生まれたりしていたのかな、どうなのかなと思ったんですが。
杉田:言葉…ないですね(笑)。気持ちいいなみたいな、なんか、まだ35ですけど、生きてきてだんだん記憶がどんどん薄れていくんですよね、薄れていくんですけれども、逆に薄れるからよく残ってる時間ってあって、それは自分の肌がというか、気持ちよかった時間、だからあの下田のルートも僕自身が伊豆によく行ってたんです。2人が最後に行く岬も、っていうかあの水族館もですけど、実際の僕自身のよく思い出す時間なんですよ。
OIT:北川温泉とか、写真屋のモノグラムもそうなんですけど、結構そこは僕も見覚えがあって、東村山にしても吉祥寺にしても、下田の方の道にしても見覚えがある気がする所が多いなと思ったんです、たまたま個人的な感覚なのかもしれないんですけど。近しい感じというか。
杉田:自分の中で共通点はそのロケ場所には全部あるような気がしていて、すぐ分かるんですよね。ここで撮る、撮るってなった時にここだなーっていう感覚が。それはスタッフをやっていた時からあった。僕だいたいロケハンって一発目に行った所でやるんですけど、なんかこっちに行けばきっとあるみたいな、以前通ったあそことかっていうのがふっと湧いてくるんです。
【PART1】  1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6    【PART2】  1  |  2  |  3  |  4  |  5