OUTSIDE IN TOKYO
HIGUCHI YASUHITO & SUGITA KYOSHI INTERVIEW
【PART2】

杉田協士&boid樋口泰人『ひとつの歌』インタヴュー【PART1】

5. 映画の<嘘>に向かう時、自分が今まで生きて感じてきた時間を総動員でいく(杉田)

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OIT:今のお話に関連して、ちょうど家の中のシーンがありますけど、あれお姉さんですかね、剛が訪ねていくんですが、あれは誰の家を訪ねて行ったんですか?
杉田:分かんないですよね(笑)。あれは枡野さんの家族です。
OIT:あ、枡野さんの家族。あー、そっか、枡野さんあそこに行きましたもんね。
杉田:そうなんです、枡野さんが家出してた家です(笑)。よく見るとあの娘役の子と枡野さん、超似てるんですよ、本当にそっくりで、そんなの分かんないと思いますけど。
樋口:ちょっと俺も分かんなくなった、土肥さんがお母さん役やってる家のこと言ってるんだよね?
杉田:シネモンドの土肥さんと、土肥さんの実の娘さんです。
OIT:そのシーンなんですけど、パンで撮ってましたよね?あれも今回スタンダードサイズだからパンが多分必要だったのかなっていうか、スタンダードじゃなければ、そのまま動かなくても入ってたかなーとか思いながら見てたんですけど。ああいうのもわざわざ割ることは考えてない?
杉田:あれは割れないですね(笑)。リハーサルとかもするんですけど、即興をやってほしいわけではないんですが、ある程度その場で判断して今回はこうやってしまったみたいなことが役者さんが出来る幅でやっているので、カットを割っていくと毎回同じタイミングで、例えばこう煙草に火をつけるタイミングとか全部毎回同じにしなきゃ出来ないので、そういった体制でやってないっていうのは大きいですけど。娘役のかなちゃんにあのくじ引きのもう一回同じのやってって言っても出来ないんで(笑)。実際的に割れないですから。あれはテストテイクでしたね、僕はもうどうなるかさっぱり分からなかったんで、一応段取りは決めて、こういう順番でこうで、土肥さんは、自分はくじを引かないっていうのは通してくださいと。色々決め事言って、分かんないから一回やってみてくださいって言って、決めた段取りでやってもらって一応録画はしてたんですよね、そしたら土肥さんは普通に根負けして、お母さんに引かせてって引いたりしちゃうし。カットって言って、みんなで顔見合わせて、今のにNG見当たらないよねって(笑)、じゃあOKですって。
OIT:確かに。最初引かないって言ってたのに剛が引いたらお母さんも引くっていうのは自然な流れに見えました。
杉田:あれは、普通にかなちゃんに対しての土肥さんのお母さん的心情だったんだと思う(笑)。やっぱ引いてあげようっていう。自分の中で映画の嘘の時間と自分が普段感じてる時間の境い目が多分あんまりない、そこが今まで自分がついてきた黒沢さんとか青山さんとかとずれてるところなのかもなー。お前は本当に映画を信じてるのか!って多分怒られがちだと思うんです、そういうのって。リアルと映画は違うぞっていう。
OIT:映画は基本的に嘘の連続というか、嘘から出た真みたいなものだってよく言われるけれども、それすら感覚的にちょっと違うっていう。
杉田:その嘘に向かう時に自分の今までの生きてきた中で感じてきた時間を総動員でいくっていう感じなんですよ。あとさっきの話、芝居をどうOK判断してるのかとか、何がOKか、よくよく今思い出したのが、現場で地べたに座るんですよ、地べたって普段座んないですよね、地べたに座ると分かるんですよね。
樋口:それは目線の高さっていう問題ではなくて?
杉田:ではないんですけど、多分映画だから、映画はどっかで作り物で、今から作り物の時間を生み出さなきゃいけない時に、一つの自分の中のスイッチというか地べたにおしりつけてると、安心する、地面に安心する。
OIT:じゃあ現場ではいつも撮影の時は地べたに座ってるっていうことになるんですか?
杉田:そうですね、あの灯台のシーンでも2人が並んで座って日記読んでるところも、当日あそこに着いて、みんなにちょっと1時間待ってって言って、あそこの2人が多分座ってたあたりに座ってずっとぼーっと考えてました。
OIT:かなり地続きというか、映画の中と杉田さん自体、まあ話はフィクションなんだけど、感覚的には完全に地続きということですね、記憶も含めて。
杉田:はい、そうですね。あと、僕はそれ指示してないんですけど、金子岳憲(剛役)は、普段の僕の佇まいを見てそれをやるつもりだったらしいです。
樋口:逆にここは絶対カット割らなきゃみたいなことって、思ったようなことってある?
杉田:あ、唯一、枡野さんと金子の切り返しの時だけは、それは台本書き終わった時にありました。
樋口:なんなんだろうね、そこだけはカット割ろうと思った理由。
杉田:そこが一番自分の中で台本書いてて怖かった、このシーン撮れるのかっていうこととか、撮っていいのか。(枡野さんは)清水っていう役なんですけど、清水が振り返って目があっちゃっていいのかとか、自分が一番やろうとしてるくせに戸惑ってる時間で、あれを地続きの割らない時間で見たら耐えられないのかもしれないです。
OIT:枡野さんが演じた清水はホームであの事件に関わってるわけですよね。それを主人公の剛はどこまで見てたかっていうのは示されてない、まあ音を聞いて見に行ってるけど、清水に不穏なものを感じて、つけてったっていう感じなんですかね?そこは何が起きたとは明示してない。
杉田:はい、その瞬間を剛も見ていないので、ただあの人が大きく関わってるっていう感覚だけは持ってる。
OIT:何か取り返しのつかないもの。剛はいつもポラロイドで写真を撮ってるわけですけど、写真を撮ったり映画を撮ったりすること自体が何か取り返しがつかないものを写してしまう、そういうものと出会ってしまうっていう感覚っていうか。
杉田:あー、取り返しのつかないことが起きてしまった後、続いちゃう時間みたいなのかもしれないですね。
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