チェコを代表するアニメーション作家と称されるヤン・シュヴァンクマイエルだが、その作品で実写の占める割合は意外と多い。つまり、単純に映画作家シュヴァンクマイエルでいいのではないかと常々思い至るのだが、さらに映画に登場するパペットを含めた大半の小道具、大道具を作り、絵コンテも描くアーティストでもあるわけで、ラフォーレミュージアム原宿に引き続き、京都府 京都文化博物館で10月23日まで『ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展〜映画とその周辺〜』も開催されるわけだからもはやラベルなど必要ないのかもしれない。
そんな新作『サヴァイヴィング・ライフ –夢は第二の人生—』の冒頭で、彼は実写を目指して作った映画が、予算的な都合/制約のためにコラージュを駆使した手法が採用されたことを語らせる。だが一見、言い訳とも取れる前置きも、その先の入れ子状の夢の深みへ観客を誘う小道具となる。性的な幻想などあらゆる欲が、(精神)分析されながらまたすぐに新たな幻想で上塗りされ、果たして語られていく過程で男の問題に深く潜っていっているのか、いたずらに上から重ねられていっているだけなのかも分からなくなる。だがイメージの横溢とは裏腹に、語られていることは意外とシンプルであることが分かる。夢こそが芳醇なひとつの人生であること。そんな夢の伝道師である彼は、自ら第三世代のシュルレアリストを公言し、テリー・ギリアムが『Dr.パルナサスの鏡』でやりきれなかったことをいとも簡単にやってのけ、我々を無意識の世界へ誘う。次こそは実写で、と燃える彼に、ひとまず“妥協”の産物である世界に戻ってもらった。
1. 夢と現実を織り交ぜることによって人生は出来る、それがなければ人生ではない |
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OUTSIDE IN TOKYO (以降OIT):あなたが第3世代のシュルレアリストと公言しているように、シュルレアリズムは無意識を扱ってきましたが、同時にそれを表現する上で意識的に行う部分も否めないと思います。あなたの場合、無意識と意識はどのくらいの割合で作用してくるのでしょう。 ヤン・シュヴァンクマイエルJan Svankmayer(以降JS):こうしたあらゆるイマジネーションに富んだ作品の80%は無意識から成り、残りの20%は意識的、意図的に何かをやろうとするわけです。私は映画を撮影する段階に入ると、最後の最後まで、私は開かれた過程という表現を使いますが、最後の最後まで、それを変えることが出来るように撮影しているわけです。脚本が出来上がってもそれに従わないことも多いのです。即興的に行ったり、そこから色々なバリエーションで撮影したりするわけです。それでは、映画をどこで完成させるかというと、やはり編集室で行うわけです。映画が完成された瞬間にそれを観る私は、やはり観客の心になるわけです。その時に私は一体何を伝えようとしたのかということを、初めてそこで自分なりに考えさせられるわけです。その瞬間、私も初めて映画を解釈しなければならない立場に立たされるわけです。原則として、自分の解釈は人に言いません。おそらく私がここで自分の解釈を言ってしまうと、その解釈しか正しいものはないと思う方が絶対出てきますので、それは避けたい。ですから私の映画、他の作品もそうですけど、観てくれる人はそれなりに、各自の解釈、各自の類似、各自のインスピレーションを駆使してもらえればそれでいいのです。場合によっては、映画を観たのですが、こういう意味でしたねという興味深い解釈を聞かされることはあるのですが、それでいいのです。例えば、ひとつ具体的な話を挙げると、数年前にイスラエルで『オテサーネク』を上映しました。その時にイスラエル人の女性が私のところへやってきて、イスラエルについての素晴らしい映画を撮って下さいました、と言ったのです。どういう意味ですか、とその女性に聞くと、イスラエル人が、外に出た方がいいのか、それとも何か障害物を重ねながら大きな壁を作り、その後ろに隠れるべきかどうかという同じ問題を扱ってくれたからと言うのです。映画の中に、実際このような台詞が出て来るわけですが、映画はそれだけ彼女にとって大事な要素となり、そう解釈してくれたわけです。先ほどの質問ですが、私の答えは(常に)冒頭にあります。クリストフ・リヒテンベルクを引用しますが、夢と現実を織り交ぜることで人生は出来る。そして、その要素がなければ人生ではない。そんな言葉を遺しています。ですから、この映画を撮ることで、私にとって夢がいかに大事なものかを、敢えて言うならば、アピ−ルしたかったわけです。
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『サヴァイヴィング ライフ ー夢は第二の人生―』 英題:Surviving Life 8月27日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー 監督・脚本:ヤン・シュヴァンクマイエル 撮影:ヤン・ルジチュカ、ユライ・ガルヴァーネック アニメーション:マルティン・クブラーク、エヴァ・ヤコウプコヴァー、ヤロスラフ・ムラーゼック 音楽:イヴォ・シュパリ 編集:マリエ・ゼマノヴァー 衣装:ヴェロニカ・フルバー プロデューサー:ヤロミール・カリスタ 出演:ヴァーツラフ・ヘルシュス、クラーラ・イソヴァー、ズザナ・クロネロヴァー、エミーリア・ドシェコヴァー、ダニエラ・バケロヴァー 2010年/チェコ/カラー/35mm/108分/ヨーロピアン・ヴィスタ/ドルビーSRD 配給:ディーライツ © ATHANOR 『サヴァイヴィング ライフ ー夢は第二の人生―』 オフィシャルサイト http://www.survivinglife.jp |
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