OUTSIDE IN TOKYO
Frédéric Jardin & Nicolas Saada INTERVIEW

息もつかせぬ、とは正にこの映画のことを言うのだろう。ふだん、いわゆるアクション映画にあまり反応しない質なのだが、フレデリック・ジャルダンによる、フランス語で「白夜」を意味する原題の『スリープレス・ナイト』は圧倒的な緻密さが感嘆に値する。

主人公ヴァンサンは同僚と共にギャングの車を襲撃し、まんまと麻薬を盗むことに成功する。だが同僚の勇み足から傷を負った彼が、すぐに刑事だと分かる。そしてギャングはすぐに、彼の下を訪れる予定の、別れた妻との息子をさらい、麻薬の返還を求める。窮地に立たされた彼は、息子を助けるために組織のあじとである大箱のディスコに一人乗り込み、取引に対応しようとする。だが同僚の秘密も分かり、予期せぬ組織の人間も絡み、事態はますます予想もつかない方向へ。

どんでん返しに次ぐどんでん返しというのは、ある意味、アクション映画の常套手段としてずいぶん見慣れてしまった感もあるのだが、見る側に余裕を与える間もなく、どんどん進んでいく抜群のスピード感を誇るこの映画はすぐに別物だと分かる。多くが明かされないまま物語は進行するが、登場人物たちの行動に潜在的な理由/説得力がある。そこには様々なアクション映画の知恵が見え隠れする。その部分を大きく支えているのが、サミュエル・フラーといったアメリカのジャンル映画の批評を通して良質な作家的アクション/サスペンス映画を啓蒙してきたニコラ・サーダが脚本家として参加しているからに違いない。そこにジャルダンの緻密に計算された演出、イーストウッド組で知られるトム・スターンのカメラワークが融合することで、とことん濃縮された時間を、観客は突きつけられることになる。

主演のトメル・シスレーが超の付くほどのハマり役なのだが、ハリウッド作品ほどの予算がないマイナス面を大きくカバーする緊迫した屋内シーンの演出力は見るものを圧倒し、登場人物も少なくて済むという利点を持つ屋内シーンで、同じ建物の中を往ったり来たりする”運動”の必然性を優れたディテールの数々が担保している。

渋い男と正義のための命題。それがあればノワールは動き始める。だがそれをただのスタイルではなく、どう動かすかを徹底して突き詰めた傑作を生み出した2人は早くも注目の的だ。ハリウッドでのリメイクも決定しているというが、果たしてこの作品を超えるリメイクが生まれるのか?それはそれでまた別の楽しみとしてとっておこう。

1. フレデリックとは、一緒によく映画を見て、議論をしていた(ニコラ・サーダ)

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):まず、2人の出会いから教えていただけますか?
フレデリック・ダルジャン Frédéric Jardin(以降FD):もう15年くらい前に知り合ったんです。なんかつまらない映画のことでとりあえずは知り合ったんですけど、2人で一緒に映画を作ったのはこれが最初です。15年来、友人関係はずっと続いていて、彼もいわゆるジャンル映画に非常に精通していて自分もジャンル映画に興味がある。彼はカイエ・ドゥ・シネマの評論家として文章を書いていて、ジャンル映画に関しては非常に精通している評論家と言えます。
ニコラ・サーダ Nicolas Saada(以降NS):最初会った時はアルテ(独仏共同出資のテレビ局)で製作の仕事をしていたんですね、フレデリックはずっとそこで監督をしていた。その時は一緒に仕事することはなかったのだけれど、それからずっと二人の友情を育んできた。その間フレデリックがどんな映画を作るのかずっと見てきたんです。お互いに映画が好きだということでよく一緒に映画を観に行きましたよ。それで議論をするんです、ヒットした映画についてはどうしてヒットしたのか、ヒットしなかった映画に関してはどうしてヒットしなかったのかということを、本当に突き詰めて話していた年月が15年ということなんですね。いずれは一緒に仕事をしたいなっていう気持ちは自分にあったけれども、自分からフレデリックに一緒にしようっていう風に言うと、押し付けるような、強要するような感じになるのがいやだったので、自分からそういう話はしなかった。でも気持ちの中ではずっと彼が一緒にやろうよっていうのを待っていた。ある日、彼から映画を一緒にやろうよという話があった時は、この15年間の友情がついに実ったと、そんな感じがしました。一緒に何本もの映画をたくさん観たんですけど、例えば、黒澤明監督の『天国と地獄』(63)を観たりしながら、色々な話をした。そしてついにこの『スリープレス・ナイト』の話が出てきて、それで本当に今までの私たちが一緒に見た映画に対する色々な会話がここで結集されるのかという、そんな感じでした。だから私たちの友情はこの映画を作るにあたってとても重要なものでした。

『スリープレス・ナイト』
原題:Nuit Blanche

9月15日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー

監督:フレデリック・ジャルダン
脚本:フレデリック・ジャルダン、ニコラ・サーダ
撮影:トム・スターン
出演:トメル・シスレー、ジュリアン・ボワッスリエ、ローラン・ストーケル、セルジュ・リアブキン

©Chic Films - PTD - Saga Film

2011年/フランス、ルクセンブルグ、ベルギー合作/102分/カラー/ビスタサイズ/ドルビーSR
配給:トランスフォーマー

『スリープレス・ナイト』
オフィシャルサイト
http://www.sleeplessnight.jp/


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