OUTSIDE IN TOKYO
JIM MARMUSCH INTERVIEW

『リミッツ・オブ・コントロール』
ジム・ジャームッシュ オフィシャル・インタヴュー

5. 映画と音楽の有機的な関係ついて

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ボリスのヘビーなサウンドトラックと劇中のフラメンコが素晴らしい効果を挙げている。ジャームッシュ監督の作品を語る時、音楽について尋ねないという選択肢はあり得ない。
ジャームッシュ:映画は音楽とかなり直接的に結びついている。なぜなら音楽作品はその作品の持つ独特の拍子で、その作品独特の動きのある景色を映し出しながら、聴いている人の前を通り過ぎていく。それは絵を見るのとも、本を読むのとも違う感覚だ。映画と音楽は観客をドライブに連れ出してくれる。人の意識や元来は音楽的な人の情緒反応を、映画を通してどう引き出すかということに意味がある。
『リミッツ・オブ・コントロール』を書いた時、すでにサン&ボリス、アース、ザ・ブラック・エンジェルズの楽曲から何曲か使おうと思っていた。クリス・ドイルがボリスの音楽を聴けるようにCDを作った。ボリスはサイケデリック・ノイズ・メタルに分類されるとにかく独創的バンドだ。
次に、僕が愛してやまないシューベルトの弦楽四重奏曲から美しい「アダージョ」を選んだ。どうしても作品に入れたかったから。
それから、この映画の音楽的な布地を織るための3つ目の材料を求めて、様々な形式のフラメンコを探し始めた。そのなかのひとつ、ペテネラスが私の心に強く響いた。かなり風変わりで、ほとんどのフラメンコ・ミュージシャンやジプシーの間では禁じ手で縁起が悪いとされている。ゆっくりとしたフラメンコだから、彼らの世界ではブルースのようなものだ。ほとんどが死や悲劇、失恋を歌っている。私が作品のなかで使ったペテネラスの歌は「エル・ケ・セ・テンガ・ポル・グランデ」というタイトルで、その歌詞は映画のなかのセリフにも出てくる。クリスとエウヘニオと僕の3人はマドリードでラ・トゥルコに会ったとき、もうこれ以上フラメンコ・ダンサーを探す必要はないと悟った。彼女には圧倒されたよ。僕が作品のなかに太極拳がでてくることを伝えると、彼女は「太極拳フラメンコ」のクラスを教えていると言った。足を踏みならす動きよりも、ゆっくりとした手の動きをより重視したものだ。彼女は歌手のタレゴン・デ・コルドバとギターのホルへ・ロドリゲス・パディージャと一緒に、そのスタイルをペテネラスのシーケンスに取り入れてくれた。
マヌエル・エル・セビージャノの「(ボル・コンパシオン・)マラグエニャス」という小曲も使った。1920年代に蝋管に録音されたものだ。ジョン・ハートが演じている人物がその曲について語り、セビリアにいるイザック演じる主人公がベッドに横になっているときに、窓からその曲が漏れ聞こえてくる。

既成の曲でどうしてもハマる曲が見つからず、監督自らが結成したバンド「バッド・ラビット」がオリジナルで曲を書き起こしたというプロセスも、本作の臨機応変な制作スタイルの中では極めて自然な出来事に見える。
ジャームッシュ:美術館のシーンと他にもいくつかの箇所で、ぴったりはまる曲を見つけられなかった。それで僕たちのバンド「バッド・ラビット」(カーター・ローガン、シェーン・ストーンバック、ジャームッシュがメンバー)は、ドラムとエレキギターを使ったサイケデリックな曲をいくつか作った。バッド・ラビットは今、映画音楽とは別に、もっとトランスに近いサイケデリック・ロックの新作に取り組んでいる。
映画の作り手として、僕は自分がミュージシャンのような反応をすると思っている。ギターを取り上げて、いくつか音を鳴らしてみて、その音が自分をどこに連れて行ってくれるかを見るのが好きだ。先に草案を作っておいて、どう弾くかを覚えるんじゃなくてね。それが僕の目指す映画制作へのアプローチの仕方だ。僕にとっては、プロットではなく登場人物が常に作品の中心にいる。俳優たちは作品の感情的な部分を表現するための楽器なんだ。ストーリーはその次だ。

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