OUTSIDE IN TOKYO
JIM MARMUSCH INTERVIEW

『リミッツ・オブ・コントロール』
ジム・ジャームッシュ オフィシャル・インタヴュー

ジム・ジャームッシュ監督4年振りの新作『リミッツ・オブ・コントロール』は、撮影監督クリストファー・ドイルの感性を活かした機動性に富む方法で、全編ロケーション撮影された、元祖NYインディーズのスピリッツみなぎる、快心のロード・ムービーとなった。“自分こそ偉大だと思う男を墓場に送れ”という劇中のフレーズに呼応したかのように、ジャームッシュの企みに世界中から錚々たる顔ぶれの“同志”たちが映画に参集し、スペインのセビリアの街並みと共に、観客を幻想的に魅了する。いつも以上に、一筋縄ではいかない謎に満ちた本作について、ジム・ジャームッシュは縦横無尽に語った。

1. 3つの重要なインスピレーション:
 ランボー、バロウズ、『殺しの分け前/ポイント・ブランク』

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映画の冒頭、アルチュール・ランボーの詩が引用される。それが一体何を予感させるのか、観客はその謎めいた疑問について考えながら映画の世界に入ることになる。
ジャームッシュ:どうしても起点となるものが欲しかったのさ。それは岸辺から押し出されるボートと言った方が近いのかもしれない。もっとも、その引用を思いついたのは撮影が終わってからで、最初から考えていたわけじゃない。実際のところ、この詩「Le Bâteau Ivre(酔いどれ詩人)」は、精神錯乱のメタファーだ。作為的な感覚の混乱だよ。だからもしかすると、この引用を映画の最後に持ってくるのが一番適切だったのかもしれない。映画のタイトルそのものは、ウィリアム・S・バロウズが1970年代に書いたエッセイ(「The Limits of Control」)からとった。そのエッセイは、支配機構としての言葉を主に扱っている。「言葉はいまも支配のための道具である。提案も言葉。説得も言葉。命令も言葉だ。過去に考案されたいかなる支配機構も言葉がなければ運用できなかったし、外からの力や精神の物理的支配だけに依存した支配機構は、どれもすぐに支配の限界にぶち当たるだろう」。その作品全体から刺激を受けて、人がどのように物事を認識し、どのように支配されることを求めるのかについて考えるようになった。エッセイを作品の内容に直接的に取り入れることはしなかったが、タイトルを拝借した。

ランボーの詩とバロウズのエッセイにインスピレーションを受けたというのもとてもジャームッシュ監督らしい。コロンビア大学では文学を専攻し、文学を求めてパリへ留学した結果、シネマテークで映画と出会ったのだ。ティルダ・スウィントン演じる人物がシネフィルめいた口調で、アントニオーニの作品を始め、いくつかの映画のタイトルを繰り返し口にする。
ジャームッシュ:ジャック・リヴェットがジョン・ブアマンの傑作『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(67)をリメイクしたらどんな感じになるだろうか?あるいは、マルグリット・デュラスがジャン=ピエール・メルヴィルの『サムライ』(67)をリメイクする感じとでも言うか(笑)。アントニオーニは僕の潜在意識の中で重要な位置を占めているから、知らずに影響は受けていると思うが、彼のことはあまり考えていなかった。むしろ、フランチェスコ・ロージの作品のような70年代、80年代に撮られたヨーロッパの犯罪映画が頭にあった。作品を模倣するということではなく、スタイルを見つけるという意味で、アイデアの源となる印象的な作品をイメージしていた。中でも一番重要だったのは、『殺しの分け前/ポイント・ブランク』だ。制作会社の名前も「ポイントブランクフィルム」にしたくらいだから。クリストファー・ドイルとエウヘニオ・カバイェーロと一緒に、『殺しの分け前/ポイント・ブランク』を様式的に分析したのさ。例えば、映像の中にある映像、ドアや窓やアーチ道などの枠で切り取られた物体、反射面を使って意図的に外部のものと内部のものを混乱させるように撮ったショットなどに注目した。

本作の主人公”孤独な男”は、どうやら『殺しの分け前/ポイント・ブランク』の殺し屋がモデルのようだ。
ジャームッシュ:『殺しの分け前/ポイント・ブランク』は、最近亡くなったドナルド・ウェストレイクの小説(「悪党パーカー/人狩り」)が下敷きになっている。彼はリチャード・スターク名義でシリーズ小説を執筆した。このシリーズは全作品にパーカーというキャラクターが登場する。パーカーはプロの犯罪者で、仕事に取り組んでいるときは、セックスにもアルコールにも他のどんな娯楽にも惑わされることはないのだが、いつも彼の周りにいる人たちがトラブルに巻き込まれて、彼自身の非常に慎重な行動とは正反対のむちゃくちゃな状況に陥っていくところが面白い。とても魅力的なキャラクターで、映画では、リー・マーヴィンが演じている。

『リミッツ・オブ・コントロール』
原題:The Limits of Control

9月19日(土)、シネマライズ、シネカノン有楽町2丁目、新宿バルト9、シネ・リーブル池袋 他にて全国ロードショー

監督/脚本:ジム・ジャームッシュ
製作:Entertainment Farm、ポイントブランクフィルム、フォーカス・フィーチャーズ、ステイシー・スミス、グレッチェン・マッゴーワン
製作総指揮:ジョン・キリク
撮影監督:クリストファー・ドイル
編集:ジェイ・ラビノウィッツ
プロダクションデザイン:エウヘニオ・カバイェーロ
音楽:ボリス
サウンドデザイン:ロバート・ヘイン
衣装デザイン:サビーヌ・デグレ
キャスティング:エレン・ルイス
出演:イザック・ド・バンコレ、アレックス・デスカス、ジャン=フランソワ・ステヴナン、ルイス・トサル、パス・デ・ラ・ウエルタ、ティルダ・スウィントン、工藤夕貴、ジョン・ハート、ガエル・ガルシア・ベルナル、ヒアム・アッバス、ビル・マーレイ、ラ・トゥルコ、タレゴン・デ・コルドバ、ホルへ・ロドリゲス・パディージャ

2009年/スペイン・アメリカ・日本/115分/カラー/ビスタサイズ/ドルビーデジタル
配給:ピックス

写真:© 2008 PointBlank Films Inc. All Rights Reserved.

『リミッツ・オブ・コントロール』
オフィシャルサイト
http://loc-movie.jp/index.html

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