OUTSIDE IN TOKYO
TETSUYA MARIKO INTERVIEW

『イエローキッド』のラストシーンで主人公をナイフで斬りつけてスクリーンの外へ消えてゆき、三宅晶『やくたたず』の北の大地を駆け抜け、そのままの勢いで本作の冒頭に登場する玉井英棋と宮﨑将の後ろ姿を捉えた手持ちキャメラのざらついた映像と、恐らくは彼の作品としては初めての試みと言っていいだろう、轟音的な音響に満ちたサウンドトラックが映画の始まりを告げ、案の定、禍々しさに満ちたこの二人組が何を始めるかは映画でご覧頂くとして、期待以上の躍動感と共に真利子哲也監督の新作中篇映画の幕が上がる。

事件を起こし逃亡を企てる宮﨑将の演じる主人公の逃亡の旅路はアメリカン・ニューシネマのロードムービーを想起させないこともない。しかし、ここ日本では、どこへ逃げても空白のフロンティアはなく、道路は車とバイクが行き交い、そのエンジン音がその土地の空気を激しく振動させながら、支配している。キャメラは、ただひたすら、このブラックホールめいたマットな存在感を携え、当てもなく彷徨うかに見える若い男を追って行く。その間、この男の口から発せられる言葉はひとつもない。つまり、予め声を奪われた青年に真利子哲也の視線は寄り添っている。この監督の視線を支えるのが、冨永昌敬監督作品で知られ、青山真治監督の最新作『東京公園』での仕事が「群像」の蓮實重彦・青山真治対談で激賞されているキャメラマン月永雄太である。

しかし、その視線は、対象にベッタリ寄り添っているわけではない。映画冒頭のざわついた手持ちキャメラは影を潜め、車に乗って逃走する主人公を追うのは、やや上方に固定されたキャメラアイであり、対象と一定の距離と角度を保っている。このように端正に撮影された走る車の映像自体をあまり見かけないが、アメリカン・ニューシネマというよりは、と感じたのは、この道路の消失点を目指す映像が、アントニオーニの『さすらいの二人』(75)のワンシーンを想起させるからなのかもしれない。

そして、マジックアワーがあまりにも美しく画に映える海岸沿いの空地に到着した彼は、その美しい夕焼けに燃える外気を浴びようとすることすらなく、車の窓に目貼りを張り詰めてゆく、、、。

そこに到着するプロデューサー、そして、アイドルグループ「ももいろクローバー」も到着し、プロモビデオの撮影が賑やかに行われる。撮影は順調に取り仕切られ、陽はまた陰り始める。そこにはそのまま放置された車があり、遠景では「ももクロ」が激しく無邪気に踊っている。あまりにも残酷な生の非対称と、昆虫の死骸を少し離れた所から眺めるような視点、その光景の何と美しく残酷なことか。明るく元気で無邪気な若さが持て囃される一方で、追い詰められた挙句に犯罪に走ってしまった若い男の、全く顧みられることもなく、名誉挽回の機会すら予め奪われた存在の対比が、私たちが生きる世界の残酷な一面を露わにする、このショットの力は並み外れている。

しかし、ここで終わらないところに、真利子監督の作家性が見え隠れする。『イエローキッド』でも使われた備え付けられたビデオに収められた映像が本作でも、最後の最後に登場して、映画のナラティブに新たなレイヤーを加える。それにしても、今や、劇中で撮影された映像=渦中の登場人物が見る事ができない”事件の実相”を見届ける証人として、本作『NINIFUNI』からハリウッド超大作『スーパー8』まで重要なファクターになっていることが興味深い。

『イエローキッド』の公開から約1年半弱、その間に、震災が起き、世界が一変してしまった。そんな状況の中、本作の公開を間近に控える真利子哲也監督に、じっくりとお話を伺った。なお、本作のプロデューサーである日活の西ヶ谷寿一氏、西宮由貴さんが同席し、製作にまつわる事実関係を補ってくれた。

1. 1週間で12本、企画を出した

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OUTSIDE IN TOKYO(以降:OIT):『NINIFUNI』の企画自体はどういう始まり方をしたのでしょうか?
真利子哲也(以降:真利子):去年の9月位に突然、テレビマンユニオンの方から電話がかかってきました。その人は『イエローキッド』を観て選んだっていうことだったんですけど、その時点ではまだちょっと、本当に突然の電話だったんで一回お会いしてから改めてお話しを聞いて考えようと。その後にお会いしましたが、その時点ではまだ具体的に企画自体もどんなものか決まっていなくて、テーマはないということと、予算と納期だけを言われたんです。

OIT:急に降って湧いてきたので最初は本当かなという感じで?
真利子:はい。本当に嘘みたいな話なんですけど。今回の企画はスタッフィングも含めて決めていいという話だったんで、断る理由もなく、やりますということを伝えて、かなり前から知り合いだった西ヶ谷さん(プロデューサー)に電話しました。

OIT:今回の企画には3人の監督さんが参加していますが、やらないかという話があった時にはもう具体的な3名が決まっていたのでしょうか?
真利子:その時に、久万さん、黒崎さんという名前は出てきました。なので、決まってたんだと思います。

OIT:そこで真利子さんはやることになって、まず最初にどういうものを作ろうと考えたんですか?
真利子:その時、西ヶ谷さんに電話した時点では全くアイデアもなくて、西ヶ谷さんの方からすぐにいくつか企画を持って来い、来週持って来いぐらいの勢いで言われました。たまたまその日だったと思うんですけど、竹馬(靖具)君が自分の短編を観たということで、飲む約束をしてたんですよ。二人で話をするのもはじめてだったんですけど、飲んでる時に色んな映画の話とかしながら、割と面白いこと出来るんじゃないかなと思って、企画の話をして、一緒にやらないかということで、一緒に考えはじめたんです。

OIT:じゃ、色々話してイメージが出来た後、脚本を竹馬さんが作ったという感じですか?
真利子:なんか覚えてないんですけど、その時は何故か“意識”の話をしてたんですよ。

OIT:『イエローキッド』の時もそうですよね。
真利子:そうなんです、その話をしてて、そこで話が合って、一緒にやろうっていうことになったんです。

日活西ヶ谷プロデューサー(以降:西ヶ谷):12本くらいネタ出してきた。
真利子:かなり出してたんですよ。

西ヶ谷:だいたい“意識”にまつわる、ちょっと変わった設定のやつだよね。とりたてて筋ではちょっと言い切れないような、12本くらい、こういう話こういう話こういう話っていうのは竹馬君と真利子君で出してきて、その中で結局これを選んだ。
真利子:そうなんですよ。一週間くらいの短い期間でそれだけ出たんです。中には脚本になってるやつもあったりして。

OIT:竹馬さんの?
真利子:はい。竹馬君も監督ですが、暫く撮ってないタイミングだったのでこの企画に専念してくれてすぐに脚本も書いてくれて、そこで竹馬君は当然脚本にしたやつがいいんじゃないかっていうことだったんですけど、こっちで選ばせてもらって最終的には今回の題材に。

『NINIFUNI』

2012年2月、ユーロスペース他全国順次ロードショー

監督・脚本・編集:真利子哲也
プロデューサー:西ヶ谷寿一、西宮由貴、紀 嘉久
撮影:月永雄太
録音:高田伸也
美術:寒河江陽子
助監督:海野 敦
共同脚本:竹馬靖具
出演:宮﨑 将、山中 崇、ももいろクローバー、玉井英棋、宇野祥平、守谷文雄、松浦祐也 他

2011年/日本/42分/カラー/1:1.85
制作・配給:ジャンゴフィルム

© ジャンゴフィルム/真利子哲也

『NINIFUNI』
オフィシャルサイト
http://ninifuni.net/
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