OUTSIDE IN TOKYO
KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

道本咲希『なっちゃんの家族』インタヴュー

4. 子どもが子どもらしくいるべき時に周囲の環境によって
 子どもらしくいれないという状態を撮りたかった

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『なっちゃんの家族』
OIT:確かに経験豊かな俳優さんはそうかもしれませんが、オーディションで発掘したという主役の上坂(美来)さんはどうでしたか?
道本咲希:彼女はお芝居の経験がない子なので、凄いですよね。

OIT:上坂さんの自然に見える演技をちゃんと捉えているから、この作品が映画として成立しているのだと思いますが、演出をするにあたって、どういうお話をされたのですか?
道本咲希:上坂さんは、オーディションに来た時点で、見た目は子どもらしくて可愛らしいんですけど、眼差しが大人っぽいところがある、じっと見るようなところがあって、ちょっと醒めた視点を持っている子だなという印象がありました。子どもが子どもらしくいるべき時に周囲の環境によって子どもらしくいれないという状態を撮りたかったので、ぴったりだなと思ったんです。現場で初めてお芝居を見て、なつみすぎてびっくりしました。彼女自身ポテンシャルが高く、すごく頭が良くて、度胸がある子なので、一回お芝居をやってもらって、ここはこういう気持ちじゃない?みたいな話をして、もう一回やってもらったら、その段階では私が言ったことをすごく良く理解して出してくるんです。なので、一気に言うとこんがらがっちゃうので、細かく何回もテイクを重ねて、なっちゃんはきっとこの時はこういう気持ちだよっていうのをその都度付け足していくっていうやり方で撮っていきました。

OIT:順撮りで撮るということは中々出来ない場合が多いと思うんですが、そこはそうしたいと主張されたのですか?
道本咲希:主張もしましたが、スタッフのみなさんが理解のある人たちで、監督も初めてだし、(主演が)子役だし順撮りだよねー、みたいな感じでやってくださったんです。みなさんが理解してくださり、わがままが言える環境だったからこそ、順撮りでやらないと上手く行かないだろうって私自身も思ったので順撮りがいいです、って言いました。

OIT:具体的なシーンについて幾つか質問をさせてください。この夫婦が子ども(なっちゃん)を通してしか、会話をしないという設定があって、とてもリアルだなと思いました。そうしたものは、先程のお話から想像すると、結構実体験の一部が脚本に反映されているのかなと思いますが、“おばあちゃん”も実在されるわけですか?
道本咲希:実際にいます。こういう家出をしたことはないんですけど、私が抱くおばあちゃんという存在の温厚さや視野の広さのイメージは実際の祖母から多く影響を受けています。

OIT:布団を2階から投げる場面がとても良かったのですが、あれも実体験によるものですか?
道本咲希:あれも経験があります(笑)この映画の感想をいただく時、結構な確率で布団のシーンがいいよねと言ってくださるので、やっぱりだれもが階段から布団は投げるんだなと思いました。

OIT:誰もが投げるわけではないと思いますが...。おじいちゃんの話も良かったです。
道本咲希:あれは作りました。

OIT:子どもを連れて行ったおじいちゃんが迷子になってしまう、子供ではなくて大人が迷子になっちゃうという話ですが、今の時代だったら、おじいちゃんは凄く怒られてしまうのだと思いますが、昔は笑い話になるという、その辺の時代感覚の違いですね、そういう日本社会の風景がリアリティのある形で映り込むように描かれていて、とても良かったです。
道本咲希:ああ、嬉しいです。ありがとうございます。実際に祖母から聞いた話や、作家の宮本輝さんが好きなのですが、特に戦後の時代を生きた人々の話が好きで、そこの感覚がうまく反映できたところだと思っています。

OIT:それで、そのおばあちゃんの話を聞いたなっちゃんが、「そんなことあるー?」って言うんですよね。あのセリフもとてもいい塩梅なんですよね。ああいうセリフも、ニュアンスを含めて、脚本で意図した通りに出来たのですか?
道本咲希:そうですね、そういうニュアンスも含めて書いていましたし、その通りに出来た場面です。

OIT:もう、あの場でなっちゃんが自然に口にしたような感じに仕上がっていました。
道本咲希:えー、それは嬉しいです。今回、アドリブの台詞はほとんどなくて、全て脚本から立ち上がっているので、そう言っていただけて嬉しいです。

OIT:その後、夫婦がバドミントンをやるシーンがありますね。離婚を迫るなっちゃんが、50回ラリーが続いたら離婚しなくてもいい、と言うので、夫婦はバドミントンをやる羽目になるわけですが、50回という数字は普通は続かないですよね。
道本咲希:ギリギリ続くかもしれない数字を目指したんですよね。100回だと無理だけど、20回なら普通にいけるだろし、それで50回かなということになりました。実際にバドミントンしていただいた斉藤さん、須藤さんはお上手でまさか50回以上続いちゃったことがあり「続いちゃだめですから!」とカットをかけたことがあります。

OIT:なるほど、そうすると物語的には希望を残したということになるわけですね。
道本咲希:そうなんです。たった30分の物語じゃ、家族の問題は解決しないけど、でもなにか変わっていくかもしれない、という希望を持って終わりたかったからです。


『なっちゃんの家族』
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