OUTSIDE IN TOKYO
Mohamed Al-Daradji INTERVIEW

イラク出身の映画監督、モハメド・アルダラジーは『夢(Ahlaam)』という第1作で一度来日している。その作品で評判を獲得し、現在はイギリス在住の監督の2作目は静かでいて野心的な映画となっている。監督がここでも語るように、音楽もほとんどなければ、台詞が交わされることもほとんどない。戦争に駆り出され、22年間、行方不明となったままの息子を、父の姿を知らない孫と一緒に探す旅に出た祖母の物語だ。歩くのも大変な老婆と彼女の手を引く孫は、荒涼とした大地と、ある意味無法状態とも言える中、一度知り合いから彼を見たと報せのあった刑務所や集団墓地を回っていく。車に載せてもらえばお金を取られ、バスに乗れば、息子だけが乗り、年寄りは置いて行かれそうになる非情な移動が続く。唯一の救いは、クルド人の彼がアラビア語を話せること。2人は行く先々で困難に立ち向かい、息子=父がいると思われる場所をまるで巡礼のように尋ね歩きながら、彼らを虐げる側に回ったものの今は自責の念に駆られる兵士などと出会い、少年は幻想の古都バビロンに想いを馳せる。

老婆が息子を探す旅に出るソクーロフの『チェチェン アレクサンドラの旅』を連想せずにはいられないが、音楽を排し、静謐な風景を忍耐強く捉えるこの監督が、ロッセリーニやキアロスタミなどの映画作家の名前を出しているのも納得ができる。日本人にとっては更に謎めいて響くバビロンという名前と、戦争という過酷な条件の中で生き、そこから未来を見つめる新しい世代への希望溢れる映画となっている。

そんな監督が描きたかったのは、イラクとクルドなどの分断された世界でなく、もっと広い視野での”希望”だというが、そうして話を聞いていると、不思議とそんなことも、もしかしたら可能なのかもしれない、と思いたくなる。

1. 私は映画を作る上で、とてもわがままです。映画を作る時、私は自分のために作ります。

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):まず、評判を呼んだ前作『夢(Ahlaam)』から、この映画を作るに至った経緯と、新作『バビロンの陽光(Son of Babylon)』を撮ろうと思った動機を教えてもらえますか?
モハメッド・アルダラジーMohamed Al Daradji(以降MD): それは映画作り、それとも製作の観点からですか?

OIT:この映画をどうしても作りたいという欲求がどのような過程で生まれたかです。
MD:分かりました。まず、映画を作る時は、間違いを冒すことを前提に作るんですね。そこから何かを学び、未来を見つめて、それを正すことができるように(笑)。そこで『夢(Ahlaam)』は私の処女長編となった作品ですが、そんな経緯から2作目に臨むことになったのです。2作目を自分の最高の映画とするために。

OIT:2本目が一番大変だと言われますからね。
MD:はい、2作目は大変です(笑)。そこで映画作りそのものを問うてみるわけです。自分がどのような映画監督なのか、など。そして今度は2作目を撮り終えると、ああ、何かを描き逃してしまったとなり、3作目を撮らなければいけない衝動に駆られる。たぶん、最初の映画からだいぶ自分は成長したと思います。処女作からは多くのことを学びました。なので、多くの間違いも修正しようとしました。そんな欲求は、なぜ自分が映画を作っているのかという情熱にもなります。でも2005年が境目になっていますね。1作目を撮り終えた年です。また2008年に2作目の撮影を始めました。自分がなぜ映画を撮るのかという欲求が鍵となっている年です。その裏にある理由は何か。それは自分に何をもたらすのか。私は映画を作る上で、とてもわがままです。映画を作る時、私は自分のために作ります。あなたのためでもなければ、他人のためのものでもないのです。

OIT:つまり、人々のためではないということですね?
MD:僕が映画を撮るのは自分のためです。それは自分の人生であり、自分の時間だから。自分のエネルギーも健康も全てがそこに注ぎ込まれます。人々のことを考えるのはその後のことです。そしてなぜ映画を作るのか、その裏にどんな理由があるのかと問うた結果がこの映画になりました。そして私は満足しています。

OIT:やり尽くしたんですね。
MD:はい、満足しています。

『バビロンの陽光』
原題:Mahler auf der Couch

6月4日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

監督・脚本・撮影:モハメド・アルダラジー
出演:ヤッセル・タリーブ、シャーザード・フセイン、バシール・アルマジド

2010年/イラク・イギリス・フランス・オランダ・パレスチナ・UAE・エジプト合作/アラビア語・クルド語/90分/35mm/カラー/シネスコ/ドルビー5.1chSRD
配給:トランスフォーマー

© 2010 Human Film, iraq Al-Rafidain, UK Film Council, CRM-114

『バビロンの陽光』
オフィシャルサイト
http://www.babylon-movie.com/
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