OUTSIDE IN TOKYO
Nikolaus Geyrhalter INTERVIEW

ニコラス・ゲイハルター『眠れぬ夜の仕事図鑑』オフィシャル・インタビュー

2. 大切だと思われることを、あまり大げさにならないように語るのに大変な工夫が必要だった

1  |  2  |  3  |  4



Q:この映画の撮影は、一貫したコンセプトにしたがって行われたのではなく、有機的に育ってきたという印象を受けます。撮影のロードマップはどのように作られたのですか?
NG:撮影には2年をかけ、並行して編集作業も行いました。このプロジェクトはもちろん、編集を担当したヴォルフガング・ヴィーダーホーファーと相談しながら、どんどん発展していきました。撮影した素材をより分け、方向性を決め、ピントを合わせながら、さらに撮影をしていきました。撮影場所の選択と調査は、緊密なチームワークによるものです。チーム外の人にも、何をおもしろいと思うのか、繰り返し考えてもらうようにしました。調査の指針をある程度決めて、あとはいろんな国のチームにそれを投げて、それぞれが個別に動いてさらに調査したり、提案を上げてきたりしてくれました。撮影はしたものの、最終的に映画の中には取り上げられなかった場所もたくさんありましたが、こうしたプロセスを経て、映画が初めて形になり、方向性を見出すことができたのです。いくつか、私にとって非常に重要な意味を持つ、鍵となるシーンがあって、他のシーンの中にはそれとうまくマッチするものもあれば、結果として出来たものもありました。基本のテーマ、つまり、大きな全体という文脈、機械的なシステムという文脈の中での私たちの生活が現れているのが重要なシーンで、その他は役所とか、装置とか、安全性、警備トレーニングなどに関わるものでした。

Q:暗闇の中での撮影は、技術的に難しいことですが、どのように取り組みましたか?また、撮影場所がさまざまなので、撮影に際して要求されることもいろいろだったんじゃないでしょうか。ジプシーキャンプやテクノパーティの動きの多いシーンもあれば、固定カメラのシーンもあります。
NG:撮影ついては、そんなに色々な経験をしたということはないですね。常に、空間と状況をオープンにして、できるだけ多くのものを経験できるようにすることを目指しました。つまり、編集や、計画的なシーン、広角シーンなどをできるだけ少なくしました。ただし、どこを手持ちカメラで撮るかの決断だけは必要でした。手持ちカメラは、より主観的な印象を与えるので、手持ちで撮るにはそれなりの理由と意味が必要なのです。監視バスの出てくる最初のシーンは、撮り直しをした唯一のシーンです。単に暗すぎたため、その必要がありました。二度目の撮影では人工の光源を使ってシーンを再現しました。このシーンは映画的、人工的なところがあり、同時にリズムを決めているところがあるので、映画の最初に置きました。後のほうではこの効果はもうないのですが、いわばプロローグとしてはよかったと思います。

Q:監督のこれまでの作品と同じく、この映画は編集を担当したヴォルフガング・ヴィーダーホーファーとの対話の繰り返しによって成り立っているんでしょうか?
NG:このやり方は、いつもだいたい同じです。ヴォルフガングは、素材をコメントなしでそのまま受け取ります。まず彼は、それをみて自分の素材を探します。この作品では、この作業はすごく大変だったんじゃないかと思います。言い方を換えれば、彼は私とまったく同じように探していたんです。我々はまず、本当のところは何を語りたいのかという自分の立場を見出さなければなりませんでした。どうしたら、拙くならずにテーマを打ち出すことができるのか?今回は、大切だと思われることすべてを、あまり大げさにならないように、一歩ひいてストーリーを語るのに大変な工夫が必要でした。それなりに時間もかかりました。我々の間では分業体制ができていて、映画は脚本側で形になっていくので、ヴォルフガングはいつも脚本側にいます。きわめてオープンで繊細な映画であったため、ヴォルフガングにとってはこれまでで一番手のかかる編集作業でした。というのも、繊細さを保ちつつも、誰にもわかる明確なロジックも備えていなければならず、そのためにはきっちりと全体のつじつまがあっていなければならないからです。今回の映画は、これまでの映画と比べて、一番オープンなプロジェクトでした。テーマが決まってから、それを形にしていくというやり方をとりました。


1  |  2  |  3  |  4