OUTSIDE IN TOKYO
Nikolaus Geyrhalter INTERVIEW

ニコラス・ゲイハルター『眠れぬ夜の仕事図鑑』オフィシャル・インタビュー

チェルノブイリから4kmの町の、原発事故から12年後の現実を描いた『プリピャチ』(99)、工業製品のように大規模な機械化によって生産・管理される私たちの「食物」が生み出される現場を捉えた『いのちの食べかた』(05)といった、現代文明の最も危機的な側面を捉え、観るものの目を啓くドキュメンタリー映画を世に問うてきた映画作家ニコラス・ゲイハルターの新作『眠れぬ夜の仕事図鑑』は、ゴダールの『ソシアリズム』(10)と同じく、”ヨーロッパの終焉”を認識する映画である。ゲイハルターは、”昼の世界”を実質的に回している”夜の世界”において、何食わぬ顔で暗躍する機械的なシステムにフォーカスすることで、もはや自分達の現状を維持することにしかエネルギーを使わなくなった”ヨーロッパ”の満腹感を炙り出している。 本サイト独占掲載であるニコラス・ゲイハルター監督のオフォシャル・インタヴューをお届けする。
(上原輝樹)

1. (原題の)「アーベントラント(ヨーロッパ、夜の国)」という概念は、
 「モルゲンラント(東洋、朝の国)」と区別し、
 ヨーロッパの文化形態をより高い位置にあるものとして定義するために使われている

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Q:映画作家の仕事は、自分の心を動かされたものごとを目に見える形にすることだと思います。夜や闇といったテーマを、目に見える形にし、光を当てようと思ったきっかけはなんですか?
ニコラス・ゲイハルター Nikolaus Geyrhalter (NG): 夜に興味があったというよりも、私たちの生活や、文明社会の基盤や背景にあるものに興味がありました。私たちはどのように暮らしているのか?私たちの生活を実現するために、どんなプロセスがその裏側で進められているのか?といったことです。

Q:どのようにしてテーマを見つけたのでしょう?撮影には、どんな時間や議論が必要でしたか?
NG:大きく分けて2つの問題領域がありました。ひとつは、私たちはどう生きているのか?私たちの生活環境が「ABENDLANDアーベントラント(※この映画の原題。ドイツ語でヨーロッパ、夜の国を意味する)」とどのように関係しているのか?という疑問を取り巻くものです。「アーベントラント」という概念は、ヨーロッパを意味するものとして使われていて、「アーベントラント」を「モルゲンラント(※ドイツ語で東洋、朝の国を意味する)」と区別し、ヨーロッパの文化形態をより高い位置にあるものとして定義するために使われています。2011年において、「アーベントラント」とは実際何なのか?なぜ私たちは、ヨーロッパが他より優れていると信じるのか?もうひとつの問題領域は、もしヨーロッパが他よりも優れているのなら、どうして私たちはそこに誰かを参加させないのかということです。この2つの問題領域は、お互いに少しかぶるところもあるのですが、今回の出発点となりました。夜は、調査の段階で出てきたんです。当初、作品のタイトルを「ヨーロッパ」としていましたが、この映画の最初の段階で多くの調査をしてくれたマリア・アラモフスキーが、あるとき「アーベントラント」という概念を提案してくれて、それからいろんな方向性がはっきりしたんです。特に、全体のストーリーや、この大きなテーマを夜に設定しようというところですね。これをきっかけに、夜のヨーロッパの映画を作ることが決まって、やりやすくなりました。夜というのが鍵となり、いろんなことが明確になってきたんです。というのも、実に多くのものごとが意識的に夜のうちに行われていて、24時間稼動しているシステムとかプロセスは、夜間のほうがずっと目に付きやすく、露わになっているからです。夜はまるで、日常の中から白く浮き上がった、開いた傷口のようなものです。夜そのものよりも、よりはっきりと観察するために夜を分析することが、私にとって大事なことでした。

『眠れぬ夜の仕事図鑑』
英題:ABENDLAND

7月28日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー

監督・撮影:ニコラス・ゲイハルター
編集:ウォルフガング・ヴィダーホーファー

© 2011 Nikolaus Geyrhalter Filmproduktion GmbH

2011年/オーストリア/94分/カラー
配給:エスパース・サロウ

『眠れぬ夜の仕事図鑑』
オフィシャルサイト
http://nemurenuyoru.com/
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