OUTSIDE IN TOKYO
SHIBATA GO INTERVIEW

柴田剛『堀川中立売』インタヴュー

5. 京都の団地の子どもたちの自然な存在感、
 寺田という孤独なキャラクターに命を吹き込んだ野口雄介

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OIT:子供達の役割はよく分らなかったんですけど、存在自体が良いというか。京都でキャスティングしたんですか?
SG:そうです。近所の団地の子供達ばっかり。

OIT:そういう雰囲気が出てて良かったです。
SG:何人かいたら何人かが友達呼んで遅くまで一緒にいて、途中で怒った親が来て「何してくれんねん」て言って。子供が一番かわいそうでしたね、後ろ髪ひかれながら。

OIT:映画と家の板挟み。多分、子供は楽しいですよね、映画の撮影って。
SG:一つ大人になってしまったんじゃないかと思うんですけど。

OIT:この子(祷キララ)なんかポスターで堂々としていて、すごいですよね。
SG:この子だけは昔からの知り合いで。この前に『青空ポンチ』っていう映画があるんですが、色々年が離れたメンバーがバンドを結成するっていうちょっとずっこけた群像劇で、青空と言ってるけど決して青春じゃないみたいな、そういうバンドの話なんですけど。その映画をこの子が本当に大好きで。知り合いの子供なんですけど、「あの映画いけとる」って言って5回くらい見てる。そしたらどっかで会った時に、「じゃあ次映画やる時に出てみるか」って言ったら「ええで」と言ったんで、「ほんとだな」っていうことで、一年半後にこの映画の準備が始まったんで早速声をかけたんです。

OIT:出ている方々との繋がりがオーガニックでいいですね。
SG:ロケ場所を厭わないのと同じで役者達も目の前に飛び込んでくる人達がそのまんまわーって繋がっていくっていう。プロジェクトが大きい現場だったって言いましたけど、根っこには何もアイデアがなかったんです。

OIT:この場所だけがあったっていうことですか?
SG:そうですね。京都に着いたっていう、そこで暫く生活するっていう高揚感だけがあって、それでまたいつもの様にイメージを固めきらないで、目の前にあるものからもう繋げていって同時にそれを広げていくっていう。

OIT:撮影は順撮りだったんですか?
SG:やっぱり順撮りはなかったです。この映画は順撮り関係ないなって思ったんです。映画の脚本の中のへそになる部分を撮ろう、へそになる順から撮っていく、そうすると最後はその中で欲張っていく、もっと欲張ろうとか撮りこぼしたものを撮ろうとか。

OIT:余裕が出ると。
SG:そうですね。へそになるものから、どんどん撮っていきました。

OIT:最初のへそになる部分を撮った時はどういう感触でした?
SG:最初に撮ったのは桜をバックに白いガウン着た男2人が飛び跳ねて走ってくるっていうシーンですけど、あれがやっぱりあったんですよ。京都の街中といえど桜をバックにっていう。あの時に、今回2人でつるんでるニコイチの主人公というイメージが見えたので、それじゃ次はもう一人の主人公(寺田)は孤独を一人だけしょっている奴だと。彼で見えたところがどこだったっけなぁ? 寺田で見えたのは喫茶店で上司と喋ってる、やんわりとクビを切られていくところ。

OIT:最初の方?
SG:そうです、そこですね。寺田という役をやっている維新派にいた野口雄介。

OIT:すごくいいですね、ブラックホールみたいな存在感。
SG:そうですね、ものすごく彼はいい。色々役にあう設定を、そういう境遇におかれている人だったり、収容されている少年院だとか、調べ上げて役作りをかなりしてきて、入り込んでやってきた。だからあの喫茶店のシーンの最後の台詞なんかは「最後に三年間僕がいて助かりましたか?何か役に立ちましたか?」あれは彼のアドリブだったんですよ。

OIT:ちょっとあそこは何て言うんですかね、じんわりきちゃうっていうか、そういう場面になっていました。
SG:そうですね。彼が寺田っていう役に息吹き込んだというか、僕は設定はしたものの、あまり深く見たくないという登場人物だったんです。やっぱり『おそいひと』を撮ってた時の癖がちょっとまだ出てるかな。殺人鬼住田雅清に入り込まないように。僕はあくまでも健常者だっていうところで撮影をしていて相手が被写体で障害者だっていうところがあって、そこの距離は絶対崩さないようにしていた。自分の性格が大きく影響しているところなんですけど。ただ結論から言うと、それで掴んでいくものはあった。『おそいひと』の完成以外にも。対住田さんですとか、彼らから教えてもらった障害者の世界ですとか、僕は僕の立ち位置をしっかりしていることが一番重要だっていう。だから今回の寺田役の野口雄介のものすごい役作りにも深く入らず他者として屹立するけれども、僕はスタッフの一人なんで主張をなるべくしないようにしたんです。

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