OUTSIDE IN TOKYO
SHIBATA GO INTERVIEW

『NN-891102』『おそいひと』に続く、柴田剛監督長編第三作目は、京都の強烈な磁場と強者ミュージシャンが”映画”というフレーム超えて暴れ回るカオスな作品。フィルメックス2009でコンペ作品として上映され、その後、映像とサウンドを再編集、1年後の今、公開されて様々な反響を呼んでいる。インタヴュー予定時間45分を遥かに超過して、2時間半に及んでしまったロング・インタヴューを一気掲載。作品をご覧になり、頭の中がファンキーな状態でご一読頂きたい。

1. 『NN-891102』と『おそいひと』、
 失敗が許されないという緊張感が背中に張り付いていた現場

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):柴田監督の名前を最初に知ったのは『おそいひと』の時でした。センセーショナルなテーマながら作品自体はとても映画らしいというか、テーマから想像するのとちょっと違う、メタリックに黒光りするかっこいい作品だなぁと思いました。作りがかなり映画的な作りというか、それで、そういう監督さんなのかなと思ったのですが、今回の作品を拝見して、大分印象が違う作品だなと思いました。面白い作品なのですが、一言で言えない難しさもある。ただ、自分で消化できない部分も含めて、面白い、力がある作品だなと。更に言えば、これは“映画”なのかな?とすら思いました。いま“映画”と言われるものの領域が広がっていると思うんですが、“映画”という言葉で言い切れないものもあるような作品も増えている中で、カオスな活況を呈しているというのか。そんなエネルギーを感じました。まず『おそいひと』に関してですが、その時はかなり“映画”ということを意識して作られたという感じですか?
柴田剛(以降SG):そうですね。『おそいひと』の前に、僕が一番最初に映画を作ったのが『NN-891102』です。それはいわゆるシナリオをしっかりと書いて、16mmフィルムで制作しました。予算が限られた中でヘタうてないっていう状況で作った作品です。制作準備とか、絵コンテとか、しっかり段階を踏まえていく、編集することも初めてだったので映画として成立するかということに不安を抱きつつ、背中にびっちり緊張感持ちながらやってたのが『NN-891102』という一作目なんです。それで次に『おそいひと』になったわけなんですけど、一度 “フィルムで撮影することの煩わしさから逃れたい”という気持ちもありました。ちょうど日本でも、外国でも、デジタルビデオカメラで制作された映画が出始めた時代だったんですよね。もちろん撮影フォーマットの選択が先にあったのではなくて、被写体の住田雅清さん(『おそいひと』主演)という障害者が目の前に飛び込んできたところから始まっているんですが。『おそいひと』制作の頃には、今の10年前のビデオカメラで撮ってるような、ああいう雰囲気の追い風に乗って二作目の映画ができないかな、フィルムの煩わしさから飛び越えたところで、映画を作りたいな、と思った。そこでやっぱり、映画として成立するかどうかっていうことにドキドキしながらも、不安感に苛まれながら撮っていったんですよ。だから結論から言うと、あの形になるってことは予め予測できたかっていうと疑わしいです。フィルムの煩わしさから離れて、もっと色々なことにチャレンジしたい考えが強かったです。

OIT:その煩わしさっていうのは具体的にいうと、かかる時間であったり、スタッフの人数であったりっていうことですか?
SG:そうですね。物理的な問題と、あとは限られた中で作っていくので、それによって撮影が進めば進むほど、精神的な問題っていうんですかね。技術不足とか経験不足もあいまって、映画が完成することに対して失敗が許されないっていう、その緊張感が常に身体に張り付いている状態で。でもそれまでの自分の立ち位置を全く無視した実験的なことをするっていう、それの日々繰り返しの中で蓄積されたものが『おそいひと』っていう形で出来上がったなっていう自覚があるんですよね。

OIT:デジタルで撮り始めた時期って、ちょうど海外ではペドロ・コスタとか。
SG:ハーモニー・コリンとかですよね、『ジュリアン』とか。

OIT:そうですね。そういう流れの影響があったと?
SG:もちろん、そういった情報はすぐ飛び込んできますし、どういうことをやるべきかを考えている世界が全く同じジャンルなんで。あと海外の映画祭とかに参加していたりすることで、より近くなってくるんですよね。そうするとやっぱり日本に戻ってやるということは、もうちょっと遠い先を見据えて作らなきゃいけないな、と自覚をしていたということが当時あったと思います。そこで繰り返し言うけれども、フォーマットではなくて自分が何を撮りたいかっていうことをちゃんと選べてなきゃ、きっと映画は完成もできないだろうって思いました。根っこがぐらついちゃってるとどうしようもないんですよね。僕はその時は経験不足だったですけど、被写体の住田さんが強烈すぎたんで、ブレることが逆にできなかった。悪運が強いというか。その中で見据えてやっていくにはもうビデオカメラはちょうど良かったです。

OIT:フィクションではあるけれども、住田さんのドキュメンタリーみたいな部分がありますよね。
SG:そうですね。そこは、えいっ、撮ってしまえってところで、予め用意していたテーマではないけれども急に現れてくる。そんな時に、ビデオカメラの機動性が大いに役立ちました。住田さんが住んでいる障害者世界に対して理解と準備がないまま制作に入っていったので、撮影しながら障害者の住田さんの世界を知っていくっていう感じでした。

OIT:製作のプロセス自体が探求していくプロセスだった?
SG:はい、そうでした。


『堀川中立売』

11月20日(土)より、

監督:柴田剛
製作総指揮:志摩敏樹
脚本:松永後彦、柴田剛
撮影:高木風太
照明:岸田和也
録音:東岳志
美術:金林剛
編集:高倉雅昭
助監督:匂坂力祥
制作担当:金城恒次
演出部:佐々木育野、松田義輝
美術部:西村立志
スチール:辻本しんこ
メイク:窪田弥生
衣装:増川智子
スタイリング:VISIT FOR
衣装協力:スーパーレスキュウウェアズ
特殊メイク:松浦勝也
音楽監修:森雄大(neco眠る)
CGI・VFX:はなよめ映像事務所 そらうみCGstudio 大月壮
合成:藤林久哉、田中理絵
アシスタントプロデューサー:福嶋美穂、酒井力
アソシエイトプロデューサー:田中誠一、松本伸哉
アートワーク:前田浩作(EDITMODE)
ウェブサイト:森本太郎
ビジュアル・イラスト:HARRY画伯
ビジュアル・オブザーバー:宮川隆
出演:石井モタコ、山本剛史、野口雄介、堀田直蔵、祷キララ、秦浩司、清水佐絵

2010年/日本/HD/123分
配給:シマフィルム

『堀川中立売』
オフィシャルサイト
http://www.horikawanakatachiuri.jp/
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