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ロンドンの街路をゴトゴトと進む不穏な馬車。馬が蹄を進める度に、不安定な車体は左右に大きく揺れる。そしてテームズ川沿いのクラブの前に陣取ると、中世の橋のように横が開き、旅芸人然の舞台が現れる。道化のような男が素知らぬ顔で通りすぎる人たちに呼びかける。「偉大なるパルナサス博士(クリストファー・プラマー)の登場です!」すると舞台に立つ美しい少女とは違いすぎる、白塗りのくたびれた老人が現れる。そして舞台中央の手づくりっぽい鏡の中を通ると、人が密かに抱く幻想を見せてくれるのだと宣う。そんな彼らをバカにするように、酔客が鏡の中に乱入すると、そこには男の内面を映す幻想世界が広がっていた…。
これが偉大なる監督、テリー・ギリアムの待望の最新作『Dr.パルナサスの鏡』だ。ロンドンでのロケ撮影は終わり、後はバンクーバーでの特撮のみを残して、主演であり、親友であるヒース・レジャーの不幸な死により、完成が危ぶまれたいわくつきの作品だ。ドン・キホーテを描く映画が頓挫して以来、『ローズ・オブ・タイドランド』(05)、『ブラザーズ・グリム』(05)と撮ってきた監督にとっては、またか、という状況だったに違いない。それこそ、彼は神を、悪魔を恨んだに違いない。そして親友も失い、映画も諦めかけた彼を救ったのがヒースの友人でもあったジョニー・デップ、コリン・ファレル、ジュード・ロウの3人だ。幸運にも、残された幻想世界の中での特撮シーンということで、鏡をくぐった主人公トニーが、一緒に入った女性たちの幻想に併せて姿を変えるという変更を加えることで、結果的に、完成にこぎ着けたばかりか、却って物語の世界に広がりを与えたのだ。 それでは物語に戻ろう。隔絶された雪深い山中で、世界の均衡を保つべく、永遠に物語を語り継ぐ僧侶たちの長たる高僧としてパルナサスは君臨していた。読み止めれば世界は終わると信じていた彼らの下へ、Mr.ニック(トム・ウェイツ)という悪魔が現れ、彼らの儀式を破壊する。だが世界が終わることはなかった.信じていたものに裏切られたDr.パルナサスは下界へ下る。そこで女性と恋に落ちた彼は、彼女と釣り合う若さを維持する永遠の生命と引き換えに、いつか生まれくる娘が16才になったら嫁として渡すという条件でMr.ニックと交換条件を結んでしまう。そしてロンドンの舞台でDr.パルナサスの傍らにいたのがもうすぐ16才になろうとしていた娘ヴァレンティナ(リリー・コール)だった。そこへタイミングを図ったかの如くMr.ニックが現れ、渋るパルナサスに賭けを申し出る。彼の幻想世界に入った人々が5名、悪魔の誘惑に負けずに、パルナサスの導いた方へ行けば、娘を解放するというのだ。だが人々は彼らを疎ましく敬遠するばかり。そこへ救世主とばかりに、死にそうだった記憶喪失の男、トニー(ヒース・レジャー)が降ってわいてくる。 そこからはテリー・ギリアムの真骨頂である、現実と幻想が入り乱れた世界が展開される。『モンティ・パイソン』のシリーズから、『未来世紀ブラジル』(85)、『バロン』(88)など、初期作品が好きな人も満足させるであろう、作品となったようだ。 そして今回、日本製の靴下をロンドンで買ったんだと上機嫌に話すテリー・ギリアムの傍らには、この作品でモデルから女優への華麗な転身を見せたリリー・コールが座っている。ステラ・マッカートニーのワンピースからすらりと伸びる、シャネルのパンプスを履いた彼女が足を組むと、見ないようにしていても、思わず足首のタトゥーに目が泳いでしまう。そんな2人に、ほんのわずかだけ、質問することができた。ラウンドというグループ取材なのでやや脈絡に欠けるが、それでも笑いの中に鋭さを覗かせるギリアムと、その知性と頭の回転の早さで女優としての活動に期待させるリリー・コールの掛け合いを楽しんでもらいたい。 |
『Dr.パルナサスの鏡』 原題:The Imaginarium of Doctor Parnassus 1月23日(土)TOHOシネマズ有楽座ほか全国ロードショー 監督:テリー・ギリアム 脚本:テリー・ギリアム、チャールズ・マッケオン 製作:ウィリアム・ヴィンス、エイミー・ギリアム、サミュエル・ハディダ、テリー・ギリアム 製作総指揮:デイブ・ヴァロア、ヴィクター・ハディダ 撮影監督:ニコラ・ペコリーニ 編集:ミック・オーズリー 音楽:マイケル・ダナ、ジェフ・ダナ オリジナルデザイン&アートディレクション:デイブ・ウォーレン 衣装:モニク・プリュドム 出演:ヒース・レジャー、クリストファー・プラマー、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレル、リリー・コール、アンドリュー・ガーフィールド、ヴァーン・トロイヤー、トム・ウェイツ 2009年/イギリス・カナダ/カラー/ヴィスタ/SRD・DTS・SDDS/124分 配給:ショウゲート ©2009 Imaginarium Films, Inc. All Rights Reserved. ©2009 Parnassus Productions Inc. All Rights Reserved 『Dr.パルナサスの鏡』 オフィシャルサイト http://www.parnassus.jp/ |
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