OUTSIDE IN TOKYO
Yang Yonghi Interview

ヤン・ヨンヒ『愛しきソナ』インタヴュー

5. 私の家族に出会うことで、自分の家族を思い出したり、自分のそばにいる友達のことを
 もっと考えていただけるきっかけ、触媒になればと思っています。

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OIT:あと聞きたいことが2つあります。一つは、最初にちょっと触れていただいた、自分が代弁者として、状況なり政治なりに対して、自分の言った一言がそれを背負ってしまうことへの不安はありますか?もう一つは、タイムリーでもありますが、ずっと続いている問題で、参政権も含めた、在日という立場についてどう考えていますか?ニュースでも、学費の問題とかもあったり、それについて聞いても大丈夫ですか?
YY:はい、何でも。私が代弁者となってしまうのは、もはや仕方がないと思う反面、だからこそ取り上げていただけたりする部分もあるでしょう。他の家庭を描いた他のバックグラウンドをもろに描いたものが少ないので一長一短だと思いますが、それはしょうがないことですし、こうして続けていき、作品を作っていくことで、もっと色んな人が作品を作りやすくなるとも思います。見る方もただもの珍しさだけでなく、どんどん理解していける。私の存在や作品は、一種の触媒だと思ってるんです。それをきっかけに、色んな話し合いとか、考えてみることとか、何かが生まれればいいなと思います。たかが映画1本見たくらいで一つの社会や国やコミュニティが全部分かることはあり得ないわけです。でもそういうのをちょっと知ってみようかな、俺の隣にもいたよな、在日のあいつ、みたいな感じで。私の家族に出会うことで、自分の家族を思い出したり、自分のそばにいる友達のことをもっと考えていただけるきっかけ、触媒になればと思っています。

今、在日を取り巻く問題、北朝鮮を取り巻く問題はすごく複雑ですが、一個一個、丁寧に見たいと思っています。北朝鮮に対して身内的な、例えば、私、国籍は韓国ですけど家族がいて、身内だから日本人に悪く言われたくないみたいな感情論で擁護しようという気は全くないですし、冷静に見て、あの社会システムの中で暮らしたいとは思わないので。自分がそこで暮らしたくないのに、あそこは素晴らしいだとか言うのは嘘っぽいと思っていて、そういう意味では細かい議論をせずに目的というか、なんて言うんでしょう、ただ支持する立場をとることに疑問を持ちますし、かと言って、例えば朝鮮学校の問題、北朝鮮と関連する学校ということで、日本で生まれ育っているもう3世、4世、5世ですからね、その子達の教育問題に対してこの国に育っている子供たちとフェアに見ないのは間違っていると思います。両方に対して腹が立ちます。それならフェアに、きちんと援助してあげなければいけないし、なぜかと言うと、今、朝鮮学校で勉強している子たちは日本社会の役に立つからです。北朝鮮のために生きていく人間なんていません。これは断言できます。(在日は)本当に日本の社会に貢献してると思うんですよ。

自分で言うのもバカみたいですけど、私の作品も日本映画として海外の映画祭に行ったり、日韓合作として行っているわけだし、受賞した時も『ディア・ピョンヤン』などは日本映画として賞をいただいたわけで、北朝鮮で問題児になっても私は日本の一部として迷惑をかけずに生きていると思っています。そういう人間を一人一人見ていると、例えば李忠成(イ・ジュンソン)選手みたいなサッカー選手もどんどん出てくると思うんですよね。だからどこの学校だからというのは本当に差別だと思うので、あれは本当に度量が小さすぎると思いますし、一方で朝鮮学校も本当に民族教育をするのなら、やっぱり北朝鮮べったりではなく、独自の民族教育をしてほしいと思いますね。すでに大阪にはそういう民族学校が別に一校、出来てるんですね。そこはもう歴史があって、本当に日本の政府から弾圧を受けて寺子屋みたいに始めた学校で、警察がいきなり押し寄せて、学生たちを殴り倒して潰そうとした。その時に救ったのが北朝鮮だったんですよね。それはでも、暗黙の何かがあったんだと思います。でも本当に、政治だなと思うんですけど、莫大なお金を送ってきたわけだし、総連とか朝鮮学校でがんばっている先生たちにとってはそこが痛いところで、やっぱり学校は守りたいじゃないですか、子供達のために。純粋に民族教育をしたいと思っている人も多いんですよね。そこへ送る親も。今、私には友達がたくさんいるんです。朝鮮学校に送ってる父兄はみんな悩んでます。だって「金日成、万歳」と教えてほしいと思っている父兄はほとんどいません。だから教科書もどんどん変えて、そういう内容は減らしてるけど、でもやっぱり、北朝鮮を祖国として教えるわけですよね。そこがちょっと苦しいところですね。

私も自分にもし子供がいたら、どこの学校に送るかは悩みますよ。実際、日本の学校に送っても、韓国に留学して言葉を身につける道もあるわけですよね、今は。そういうところでも在日は国が2つに分かれているため、日本政府がやっぱり片方の韓国とだけ国交があって、韓国だけはどんどん近くなるのに、北がどんどん遠くなっているというのが、漠然とニュースで見るテーマや問題だけでなく、そういう一つ一つの要素が生活に食い込んでくるんですよね。子供の教育問題とか、毎日、商売して人に会う度にそんな話題が出て。それは本当に細かいことですが、こういう風に説明しようとすると長くなるので記事にもしにくいし、私がコメンテーターになった時にも説明しきれないんですけどね。でも一つ一つは丁寧にちゃんと言いたい。朝鮮学校の、例えば助成金ですが、差別すべきではないと言うと、いきなり、あいつは北朝鮮支持者とか、そういう短絡的な分け方をしますよね。それがすごく幼稚だなと思います。特に私のように細かく一つ一つのストーリーを掬うことを仕事している人間としては、そこに子供を送っている親が何を考えているか、その学校で教えている先生が何を悩んでいるか、私もそこの先生をしたことがあるのでよく分かるんですけど、みんな本当に悩んでます。やけ酒ばかり飲んでますよ。でもその中で、昔一番辛いときに救ってくれた、北からの援助金もそうだし、特に1世、つまり自分たちの先輩が守ってきたものを乱暴にすぐ捨てるということも出来ないし。

それはどういうことであれ、そこで育つ子供たちに罪はないということなら、なんらかの政府のサポートがあってほしいし、教育内容はどうだっていうのはまた別のところでずっとやっていくべきことだと思うんです。これだけは本当に言えます。日本の社会のために役立つ子供を差別すべきではない。もしここで差別すれば、本当に余計な、日本社会への反発心や不信感を植え付けることになる。日本政府が。これは将来の日本社会に対してマイナスだと思うので、その辺を見てほしいですね。

OIT:変わりますかね?
YY:どうでしょうね。でも希望は捨てたくないというのと、まあ、自分一人の声が世界を変えるとは思わないし、作品一つが世界を変えるとも思わない。マイケル・ムーアでもないですしね。でも、コミュニケーションを諦めないというか、お互いの思いを共有し続けたい。自分の思いを伝え続けることは止めたくないと思います。世界がどんどん悪くなっていってるとか、よくなっているのかも、見方次第だと思うんです。悪くなってるとは思いますよ。相変わらず戦争ばっかりやってるし、やろうとしてるし、バカだなとは思うけれど、でもやっぱりイラク戦争くらいから地球規模での反戦運動の流れとか、今回もtwitterやfacebookとか、新しいものが生まれているのでどちらを見るかでしょうね。そっちを見て信じたいっていう思うし、悲観的な方ばっかり見ると本当に生きていくのが嫌になるくらいですけど。まあDNAは超ポジティブなので(笑)。

OIT:ようやくここまで来たという感じですか?
YY:そうですね。そうだと思います。どんどん右翼的になっている気はするのですが、北朝鮮を頭ごなしに否定する宣伝カーが叫んでいることと、北朝鮮のオフィシャルな放送で叫んでいる言葉があまりにも一致しているので、本当におもしろいなと思います。本当に同じこと言っているんだなっていう。とにかく諦めず、失望せずに続けていきたいという感じですね。こうやって私も声を拾って下さる方がいる限りは。だいたい、一生懸命伝えようと頑張って、その日のビールがうまければいいか、くらいな感じで。

OIT:そこで終わってしまいますよ。
YY:そっか(笑)。


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