OUTSIDE IN TOKYO
ALEXANDER PAYNE, GEORGE CLOONEY & SHAILENE WOODLEY INTERVIEW

アレクサンダー・ペイン、ジョージ・クルーニー&シャイリーン・ウッドリー
『ファミリー・ツリー』インタヴュー


構成&テクスト:上原輝樹

映画の舞台は“地上の楽園”と言われるハワイ。先祖から広大な土地を受け継ぎ、美しい妻と二人の娘に恵まれ何不自由なく暮らしてきた主人公マット・キング(ジョージ・クルーニー)の身に、ある日思いもしない事態が訪れる。妻の事故をきっかけに、幾つもの知られざる“事実”が明るみになり、今まで順風満帆だと思っていた自分の“人生”や“家族”の日常がガラガラと音を立てて崩れていく。折しも、先祖から受け継いだ広大な土地は、一族を潤すためにリゾート用に売却する計画も進んでいた。事故で昏睡状態に陥ってしまった妻から予期せぬ復讐にあったマットは、長女のアレクサンドラ(シャイリーン・ウッドリー)を頼みの綱に(ソクーロフの傑作『チェチェンへ アレクサンドラの旅』(07)に感銘を受けたものであれば、「アレクサンドラ」という名前に<守護神>という意味があることを覚えている方もいるだろう)、崩壊しつつある“家族”との関係と自らの“ルーツ”を見つめ直す旅に出る。

人は、ある日突然向き合うことになった人生の危機に対してどのように振る舞い、対処することができるのか。辛辣な現実描写の中に、えも言われぬユーモアと哀しみを滲ませながらも爽快な後味を残す、アレクサンダー・ペインならではの、洒脱な語り口が観るものを魅了する。7年振りの新作で再び現代最高の映画作家のひとりであることを証明したアレクサンダー・ペイン監督とハリウッドの良心とも言うべきジョージ・クルーニー、そして、聡明で魅力的な女優シャイリーン・ウッドリーのインタヴューから、傑作『ファミリー・ツリー』の魅力、ひいては、現代の“映画作り”にリアルに息づく”夢”の所在に触れて頂くことができれば幸いである。

1. 僕のセットでの朝の第一声は、「幸せだ!」で始まる(アレクサンダー・ペイン)

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UCLAの卒業制作『The Passion of Martin』(91)はサンダンス映画祭で上映され、長編デビュー作『Citizen Ruth』(96)は、ミュンヘン映画祭で最優秀作品賞を受賞する。以降、リース・ウィザースプーン主演のコメディ『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(99)、ジャック・ニコルソン主演『アバウト・シュミット』(02)、ポール・ジアマッティ主演『サイドウェイ』(04)と批評、興行ともに高い評価を受けて来たアレクサンダー・ペイン、7年振りの新作が『ファミリー・ツリー』(11)である。これほど高い評価を受けている旬の監督が7年の間、一体何をやっていたのだろう?と訝る向きもあるかもしれない。『パリ、ジュテーム』(06)の一話やTVシリーズ「Hung」のパイロット版を手掛けたり、日本ではDVDスルー作品となったアダム・サンドラー主演作品『チャックとラリー おかしな偽装結婚!?』(06)の共同脚本や、幾多のプロデュース作品を手掛け、それなりに忙しくしていたようだが、映画化に向けて2年半を脚本に費やした「Downsizing」というプロジェクトがリーマンショック以降の財政難の余波を受けて実現しなかったことが、実質的にはこの間のペースダウンを生んだようだ。この時期のことをペインは、こう振り返っている。
“言うべきことがない限りは口をききたくもない”という状態の時もあったが、その時期はほとんどの時間を脚本の執筆に費やしていた。まだ映画化していないものだが、脚本を書くのに2年以上かかったんだ。この脚本の映画化には多額の予算がかかるし、特殊効果についても学ばなければならない。共同脚本家のジム・テイラーと一緒に、2009年の春に書きあげたんだが、ちょうど経済が破綻した時で、映画を作るにはふさわしい時期ではなかった。脚本に2年半かかったので、僕としても嫌気がさしていたしね。その作品から離れることが必要だった。その時になって、『ファミリー・ツリー』を作ろうと思ったんだ。映画を撮りたくて仕方がなかったからね。
12歳の頃には、チャップリンのミューチュアル時代の短編映画(全12本)と『オペラ座の怪人』(注:恐らく1925年のサイレント版/ルパート・ジュリアン監督作品)のフィルムを小遣いで買い集め、近所で上映会をしていたという映画少年であったアレクサンダー・ペインは、映画監督となった今でも、eBayを通じてキャロル・バラード(UCLA時代のフランシス・フォード・コッポラのクラスメート、『ワイルド・ブラック/少年の黒い馬』(79)など)の短編映画『The Perils of Priscilla』(69)のレアな16mmフィルムを落札したり、スコセッシのフィルム・ファンデーションの役員を務めたりしている、自他共に認めるシネフィルなわけだが、学生時代の彼は、“歴史”と“スペイン語”をスタンフォードで学び、コロンビア大学大学院で“ジャーナリズム”を専攻した後に、晴れてUCLAの映画科に入り、“映画”への情熱を、慎重に、確実に、自分のキャリアにしていった。そんな彼にとって、“映画作り”とは正に夢の実現に他ならなかった。今や、その“夢の現場”にいるペインについて、本作『ファミリー・ツリー』で長女アレクサンドラ役を鮮烈に演じたシャイリーン・ウッドリーはこう語っている。
毎朝、私は彼のところに行き、「元気?」と聞きます。朝の6時ぐらいなんですが、彼は私を見ると、肩を上下にゆすって、「幸せだよ!」と答えるんです。ちょっと珍しいですよね(笑)。元気かどうかと聞かれて、いったい何人が「幸せだよ!」なんて答えますか? たいていは、「まぁ、元気だよ」とか答えるものです。
シャイリーンの証言をペイン自身も素直に認めている。
僕のセットでの第一声の話?シャイリーンに聞いたんだね。彼女は元気なミス・ポジティブだね。彼女の言った通りさ。僕は映画作りが本当に好きなんだ。残りかすのような他の生活よりも映画のセットにいるほうが幸せなんだ。映画を作る過程は目的がたった一つ。意識を集中させて、映画作りという行動に専念できる。その感じが好きだ。

『ファミリー・ツリー』
原題:THE DESCENDANTS

5月18日(金)よりロードショー

監督・脚本・製作:アレクサンダー・ペイン
脚本:ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ
原作:カウイ・ハート・ヘミングス
製作:ジム・バーク、ジム・テイラー
撮影監督:フェドン・パパマイケル ASC
プロダクション・デザイナー:ジェーン・アン・スチュアート
編集:ケヴィン・テント A.C.E.
衣装デザイナー:ウェンディ・チャック
キャスティング:ジョン・ジャクソン
音楽スーパーバイザー:ドンディ・バストーン
エグゼクティブ音楽プロデューサー:リチャード・フォード
出演:ジョージ・クルーニー、シャイリーン・ウッドリー、アマラ・ミラー、ニック・クラウス、ボー・ブリッジズ、ロバート・フォスター、ジュディ・グリア、マシュー・リラード

©2011 Twentieth Century Fox

2011/アメリカ/115分/カラー
配給:20世紀フォックス映画

『ファミリー・ツリー』
オフィシャルサイト
http://www.foxmovies.jp/familytree/


参考:FILM COMMENT NOVEMBER/DECEMBER 2011, ALEXANDER PAYNE INTERVIEW
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