OUTSIDE IN TOKYO
Bruno Dumont Interview

ブリュノ・デュモン『ジャネット』『ジャンヌ』インタヴュー

5. 不透明で、明確に割り切れない二面性、相反するものが共存している、
 それがジャンヌ・ダルクです

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『ジャンヌ』リーズ・ルプラ・プリュドム
OIT:『ジャネット』の方はまさにクレイジーなミュージカル映画である訳ですけれども、『ジャンヌ』の方は論争の場面がかなり緊迫した展開を見せています。そういう中でジャンヌ自身に反戦思想、あるいは厭戦思想的な台詞が結構あると感じました。例えば、ジル・ド・レが出てきますが、彼が歴史上有名なとんでもない犯罪者であるということは皆知っていることですけれども、彼のことを人間のクズだと言ってみたり、ジャンヌ自らが戦争を率いたにも関わらず反戦思想を抱いている、ジャンヌ自身の中の矛盾する部分が表現されていたと思うのですが、これはデュモン監督が脚本の中でそういう効果を狙ったものなのか、あるいは元々シャルル・ペギーの戯曲にそういうものがあったのでしょうか?
ブリュノ・デュモン:ペギーは史実を汲み取って戯曲を書いていて、彼がベースとした審判の尋問議事録があるわけです。戯曲の言葉は、そこからとられています。もちろんそこに彼が詩的なアレンジを施していることは間違いありませんが、書かれていること自体は史実を基にしたものです。でもまさに、あなたが今仰ったことが、今の現代社会に呼応しているわけです。宗教と非常に激しいテロリズム、暴力性というものが本当に近いところで背中合わせにあるということですね。そして宗教は、愛や平和を説くものではあるけれども、行き過ぎるとテロリズムや過激な暴力に走ってしまうことがある、ジャンヌだってまさにそうした人物です、神のために戦士になるのですから。ジル・ド・レは残忍な犯罪者ですが、ジャンヌはまったく正反対のもの、愛や平和を求めつつも戦士であるという、ちょっと不透明で、明確に割り切れない二面性、相反するものが共存している、それがジャンヌ・ダルクです。

OIT:つい先日、日本でドライヤーの『裁かるゝジャンヌ』(1928)が上映される機会があって、それを観たのですが、コンピューター音源でしたが、生演奏付きという大変素晴らしい上映でした。ルネ・ファルコネッティの演技は映画史に残る大変有名なものですけども、最後に民衆の素晴らしいシーンがありますよね。監督の作品には“民衆”が出てこないのですが、敢えて描かなかったということでしょうか?
ブリュノ・デュモン:お金が無かったですからね。冗談抜きで、どれだけお金を使えるかっていうところで映画の美学が決まっていく、経済が映画の美学を決めるというところがあるのです。とはいえ、それは別としてもペギーの戯曲の中に処刑のシーンが無いんです。牢獄っていうチャプターはあるのですが、彼女が牢獄を出ていくっていう場面はあっても、処刑される場面は無いんですよ。

OIT:なるほど、そういうことでしたか。最後にひとつお聞きしたいのですが、グレタさんという環境活動家がいますけれども、グレタさんをジャンヌ・ダルク的だと思うという意見についてはどう思われますか?
ブリュノ・デュモン:全てのそういった連想、結び付けは可能ですよ、ジャンヌ・ダルクはとてもユニバーサルで普遍的な人物ですから。しかもグレタ・トゥーンベリさんのように若くて、精神的にどんどん高揚していく、いいものに志高く持っていく、そういう人物で若い女性であれば、ジャンヌ・ダルクだっていう風にみんなが噂するのは当然のことだと思います。ただ我々はジャンヌ・ダルクの人生の結末は知っていますけれども、まだグレタさんの人生の結末は知りません。グレタ・トゥーンベリさんもジャンヌ・ダルクも、内側から輝いてるという感じがします。


『ジャンヌ』リーズ・ルプラ・プリュドム
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