OUTSIDE IN TOKYO
F. GARCIA × S. MIYAKE DIRECTORS TALK

『聖者の午後』フランシスコ・ガルシア×『Playback』三宅唱:監督対談

4. 素晴らしいダンスシーンを切ってしまうのは、
 あなたがペシミストであることの一つの証拠なのかもしれない(三宅唱)

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フランシスコ・ガルシア:いいご質問を頂いてありがとうございます。というのは、あの三人の登場人物の未来を考えるという時には、文明自体の未来について自分が信じているところをお話しした方がいいのかなと思うんですけれども、実は自分はとてもペシミストで、現代の物事が起きる、変わっていくその速度に不安を覚えるのです。三人の登場人物の中で、とりわけ女の子は多分旅行に行かない、彼らは極当たり前のありふれた人生の中で年をとっていくというのが自分の考えているその先なんです、新しいことは何も起きない。ジグムント・バウマンという哲学者がいるのですが、彼が言うには現代は物事の関係、人との関係が非常に流動的、液体的である、つまり何事も流動的で、ネットで繋がっている社会は非常に脆弱なものであると、個体の場合だと分子と分子はしっかり繋がっているけれども、現代はそうじゃない。そのような社会の中で、この映画では飛行機がたくさん出てきますけれども、飛行機がそれを象徴しているんですね、ポストモダンの象徴として、凄い速度で繋がっていくもの。繋がり、コネクティビティはあるけれども、それが人々をどう変化させているかというと、人々はあまり物を深く考えず、速度だけを大事にして動いていってしまう、つまりそういう意味でも流動的である。それは自分が思うには人々にとってネガティブな影響を及ぼすであろうと考えているわけです。だから、映画の中の彼らはそういった飛行機に背を向けて、マクドナルドを食べながら座っている。どういうことかというと、現代には背を向けながら現代を食べているという意味で、やっぱり乗るべき路線から外れてしまっている人達なんですね。彼らはそのまま、外れたまま何も起こらない人生を続けていくというのが自分が考えてるシナリオなんです。

三宅唱:たしかに劇中で、飛行機が上に飛んでいて下には亀が歩いている、その真中にちょうど人間がいるというシーンでは、そうした考えがクリアにあったように思います。
フランシスコ・ガルシア:そうなんです、よく見てて下さって嬉しく思います。彼らは殆ど何も起きない人生を生きるわけですけど、それを表現するのにあの作品の中の時間と空間を引き延ばすことをしたかったんです、引き延ばすために色々な道具を使ってるんですけど、例えばカメラをずっと固定で使うとか、カットをなるべく少なくするとか、それから彼らはずっとマリファナを吸って回ってしまっていますけれども、吸っている彼らを見ていると時間が延びるような気がする。もちろん亀もそうで、あれも時間を引き延ばすための道具なんですよね。飛行機は反対に外側にある飛行機の速度は非常に大きなものだけれども、それを使うことによって逆説的に物語の時間は引き延ばされていく。

三宅唱:いまお聞きしていて、時間を引き延ばすという点と、監督がおっしゃった「自分はペシミストである」という点が奇妙に同居していることに気付きました。例えば、ダンスするシーンが二度ありますが、僕はとてもいいダンスだと思ったのでもっともっと続いていてほしい、曲の終りまで躍っている姿を見たいと思いました。そう思う僕はペシミストじゃなさそうですね。一方、あなたはそのダンスシーンを途中でばしっとカットする、あるいはフェードアウトする。これはあなたがペシミストである一つの証拠なのかな、と思いました。何かを引き延ばしたい、あるいはえんえんと終わらない時間がある一方で、それとはむしろ逆に途中で終わってしまう時間がある。
フランシスコ・ガルシア:それ凄く素敵な見方だと思います。

三宅唱:引き延ばすことと途中で終わってしまうことの妙なアンバランスさが、あなたの映画なのではないかと思いました。
フランシスコ・ガルシア:凄い面白い観察をしてくださってありがとうございます。確かに引き延ばすっていうのはあるんですけれども、今考えてみるとあれでいいと自分はその時に思ったみたいですね、というのは、とんでもなく長いものを作らないようにしたかった。最低限これだけはないと、というところで切っていくことが必要なのかなと考えた、だから長く撮ったんですけど、編集の時点で切った。やはり一番最初の作品だということもあって、短いものを心がけるっていうのはいいことなのかなと考えたんです。全部使いたいから切らないでいくというのはやっぱり避けたかった。なるべく短くしてそこにまとめる、まとめの力というか、そういうものを拾っていくべきなのかなと考えたんです。


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